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71枚目

「あーそんなやりとりありましたね」

 私が絶望的な顔をしているのを尻目に、姫路はのほほんと過去を回想していた。すっかり忘れていた。そういや亀成君と結城はテストで勝負をしていたのだ。そういえば、彼は何でこんな勝負に乗ったのだろう。最初私は、彼は自身の欲望を満たすためにテスト勉強を始めたのだと思っていた。しかしどうやらそんな様子ではないらしい。ならば、もしかして暇つぶしみたいに勝負に乗ったのだろうか。野球部へのモチベーション低下に際して、あの亀成の面倒な口調とやり取りに辟易してテスト勉強をし始めたのかもしれない。そういうことなのか。ならば私もう関係ないからその勝負無効でいいのではないでしょうか?

「結城因みに今何点なの?」

 私は恐る恐る結城に尋ねた。

「んーと、570点」

 案外あっさりと答えてくれた。結城は表情一つ変えていなかった。なんだこいつ、この勝負どうでもいいならそもそも降りてくれませんかねえ。

「は?570点!?!?おまえめっちゃ賢くなったな」

 そう言う有田に親指をぐっと向けた結城は、これ以上ないどや顔だった。

「後リーディングがあるから…今63点くらい?」

「家田、暗算すごいな」

「あら有田知らなかったの?私の母星であるアルフェラッツ星はとても数学的知識が発達しているのよ。こんな計算なんて誰でも…」

「俺なんてまだ400点ちょっとしかねえぞ」

 有田に無視されて私は頬を風船のように大きくした。おいなんだ有田。お前が私に訊いたんだろ?なんだそのいつもの戯言みたいな顔は。いつか技術が発達したら彼を我が星に連れていきたい。水素とマンガンで頑張って呼吸をしていきたいものだ。

「因みに家田さんはどれくらいなんですか?」

「823点」

 私はサラッと答えた。そしてその瞬間に周り三人は化物を見るような顔をし始めた。正直に言って、私は今回恐ろしいほど点数がよかった。リーディングが何点かによるけれども、今の所は平均点91.4点の最高点100点3つという好成績だった。特に数学が謎の好成績をあげており、まさかの二つとも100点という最早教師側、テスト側に問題があるのではというレベルであった。

 姫路がいきなり席を立ち、鞄をあさり始めた。私は怖かった。またこの人、いきなり怒鳴り始めたりしないだろうか…

「なあ、家田。お前って、俺達が思っている以上に賢いんじゃねえの?」

「流石にドン引き」

「後10点差…後10点差…」

「な、何よ何よみんなしてそんな!!私もちょっと驚いてるんだから…まさか自分がこんなに点数取れるなんて」

 主に数学のお蔭だしな。むしろ社会系の科目はちょっと下がったくらいだったし。

「そ、それよりさ、亀成君はどれくらいとれてるのかな?」

 私は私への関心をそらすために言ったのだが、それに過剰に反応した人物がいた。

「名前を呼んでくれたんだね。家田さん」

 いきなり後ろから声を掛けられたので、私はぎゃぁと大きな声を出して仰け反ってしまった。そして、本当に偶然に、本当に偶然に、とある人間にぶつかって2人とも倒れてしまった。そして私は、その人に上から乗る形になってしまった。

「いたた…ごめんね!姫路さん」

 彼女の柔らかい胸を少し感じながら、私は下で私を守った形になった彼女に謝った。なに?そこは結城にぶつかるべきだろうと?ふざけるななんでそんなことをしなければならないのだ!本っ当にやめてくれ想像しただけで顔が赤くなるだろう。何?なんで顔が赤くなるかだって?それは…ねえ。

「いや、大丈夫ですよ。それよりも亀成さん!」

 姫路は心なしか顔を赤くしていた気がしたが気のせいだと思うことにした。そして彼女はむくりと起き上って、まだ少しだけ驚きで足がすくんでいる私を差し置いて亀成を指差した。

「いきなり驚かさないでくださいよ!!それになんですか?何しに来たんですか?」

「いやいやいま彼女が僕のことを呼んでくれたじゃないか。君にそういう風に言われるゆえんはないだろう。ねえねえ、何で呼んでくれたのかな?やっと素直になって、僕のもとに来てくれることを決心してくれたの…」

「亀成今テストの点数何点?」

 結城は途中で話を遮った。それに苦い顔をしながら、亀成はこう答えた。

「…573点。いつもより調子は悪いが、しかしここで勝たせてもらうよ。なんせ僕の得意科目、リーディングでね!!!!」

 いつもより調子が悪い、なお結城の方が点数が低い模様。結城は少しだけ焦った顔をしている気がしたが、あまり表情が読めなかった。でも、それが結城らしいと言えば確かにそうだった。

「これは楽しみですなあ」

 有田は完全に部外者からの煽りを繰り出していた。お前はいいな。適当で。まあ有田が本気でガチ話を始めても怖いだけかもしれない。やはり、人には身の丈というものがあるからな。そう思いつつも、どことなく険悪な雰囲気の二人を眺め心を痛めていた。


 「すみませんっすね。時間を取らしちゃって」

 私が沢木に呼び出されたのは、結城たちと別れ、バイトに入る直前の遠垣から『カラオケで盛り上がる曲探しておきますね♪』という連絡がきた直後だった。家の近くにあるファーストフォード店で、私と沢木は待ち合わせをした。

「こちらこそ待たせたでしょ?」

「なんか困ったことでもあったんすか?」

「あーまあ、うん。まあいいか、向こうの遠くの方を見て」

 沢木は多少大げさに目を細めた。

「あそこに姫路がいるわ。私のことが心配らしくてついて来ようとしたらしくて、説得するのに時間かかった」

「なるほど…お疲れ様っすね」

 うーん、どことなく沢木の元気がなかった。先ほどの話ではないが、その人がその人らしい行動をとれていないというのは、どことなく違和感があって嫌だ。日頃私の話を全く聞いてくれない沢木が、こんなところまで呼び出して静かな状態というのは、どことなくざらざらした気がした。

「で?用件は?」

「簡単な話っすよ」

 私は覚悟した。注文したオレンジジュースを机に置き、手を膝の上においた。そして困惑した表情の沢木を、じっと見つめた。

「仁ちゃんについて、何か知らないっすか?」

 覚悟した通りの質問だった。私だって気になっていたのだ。あんなにも仲がよさそうだった2人が、全く話していないということに、私は心に一抹の不安を持っていたのだ。

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