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58枚目

「あらー高見さんお久しぶりねえ。最近めっきり落ち着いちゃって、昔みたいに私をぼろ雑巾のように扱ったっていいのよ。むしろその方があなたらしいわよ、ねえ?家田さん」

 出森は厭味ったらしい口調で高見を煽った。彼女の持ち味の一つで、普通の人間ならばむきになって彼女に反論したくなる。そんな魔法のようなものを秘めた笑いだった。

「は?何の話?妄想で人のこと悪く言うのは大概にして」

 高見も例外ではなかった。というか、妄想で人を悪く言うなとか、己はこの前のことを念頭に置いて言ってんのかと突っ込みたくなった。

「それよりも姫路、あんたが運動部枠とかマジわらえるんだけど。あんたみたいな長距離と剣道しか取り柄のないどんくさいやつ、足引っ張んないでよ。ねえ、家田」

 高見は高見で口が悪い。単純に純粋に何も付加価値をつけずに口が悪い。ここまでの純度はもしかしたら貴重なのかもしれないと錯覚するほどだった。

「人のことをどんくさいなんて言わないでください!!確かに私は球技は苦手ですけれども、全力で頑張ります!!」

 そう言う点では姫路には安心感があった。彼女はめったに人の悪口を言わないからだ。少し周りが見えなくなる時もあるが、彼女は基本良い娘だ。

「それ以上に、貴方達2人はもうこれ以上何もしてこないでくださいね。家田さんがミスしたからって陰口を叩いたら、今度こそ許しませんよ!うちの家田さんは運動ができないんですから!だめなんですから!どじっ娘なんですから!!!」

 …うん、前言撤回だ。姫路の言葉で、私のテンションはがた落ちしてしまった。いや確かに事実だけどさあ。言い方というものが…

「ねえ、家田さん!!」

「いや、ねえじゃないから」

 ついに私は突っ込んでしまった。なに3人して語尾に私をつけているんだ。喧嘩するのはいいが私を巻き込まないでくれ。こんなのでバスケなんてできるのだろうか。不安になったが、今回ばかりは私の出る幕はない。何故なら私は宇宙人で、運動ができないからだ。ただ運動ができないのではない、宇宙人で、そのために運動ができないのだ。決して誤解していただきたくない。ただの運動神経悪いJKではないのだ。

「ま、まあ当日がんばろ…ね!?」

 濱野が必死に纏めようとしていたが、完全に3人ともメンチを切っていた。まあそれも仕方ない。この3人には複雑な因縁があるからな。今オドオドしている濱野は恐らく知らないだろうが。

「まずは高見つぶす」

「なら私は姫路」

「私はどちらなんて選びません。両方ともすりつぶします!」

「あんたら…チームメイトなんだけど…」

「みんなぁ、仲よくしよーよぉ」

 改めて顔を合わせても、ひどい顔ぶれだった。私は球技大会がどんな結果になろうがどうでもいいからいいが、風紀委員でもある濱野は半分涙目になりながらあたふたしていて、少しだけ助けたいと思った。ん?姫路の味方をしろ?確かにいつも私側についてくれるのは嬉しいが、彼女もそろそろ反省が必要な時期だと私は思うのだ。

「B班リーダー決まった?」

 阿部はのんびりとした声で尋ねてきたが、無論決まっているはずがない。私は頭をポリポリ掻きながらため息をついた。

「話し合いで決めたら一生かかるから、もう私やるよ」

「あ、ほんと!ありがとう、頑張ってね!!」

 私は仕方ないなあと言いつつペンを持った。なるべく睨み合う3人に気付かれないように名前を書いた。ここで濱野に一任してもよかったのだが、たぶん彼女がなったら過労と心労で死んでしまうだろう。いや、大げさではなく。

「ありがとう…家田さん」

 濱野は少しだけ後ろ側にはねた髪の毛をひょこっとさせつつ、私に向けてお辞儀した。ふん、まあいい。なんたって私は宇宙人だからな。我が星存続のプロジェクトの1人として大きな責任をすでに背負っているのだから、こんな小さなチームの小さな責任などへでもない。余裕綽々でこなしてやろう。そう私が無駄に胸を張っている時もまだ、男子チームはまだ作戦会議をしているようだった。


「せーんぱい♪」

 やたら陽気な声が聞こえたかと思ったら、ドアを開けて遠垣が顔をひょっこり出した。そして私達のクラスがまだお取込み中であることを察して、少しずつドアを戻していっていた。いやまあ、先生も自由解散って言ってたし、別に入ってきてもいいと思うけどなあ。そう思った私は、阿部と今野の言い争いの間を割って遠垣の方に近づいていった。

「あ、先輩すみません。てっきりもう終わってるのかと」

「まあ終わってるようなもんだよ。あれ、球技大会のチーム分けしてる」

「あー球技大会ですか?うちの学年はサッカーとバレーでしたよ!でもそんなにかかるもんですか?」

「いや…なんかね」

 そう言って私は男子たちを横目で見た。男子たちは女子のドッチボールの組み合わせを見せろと懇願しているようだった。

「いやだからさ、戦力均衡のために必要なプロセスだって」

「絶対うそでしょ?どうせ下心で気になる女の子とおんなじチームにしたがってるんでしょ」

「違う!人員を把握することは…」

「そもそも男子、女子で均等に割ったらそれだけで戦力均等でしょ?何が悪いの?」

 今野と阿部の言い争いというか、しょうもないやりとりだ。

「まあ、こんな感じにね。下心ある男子たちが気になる女の子と一緒になりたがってねだってるのよ」

「ホント男子って、サイテー」

 遠垣はめちゃくちゃ冷たい声でバッサリと斬った。確かにこういう姑息な下心というのは、彼女が最も嫌っていることかもしれない。

「そっちのクラスではなかったの?」

「や、そもそもサッカーなんで男女別なの」

 あーなるほど。サッカーを男女混合にしたところで、男子ばかり活躍してしまうからな。妥当な判断である。

「多分うちのクラスでも男女混合にしたらこんな感じになると思います」

「えーうちのクラスくらいじゃ…」

「いや、絶対そうですよ!」

 遠垣は断言していた。何の根拠がと思ったが、目の前の醜い事象が根拠だと言われても言い返せる気がしなかった。

「たとえそれが下心だとして、何が悪いって言うんだ!」

 斬新な言葉が飛んでいったかと思ったら、発言主は有田だった。ほう、その心をきかせてもらおう。

「生徒会から男女合同という話が出たということは、つまりそういうことなのではないか!男女の仲をよくしようという目的に決まってる!」

 有田は堂々と言い放っていた。恐らく教室に遠垣がきていることに気がついていないのだろう。

「そうだそうだー!いいっすよ雄二!!」

「可愛い子がいないとやる気が出ねーんだよ」

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」

 それに沢木を中心とした他の男子達が同調していた。因みにこの時の遠垣の顔は、まるでゴミ虫を見るかのような顔をしていた。

「大体…」

 そうして、そんな見下し100%の顔をしている時に、有田は遠垣の姿を発見してしまったのだ。しばし固まった有田と表情が固まったままの遠垣の対比が、やたらとコントラストになっていて面白かった。

「おい、どうしたっすか…」

「あー遠垣さん!来てたんですかー」

 沢木の心配を遮るかのように、遠くから姫路ののんびりした声が鳴り響いた。この直後、有田は抵抗をやめ、その場で崩れ落ちてしまったのだ。恐らくこの場面の因果を1から10まで理解できていたのは、私だけだったと思う。

「参りました…」

 地面に伏せた状態で、有田は声を絞り出した。これが阿部に対して言った言葉ではないことは、私にのみ確信しうることだった。そして遠垣はというと、未だに表情を固めてじっと有田を見ていたのだった。



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