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57枚目

 そうした、訳の分からない雰囲気を纏った状態で、テストは始まったのであった。ここからテストの話がしばらく続くのだろうと読者は思ったかもしれない。しかしながら、この結果に関してはまた後の話ということで保留させていただきたい。これは決してこの後の展開についてもったいぶっているという意地の悪いことではない。私は宇宙人だ。意地悪く人をいじめる地球人とは違うのだ。そんな理由でぐだぐだすることなどない。なら理由はと聞かれたら、単純に結果が出るまで時間がかかった、ということ以上に、もう一つの大きな行事が始まろうとしていたのだ。この頃の私は忙しかったのだ。ご了承していただきたい。

「んじゃ、球技大会のチーム分けを決めるよ!」

 学級委員の阿部と今野が前に立って、皆に呼び掛けていた。三限終わりのHR、これが終わる明日からテストが始まるということで、特にまじめなクラスメイト達は内職をしながら話を聞いていた。無論勉強が苦手なメンバーはぐちゃぐちゃ話しながら聞いてすらなかった。このクラスを纏める2人はなかなかの手腕だと思う。

「球技大会は体育館でやる競技と運動場でやる競技とに分かれています。2年生は体育館の競技がバスケ、運動場の競技がドッチボールになります。よろしいでしょうか」

 無論よろしいわけがない。誰しもが聞いていない状態だった。私は頬杖をつきながらぼおっと見ていた。隣の結城はこんな時間も勉強していた。一番前に座る亀成も勉強していた。こいつら…私は苦い顔をしていた。

 こんな状態を解決すべく、今野は衝撃的な一言をぶつけてきた。

「因みに今回は男女混合だぞ」

 この言葉で、うるさくしていた男女たちも、われ関せずと勉強していた男女たちも、みんな一斉に黒板に向いた。教室で勉強を続けていたのは姫路と亀成と結城だけだった。まあこの3人はてこでも動かないであろう。そんな風に、教室が静かになったタイミングで、続いて今野が口を開いた。

「男女ともドッチボールでは10×2で、バスケは5×4のチームに分かれてください」

「いやそのまえにこんちゃん!」

「合同って?合同ってどゆことっすか?」

 有田と沢木がすかさず席を立って突っこんだ。補足しようとする阿部を手で遮って、今野は大きな声で宣言した。

「それじゃあ男女に分かれてチーム作って!男子は後ろに集合!女子は前の方使ってね」

 そう言っててくてくと後ろのほうに歩いていく今野を、まるで有名人に追いすがるマスコミのように男子たちがついて行っていた。ついで女子たちがのんびりと集まり始めた。

「んじゃ、決めよっか」

「その前に、男女合同ってどゆこと?」

 やたらきりっとした顔で高見が聞いていた。

「や、なんかドッチボールは男女合同の方が面白いんじゃないかって意見が出てね。男子だけ、女子だけで試合をした後で、男女合同チームで2試合、計4試合を行う」

「バスケは去年と変わらず?」

「うん変わらず。今年もよろしくね。高見」

 そう阿部が言うと高見がぐっと親指を立てていた。そう言えば高見は女子バスケ部だったな。女子バスケ部の人間は気の強い人間が多い気がするのは私だけだろうか。こんな大雑把なレッテル張りは止めておこう。そうしよう。

「ドッチボールは正直大して経験者とかないから、バスケから決めようか」

「女バス、女バス経験者、運動部、文化部って感じ?」

 おい帰宅部の私はそもそもなしか。前も話したかもしれないが、私達の学校は部活の所属している率が高い。あの出森でさえ、一応軽音部所属である。前の意地悪女3人組もそれぞれ女子バスケ部と声楽部とサッカー部のマネージャーである。このように、部活の所属しているのが当たり前の世界だからこそ、私や遠垣は少し肩身が狭いのだ。

 まあこの調子だと、私が決まるのは相当後だろう。そもそもバスケットなんて、私みたいにボーリングの球を落下させるほどか弱き人間には到底こなせないものだ。身長も低いし、役に立たないだろう。だからと言ってドッチボールにだって活躍できない。私に球技など無理だ。私は呼ばれるまで男子の方を覗くことにした。

 男子の方はまるで作戦を立てるアメリカンフットボールの監督のように、今野を中心として色んな人間が集まっていた。一体何をしているのだろう。まあ男と言うのは勝負ごとに負けるのが死ぬより嫌だと聞いたことがある。そう言うことなのだろうか…いや少し様子がおかしい。なぜか私達の女子の名簿を見ながら話していた。

「結城君見てるんですか?」

 そう言いながら肩を叩いてくる姫路に、私は崩れ落ちんとするほどびっくりした。ふわっ!という声が教室中に響き渡った。それに、男子も女子も気づき、私の方に視線を移した。

「あーすみませんすみません家田さん、まさかそんなに驚くなんて…」

「やっや、私足腰弱いから…」

 そう言って笑いながら立った。そして女子たちのグループに混ざった。

「ごめんごめん、ぼおっとしてた」

「ああいいよ。大丈夫」

 阿部はにっこりと笑った。阿部はショートショートな短髪が特徴で、本当にボーイッシュな爽やかさを醸した笑い方をしていた。

「というか、あんたバスケ中もそれしてるの?」

 それ?恐らく包帯のことだろう。高見は何を訊いているのだろうか。包帯なんて、取る選択があるはずがなかろうて。

「当たり前でしょ!体育のバレーでも取ってなかったでしょ?」

「そんなんでバスケできるわけないじゃん」

「もともとできないから大して変わりないわよ。だってボーリング投げて届かないレベルよ」

 私がそう自虐すると、女子たちはいっせいに噴出した。前に敵対していた真砂ですら腹を抱えていた。

「あれは傑作wwww」

「マジでビビったよ。あんなの初めて見たもんwww」

「でも結局私より点数高かったよね」

 それーという声が響いた。これがジョシコウコウセイトクユウノキャッキャ感というやつだろうか。私は自分で言いだした自虐ネタなのに、全く自分が対応できなくなってしまっていた。

「阿部さん私バスケ経験もないし、運動も多分一番苦手だから…」

「阿部ちゃんでいいよ。わかったよ。んじゃBチームでいいかな?」

 そういったBチームのメンバーを見てみた。「高見沙央梨、出森楼早、姫路纏菜、濱野恵子、家田杏里」ん?んんん?これはもしかして…

「んじゃ次はドッチボールにしようか」

 いったいどんな話し合いがあったらこんな最低なチームが出来上がるのか…私はチームワーク0のこのチームの今後を憂いていた。やはり人の話というものは、たとえ自分には関係ないと思っていてもしっかり聞くべきである。そんな教訓を得た私だったが、もうこの時には後の祭りというやつであった。後ろではもうすでに、高見姫路出森の三者三様三すくみが実現していたのであった。


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