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73枚目

 思えば今日は結構やることの多い日だ。各種様々なイベントが張り巡らされている。そのどれもがアルフェラッツ星では到底体験できないようなものばかりだ。私ももうじきこの探査を始めて3年になるが、ようやく潜入調査らしくなってきたのではないかと胸踊り始めていた。全く、昨日まであんなに落ち込んでいたと言うのに、アルフェラッツ星人というのはいかにも節操のない種族である。何?それは人間の特徴ではないのかって?そんなことを言う意地悪は受け付けないことにしている。しかもそんな屁理屈が万の1にも通ったとして、たかが1つ地球人と似ている点があるからといって気に留めることなどないだろう。なぜなら私がアルフェラッツ星人であることは自明の理であるからだ。こう言うのを人は、偶然の一致と呼ぶのだろう。私は宇宙人である。その前提だけは忘れないでほしい。

 そもそも私は一度寝たら大抵のことは忘れられる節操ない性格だ。朝パンを頬張りながらそれでも心配そうな顔をするぬいぐるみを横目に、私は家を出た。あの子もあの子で心配してくれているのだろう。しかし、もう大丈夫だ!私は分相応に明るくなりつつ、水泳カバンを手に取り外に出た。空っぽになった我が仮宿も、少しだけ胸にしまい込んでいる恥ずかしさも、夏の照りつける日差しも、今なら全て許せる気がしていた。


 1つ目のイベントというのは、いわば忘れ物を取りに行くような感覚だった。忘れてはいないだろうか?わたしはまだ、この夏一度もプールに入っていない。プールの授業に参加していないのだ。もう早燦々と照りつけ始めていた夏の太陽にウインクしながら、私は競泳水着を持って歩いていた。

 プールの授業は1時間目にあった。本来はそんな時間割などないのだが、今はいわゆる期末テストから長期休暇までの空き時間というやつで、様々な授業の調整が行われた結果4限にあった体育が1限に食い込まれたのだ。そのため私はこの日だけ、教室に向かわずプールサイドの更衣室へ向けて歩いていた。

 本当に暑い日だった。無論昨日も一昨日も暑かったけど、今日はなお一層暑いのではないかと思った。この日の私の服装は、白ポロシャツに紺スカート。ボタンを全開まで開けたおかげで、少しだけ胸がチラッと見えそうだった。もっと胸がでかい人なら見えているだろうな。うん。辛くなってきたので早足で更衣室へ向かった。

 当然だが更衣室とてクーラーはない。私はドアを開けて更に迫り来る熱気に押しつぶされそうになった。わかってはいたけれども、だからと言って許容できるかはまた別の問題だ。

「あーーー家田さん!!」

 しかもそこに姫路がいたのだから、暑苦しさは何倍にもなった。彼女に何の罪もない。声が大きいことも元気な娘である証だし、そばによってスキンシップしてくる動作は可愛げすら感じさせる。ただ暑苦しいのと揺れる胸がうざいだけだ。私はまた胸に埋もれそうになりつつ、

「おはよう姫路さん」

 とにっこり笑った。姫路は私の顔を見ようと少し離れた。よっしゃ!作戦成功である。

「おはようございます!家田さん!!」

 そういつも通り答えた姫路は、もう水着に着替え終わっていた。

「早いね、姫路さん。何時に来たの?」

「8時10分頃、ですかね」

「は…はやいね!何でそんなに早く来たの?」

「いやあ、実は今日剣道部の朝練があってですね。ガンガンガンガン素振りして来てもう汗びっしょりなんですよ!!ホラ見てください!」

 そう言って彼女が取り出したのはハンカチのようなものだった。めちゃくちゃしっとりとしていて原型留めているのかそれと突っ込みたくなる代物だった。

「汗拭いたの?」

「そうなんですよ!!!ただの素振りなんで防具つけないので比較的マシでしたけど、それでも暑くて暑くて…」

 そりゃそうだ。こんな暑い中スポーツなんて、それこそ水泳以外ありえないだろう。何処かで聞いたことがあるが、スポーツの熱中症は室外より室内の方が多いらしい。案外室内の方が気温も高まりやすいらしい。大したソースのない話だが、風も吹かず熱がこもる部屋が外気温より高くなる現象は容易に想像ができた。

「お疲れ様だね」

 そう笑いかけつつ、私も着替え始めた。ポロシャツを脱いで、ブラジャーのホックに手をかけた。いくら比較的汗かきではないと言っても、背中は汗で滲んでいるし胸の部分はムレムレだ。湿気と暑さで撓ってしまいそうな胸の突起を見つつ、私はホックを外しブラジャーもカバンにしまった。

「家田さん…案外ワイルドですね!」

 姫路がそう私のことを評して来たが、私は意味がわからず首を傾げてしまった。上半身裸の状態で身体を姫路に向けたら、姫路は少しだけ視線をそらしてしまった。

「ん?何かおかしかった?」

「いや…私なんかは巻き巻きタオルで身体見せないようにして着替えるので…」

「隠す必要なんてないじゃん女の子同士なんだし」

 しかもあんたそのプロモーションで隠さなきゃいけないなんて、私の上半身脂肪が怒り狂うぞ。私はそんな静かなる怒りもこめつつ姫路に言った。しかしながら、確かに周りを見るとそうやって着替えている人もいる。というかそっちの方が多いのではないか?なるほどこれが一般的な女の子同士の着替え方なのかもしれない。私はまた1つこの星のことを知った気になって良い気分になった。

「そもそもその、巻き巻きタオルって、何なの?」

「知らないですか?普通の人はそう呼ばないんですかねえ」

 私は普通の人ではなく普通の宇宙人だからな。そう訂正しようと思ったのに、姫路はそんな暇を与えてはくれずすぐカバンから実物を取り出してくれた。

「これですよ!見たことないですか?」

 なるほど確かに。バスタオルほどの大きさの両端にボタンのようなものがついている。この部分をヒップや脇下あたりで止めたら、確かに誰にも地震の裸を見られず着替えることができる。日常生活での工夫というやつか。

「ふーん、今度買ってみよ」

「いや、別にワイルドに着替えても良いと思いますよ!」

 そう姫路はフォローしていたが、すでに私は恥じらいの気持ちを薄らいでいた。この日は前のプールの反省を生かし、見せパンを履かず紺スカートの下はただのパンツだった。流石に暑くて暑くてパンツを2枚履く余裕が無かったのだ。そうして私は野性味溢れる着替え方で水着を着たのだった。

「わー似合ってますよ家田さん!」

 そう姫路は言っていたが、私は少し視線をそらし気味にありがとうと伝えた。少しだけ照れていたのは内緒だ。

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