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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第7章、結城仁智と亀成功太郎
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54枚目

 もやもやした気持ちを抱えたまま帰宅したこともあって、私の心はあまり晴れないまま次の日へと進んでしまった。立ち止まろうとしても時間は過ぎていく。また朝が来たらご飯を作り、包帯を巻き、自転車に跨るのだ。それが辛いかと言われたら、まあ辛い日だってあるけれど、今回に関してはそこまでではなかった。そろそろ期末試験だなあとか、今回は勉強会するのかなあとか、そんな呑気なことを考える余裕があった。

 何度も言うように、私は宇宙人だから、星のために働く社会人なのだから、こういう切り替えの早さには自信がある。ちょっともやっとしていたからって、それを言い訳にしないで自転車をこぐ私は、根源的にポジティブなのかもしれない。そんな戯言を呟きつつ、今日も校門をくぐった。

 自転車置き場から校舎に入ったところで、遠くの方に昨日嫌ほど見た人影を見た。眼鏡と並み水準の背丈は、ひょっとすると別の人間かもしれない。元々区別がつくほどよく知っている人間でもない。私はスルーすることにした。私の見間違い、見間違い、そう思うことにした。見えないことは嘘をつけるのなら、これも嘘がつける議題だ。そう思いながら階段を一つ上がり、教室の扉をガラガラと開けた。そこで繰り広げられていたのは、誰かに説明してもらわないことには全く状況が呑み込めないほどカオスだった。結城と亀成ががんを飛ばしている周りに、人が集まっていたのだ。

 そして私が教室の中に入った瞬間に、教室がどっと沸いたのだ。2人を見ていた聴衆がこっちに向いた。無論2人もこっちを向いた。

「真打、真打登場じゃん!」

 誰かが叫んだ。やたら煽りの意味が入っているように聞こえた。私はあわあわとしつつ、辺りを見渡していた。流石に私でも、このことを結城に聞きに行く勇気はなかった。誰か来てる人…知り合い…

「ではでは、お姫様が登場したとのことなので、ルールの確認と行きましょうか」

 やたら明るい声が聞こえた。聞き慣れた声だった。でもこの教室にいるはずのない人物の声だった。

「次のテストで、テストの点数が高かった方が、杏里ちゃんに一つだけお願いができる。そういうことでよろしいですね?先輩方」

 遠垣の言葉に、2人とも力強く頷いていた。よく知った人間が、よく知らないことを話している現実に、私は打ちひしがれていた。


「つまるところ…?私が素直になれていないのは結城のせいだと思った亀成が、今後一切彼女に近づくなといったと」

「うん」

「で?お前何勘違いしてんだよみたいなまともなことを結城は反論したと」

「結城はまともだろ?ひでえな」

「そしたら有田と遠垣が間を取り持つとか言って割って入ったんだな」

「まあ…そうっすね先輩」

「それで有田がお互い公平な勝負で決着つけようと…」

「そりゃ、その方が公正な勝負になるでしょ」

「そして勝者の条件として私に好きなこと一つ頼めるってことにしたと…」

「そ…そうです先輩…」

 私は机をバアンと叩いて思いっきり立ち上がった。

「何勝手なことしてくれてんのよあんたらぁぁぁぁぁぁ」

 そして私の叫び声が教室中に響き渡った。時は昼休みに突入していた。

「そもそも遠垣、何であんたがうちの教室に居たのよ!!」

 私はびしっと遠垣の方を指差した。行儀が悪い?知るか。

「い…いやあ有田先輩からマンガ貸してもらおうと思ってきたら、たまたまあんなことになっちゃってて…」

 あんなこと、とは二人が一触即発状態になっていたことだろう。そもそもなんで私抜きに二人が喧嘩を始めているんだ。当事者置いてけぼりじゃねえか。

「そうだぞ家田。これは仕方のないことだったんだ。もしもあそこで俺達が止めに入っていなかったら、この世界は滅んでいたかもしれないんだぞ」

 おい有田それは大げさだぞ。私くらいの宇宙人にならなければ不可能だ。まあ二人とも宇宙人以上にぶっとんでいるけどな。

「詭弁ですね」

 そうして言い訳を続ける二人を、姫路が斬った。

「二人を止めるだけだったら結城を落ち着かせるだけでも良かったですし、喧嘩ならただ単にどっちが強いのかやればよかったじゃないですか。なんで勉強にしたんですか?それに…なんですかこの勝者の条件?貴方達家田さんの気持ちを考えたことはなかったんですか!!いやそれ以上に、なんでそれをクラスのみんなに堂々と大々的に発表する必要があったんですか?????」

 気持ちいいほど清々しい正論だった。そこには当時朝練が長引いて教室におれず、2人の暴走を止められなかった責任のようなものも感じられた。2人はふし目になりながら、並んで縮こまってしまっていた。

「や…クラスに発表したのは俺じゃなくて遠垣さんだから…」

「あ?有田先輩こんなところで梯子外さないでくださいよ!」

「お…俺は案を出しただけだし…取りまとめたのは遠垣だし…」

「いまさらそんな言い訳しても無駄ですよ。同罪です。どうせよくわからないけど面白がってそんなこと言いだしたんでしょ?」

 そう言いながら私の隣に陣取った姫路はきっとこっちを見た。私は牛乳パックをぐしゃぐしゃになるまで飲んでから口を開いた。

「まあ、いいわよ。明後日からテストだから、のんびりテスト勉強してるわ。どうせ私のことなんて一週間以上たてば忘れちゃうでしょ。多分」

 そう言いつつゴミ袋にくしゃくしゃになった牛乳パックを入れた。

「あの…ごめんな家田」

「先輩ごめんなさい」

「ああいいっていいって気にしてないから」

 私はそう言いつつ手を振ったが、さすがにこれは目に見えた噓だった。怒っているというよりは、絶望感の方が先にあった。なんでか?私にとって、どちらが勝っても被害を被る気がしてならないからだ。もしも結城に勝たれてしまっては、また殺せ殺せの大合唱が始まってしまう。むしろ一回殺してしまおうか?なんで戯言は、冗談でもはく気にはなれない。一方で、亀成に勝たれてしまっては今度こそ何をされるのかわからない。付き合わされるのか、もっと別の要求をされるのか…いずれにしても、何を要求されるのかわからない不安感がそこには確実に存在していた。

 もしかしたら2人が喧嘩を始めた段階で、もうここまでの帰結は運命だったのかもしれない。そもそもなんでそんなことになったのか詳しく聞きたいと思ったが、結城は完全に距離を置いてしまっていた。隣でひたすら授業中勉強するその姿は、まるで別人のようだった。一気に自分の手元から遠くなる感覚がした。ちょっと傲慢かな。私は。

「そういえば、昨日の出森さんの呼び出しは…」

「あれ?亀成君に告白された」

 私は爆弾を投げた。クリームパンを食べつつ、辺りを全く見ずに言った。そのまま黙ってクリームパンを食べ続けた。もしかしたら少し怒ってたのかもしれない。ここ数日の勝手な言動発言に耐えきれなくなっていたのかもしれない。それでも私は顔を上げずにパンを食べた。周囲の驚く顔を尻目に、少し不愛想になっていた。

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