69枚目
駆け足をしながら駆け出していた私は、体育館に着くまでに失速していた。一切後ろを振り返らずにまっすぐ前を向いたままだったのだが、遂に柱に捕まりはあはあと息を切らしてしまっていた。これは単に体力不足だからではない。
なにこれ、なにこれ、なにこれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!
私は柱に頭をがんがんとぶつけながら顔を真っ赤にして崩れ落ちてしまっていた。完全に動揺していた。もうこんな姿誰にも見られないほど動揺していた。
いやいや、私何してんの!?!?何結城に抱きついているの!?!?!?なんなのあのセリフ青春臭くて仕方ないんだけど!!!!なんだよ一緒に虚夢を見ようって!!!!なんだよ私が征服しちゃうわよって!!!!なんで私、あんなこと言っちゃったんだろう……何であんなことが言えたのだろう。普通のテンションだったらあんなこと言えねえよ!!!恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ねえわ!!!!あーもう、これからどうやってあいつと顔合わせたらいいのよぉ。あんなこと言って、もうまともに顔合わせるなんて無理よぉ。
もう完全に後悔していた。結城を私なりに励まそうとして、全然うまく言った気がしなかった。というか私の言いたいこと、伝えられたのだろうか?とても不安であった。それでも…うまく言えなかったかもしれないけれど、私の言いたいことは言えた気がする。元気になってくれたらいいな。今まで通りの面倒な結城が戻ってくれたな良いな。そう思いながらもでも、まだ立ち上がれずにいた。
いやいや無理だよ?前も言ったけど私は恋愛経験知0の宇宙人だよ!?青春小説の主人公じゃないんだよ!?
そんな臭いセリフすぐに吐いて元に戻ることなんて、そんなことできないからね?そんなこと…
「家田さん…」
「ひぃやい!!!!!!!」
私は声を掛けられただけなのにすごい大声を出して振り返ってしまった。声の主が結城だったからだ。だめだだめだ顔がまともに見れない。
「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ、結城ぃぃぃ!!!!あんたいつからそこに居たの??????」
「ついさっきだよ。というか体育館に行こうって言ったんだから、そりゃ体育館に向かうだろ?」
おい結城、そんな正論はいらんのだ。私は全身真っ赤になった状態で、うずくまったまま下から目線をしていた。右目からしか見えないから、結城が同じく赤い顔をしているのかは判別できなかった。こんな情けない私の姿を見て、結城は小さなため息をついているのは解った。
「お礼、ちゃんと言ってなかったからさ」
そう言ってもうないはずの帽子のツバを触るような動作をしていた。
「ありがとうな、家田。本当に…ありがとう」
私はその姿に感動を覚える前に、襲い掛かってくる結城の右手に少し動揺した。彼の手は私の左腕を掴んだ。
「おい宇宙人、お前の本当の肌色は赤色なのか?」
私は結城の手を優しく振りほどいた。そうだ私は青春時代の高校生じゃないんだ。宇宙から来た侵略者なのだ。だからこんなところでいつまでも顔を赤くなっている場合じゃない。
「何言ってるの?私の本当の肌色は白色よ。ほら色白でしょ?」
「なるほど、家田の肌白はただインドアなだけじゃないんだな」
おうなんだ?嫌味か?完全に色黒になっていた結城に向かってそんな顔をしたのち、私は体育館の方へ向かい始めた。
「にしてもさっきのお前、やっぱりなんか変だったぞ」
「は?あんたの方が変だったでしょ?何よさっきまでのあんたの冷めた態度。あんなの本当のあんたじゃないわよ」
「俺は冷静沈着さでは定評があるんだぞ」
どこでだよ…私は呆れてしまった。それはただ静かなだけだろうと、私は自分のことを棚上げして突っ込んだ。
「それになんか、宇宙人が無理して人助けしてる感じだった」
なんだその状況。
「…不満あるの?」
「いや、むしろ嬉しかった。ありがとう」
おいこら。やめーや。そんなことを言われたらまた、照れて赤面で死んでしまうではないか。そんなことを思っていると体育館の入り口まで着いていた。
「あ、結城」
「なに?}
「ここからはあんた1人で行って」
「なんでだよ?」
「何でって、2人で一緒に遅れて参加したら怪しまれるでしょ?」
「ん?なにをかな?」
結城は少しだけ意地悪な笑いをした気がしたので、私は無言の背中蹴りを喰らわせ、
「さっさと先に行って」
と言って先に送り出した。結城はまた真っ赤になった私の顔を確認してから体育館に入っていった。あいつ少し意地悪やすぎないか?そんなことを思いつつ、ほんの少し間をあけて私も合流した。
「おうおう家田?見てたか見てたか俺らの試合??」
さて問題である。この発言は誰がしているでしょうか?ヒントは日ごろよくつるんでいるにもかかわらず本日まだ私が一回も会話していない人物だ。
「うちらのAチームやばかったぜ。なんせ19点差だからな。俺とこんちゃんで点取りまくってやったぜ。しかもやばくね?3ポイントシュートはいったんだぞ?」
「ごめんちょっと用事あったから体育館から席外してた」
そう正直に言うと有田は顎が外れんばかりに口を開けて驚いていた。小顔な顔が台無しなほどだった。
「お前…俺のヒーローの姿をもっと見てくれよ」
「遠垣ちゃんいないのに…」
私はそうぐさりとくぎを刺した。これはさっきから女子たちにキャーキャー言われていることに対してもだが、私に馴れ馴れしく声をかけてきたギルティも含まれていた。おい辞めてくれもう私はお前のファンクラブに絡まれるのは嫌なのだ。
「にしても今まで何処ほっつき歩いてたの?帰ってこない方が戦力だったけど」
そんな空気を悟ったのか高見は口悪く言ってきた。
「ごめんなさいね」
私もそれを嫌味っぽく返した。まあ私がいない方が戦力なのは事実ですし。
「そんな言い方しないでください!!!家田さんはこのチームのキャプテンなんですからね!!!!」
だから姫路、私を庇わないでください。
「と、とりあえず、次出し頑張ろう」
そう言って小さく手を突き出した濱野を見て、こいつぶってんじゃねえよと言いたくなった。まあこれも彼女の虚夢というやつなのだろう。
「ねえ、家田。ちょっと」
そう言って呼んだのは、意外にも出森だった。私に何の用があるのだろう。もう時期試合が始まるというのに…
「どうしたの出森さん?」
私は少し小さく声をかけた。それに呼応してか、内容のせいか、彼女も小さな声になっていた。
「プールサイドの裏って、体育館から見えるのよ。知ってた」
……へ???????
「ほらここって武道館が一階で、体育館が二階でしょ?この二階からあんたらの姿を見えたわよ」
噓でしょ?嘘でしょ?じゃあさっきのやり取り…もしかして…
「落ち込んでたりなんかあったのは認めるけど、流石に校内で抱き合うのは止めてくれないかなあ。イラついて仕方ないから」
み、み、見られてただってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
………その後のバスケは、動揺のため足を引っ張りまくり、三度の転倒を引き起こすひどい結果に終わったことは言うまでもないだろう。




