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64.25枚目

「第1回、家田杏里を元気づける会を発足しよう!!」

 有田君の提案に、周りは神妙な面持ちで手を叩いていた。

「本当に、どうしたんでしょう。入ってきた瞬間から一言も口を利かないまま、どさっと座って全く動かないんですよ…」

 姫路さんは本当に心配している様子だった。声と表情がそれを訴えていた。

「結城先輩も同じ感じですよね。2人の間に何かあったとみるのが妥当な線でしょうか」

 一年生の子…名前は何だっけ?もなぜか参加していた。しかし一番引いた目線で見れているような気がした。

「昨日の審判が終わった時も同じ感じで…いったいどうしたのかなあって」

 阿部ちゃん、そんなに家田と仲良かったかな?というくらいの心配ようだった。

「痴情のもつれか、恋愛関係か、結城に何かされたか…」

 そして今野は何故参加しているのだろう。まあそれに関しては私もそうだが、それにしても想定課題がひどい有様だ。もしかしたら今野を見た目から清廉な人間だと思っているクラスメイトがいるかもしれない。そんな人には幻想を捨てろと強く言いたい。彼は普通の男子高校生の3倍は健全だ。なにが健全かは言わないでおく。

「そもそもなんで今野君がいるの?」

 阿部ちゃんのこの言葉に今野は表情一つ変えずにこう言い放った。

「クラスメイトの危機はクラスの危機だ、そうだろう」

 全体主義者かお前は。クラス委員がクラスメイトの事情に介入するなとアナキストの私は言いたくなる。まあそんなこと、絶対に言えないんだけど。

「濱野さん!」

 いきなり姫路さんに呼ばれて、私はひゃいって声を出してしまった。

「濱野さんはどう思います?」

 そう、私はなぜかこの会に参加することになってしまったのだ。このクラスで家田と話したことなんて数回しかないし、結城君なんて話したことないのに…でも実は、私が呼ばれたのは理由があるのだ。その理由に関しては、私は言い逃れができなかった。

「え、えー」

 私は言葉を詰まらせてしまった。確かに呼ばれた理由についてはよくわかるが、だからと言って私が彼女と関わってきたかについてはまた別問題だったからだ。

「でも、当人同士のことならほっといた方がいいんじゃ…」

「それは違うよ濱野さん」

 何が違うってんだ有田君。そんな風に荒っぽい口調で強く訴えられたら、どれだけうまく生きて行けたであろう。しかし現実の私は、え?え?と動揺するので精一杯なのだ。

「あんな状態の二人なんて、ほっとけるわけないでしょ!?」

 姫路さんも同調したが、なら私を呼ばないでくれませんかねえ。

「ご、ごめん…そうだよね」

 無論口は脳とは分離した動きをしていた。こんな自我が乖離した状態、もう慣れっこだった。

「でもあんまりしつこく聞いちゃダメよね。あんな風になるってことは、結構大変なことが起きてるってことだから…」

 阿部ちゃんの心配に今野も同意していた。

「そうだな。男女のことは余計に首を突っ込むと、今度はこっちに被害が来るからな!」

 相変わらずのピンク脳だが。

「よし、じゃあ俺がまず先陣切って来るぜ!」

 そう言って席を立ったのは有田君だった。おお、なかなかの自信家だな。

「あ、ちょっとま…」

 そう言って姫路さんが止めようとしたのを、一年生の子が静止していた。そういやこの子、よく有田君と突っ伏している2人と4人でご飯を食べていたな。彼ら彼女らなりの信頼感というものがあるのかもしれない。

 家田の近くへ来て、有田君の第一声はこれだった。

「家田、結城と何かあったのか?」

 ど直球ストレート!気持ちがいいほどの真っ直ぐだった。無論私の周りの人間は、全員が顔を青ざめていた。なんせ家田と結城君は隣の席なのだ。それなのにこの声のかけ方は、最早確信犯にしか思えなかった。

「何されたんだ?どんなひどいこと言われたんだ?なんでもいいから話せよ!なんでも聞く…」

 家田は全く反応しなかった。むしろ過剰反応をしたのは姫路さんの方だった。だっとかけだし、有田君の首元を掴んだ。

「あ、ちょっと…」

「い、家田さん!忘れてくださいね…」

 そうフォローをしつつ、姫路さんは有田君を引っ張って帰って来た。

「あなた、バカなんですか?」

 姫路さんは呆れた顔をしていた。

「や、なんで?オブラートに包んだじゃん!」

「あなた一度オブラートの定義を考えてください!!あんなストレートに物言って、口を開くわけないじゃないですか?というか遠垣さん!!」

 姫路さんの大声に、呼ばれた遠垣さんは少しだけビクついていた。

「何で止めたんですか?この結果になることは目に見えてたじゃないですか!!!」

「や、案外考えなしに聞いたら口開くかなあと思って。さすが有田先輩期待を裏切らないですね」

 ひどい話だ。この1年生、並の1年生じゃないぞ。というか、いくら教室の対角だからといっても、大声だと突っ伏してる2人に聞こえるんじゃないか?そんな配慮を考えているのは、多分私だけだった。

「いやーそれほどでも…」

「褒めてないですよ有田君!」

「んじゃあ姫路先輩行って来てくださいよー」

 そう言われたのち、どうやら気づいたようだ。彼女が話しかけることを、全力で熱望されているということに。そして姫路さんはそれに屈し、家田の方に近づいて行った。

「あのう、家田さん?」

 無反応だった。

「き、今日は球技大会ですね!」

 無論無反応継続である。

「頑張りましょうね!」

 いつまでたっても生体反応は無かった。

「家田さん!何かあったんですか…」

 意地でも反応がなかった。姫路さんは遠慮しながら肩を揺さぶったが、それでも反応はなかった。彼女はたいそう落ち込み、肩を落として帰って来た。そりゃそうだろうな。こんな簡単に声をかけて反応するようなら、そもそもこんなことにはならないだろう。その後姫路さんは結城君にも同じことを聞こうとしたその所で、2限開始のチャイムが鳴り響いた。家田杏里を励ます会は、一旦お開きとなったのだ。

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