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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第6章、家田杏里と体育の授業
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47枚目

 なんで沢木がこんなところにいるんだ…?そんな疑問を思う間も無く、沢木は畳み掛けて話しかけてきた。

「え?杏里ちゃんっすよね?杏里ちゃんで間違いないっすよね?人違いじゃないっすよね?」

 沢木は相変わらずの大きな声で詰め寄ってきた。お前これで私が人違いだったらどうするつもりだ。私は歩くのをやめずに、後ろから話しかけてくる沢木に対して振り向かずに答えた。

「人違いじゃないわよ。っていうか沢木、あんたなんでこんなと…」

「マジっすかー良かったっすー!ちょっと反応薄かったから、もしかしたら人違いかと思ったっすよー!やー恥かいたかと思ったっす!!」

 私は安堵したであろう沢木の顔を振り向かずに歩き続けていた。だめだこいつ…沢木は人の話を聞かない。だから尋ねても無駄である。

「あ、ここはよく野球部が来るんですよ。疲労回復のついでに水泳で筋力の増加を図ってるんすよー」

 おー質問に答えてくれた。聞こえたのか、聞こえてないのか…沢木のことなら、聞かれていないのに答え始めた可能性も捨てきれなかった。

 ということは、先ほど聞こえた若者の声はうちの野球部のものだったのか。向かって左側のレーンではバシャバシャと綺麗なフォームで泳いでいる男達が多数確認できた。やはりスポーツができる人というのはなんでもできるのだろうか。羨ましくて仕方がない。

「っていうか、なんで沢木は泳いでないの?」

 私は素朴な疑問をぶつけた。

「いやあ、ちょっと…」

 何か沢木が言いかけたところで、私は9レースの飛び込み台に立って屈んでいる人影を見つけた。ゴーグルをつけて少し視界が暗くなっていても、なんとなく誰かは判断できた。両目を開いて彼を見たのは初めてかもしれない。

「お前…家田か?」

 他に誰に見えたというのか…私はバシャリと音を立てながらプールから上がった。それを見て結城も飛び込み台から降りた。そして2人はいつもとは違う服装で対面した。

「私以外、誰に見えたの?」

 上半身裸の結城は、筋肉という筋肉でゴリゴリだった。それを見て、私は少しだけ恐怖を覚えた。筋肉マニアの人とかは好きなんだろうな…

「や、ゴーグルしてるとわかりにくい」

 結城にしては真面目な回答だ。

「それもそう…」

「包帯は?」

 結城にしては不真面目すぎる回答だな。そんなもの、プールに入るのにつけたままにしておくことなんてできないだろう。

「プール入るのにつけるわけないじゃん」

「世界は滅びないの?」

「ちゃんと隠してるじゃないゴーグルで」

「あーだからさっきからそれ外さないんだ」

 結城は少しだけ安堵した表情をした。本当にこいつは私の言うことを妄執しているのだな…こんなところで宇宙人アピールすることになるとは思わなかった。

「あれ?仁ちゃんもこっち組っすか?」

 気づいたら隣に沢木がいた。プールから上がってきたみたいだ。沢木と結城を見比べると、結城の肩幅の広さや腹筋のすごさが際立った。

「んなわけねえだろ泰斗じゃないんだから…」

「おーい次結城の番…あれ?」

 結城の背後から知らない男が駆け寄ってきた。多分野球部員だ。頭が丸坊主だからすぐに判断できた。いくら野球に疎い私でも、野球部の人たちがみんな丸刈りなのは知っていた。

「この子誰?」

「結城のコレっす」

 そう言って小指を立てた沢木を、私は全力で蹴たぐった。

「何するんすかー」

 ほとんど痛覚のないお尻を蹴たぐったのだからまだ生ぬるい方だと思っていただきたい。

「嘘教えるな沢木」

 私は少し脅しをかけて言った。

「そうそう、ただのクラスメイトだよ」

 ただのクラスメイト…それもなんか違う気がしたが、私は仕方ないと割り切った。私達の関係を言葉として表すのは至難の技だろう。友達でも知り合いでも不十分で、無論恋人ではない。似た者同士であることは認めるが、それを上手いこと言葉で表せなかった。それならまあ、ただのクラスメイトというのは妥当な選択なのかもしれない。

「へーどんな…」

 私と目があった。

「ゴーグルで見えねえ」

 そりゃそうだ。見たことある人ならまだしも、初見でゴーグルはめた私なんて判別できないだろう。人の印象は見た目が55%を占めていると言われているから、残りの45%である声と話してる内容じゃ人柄すら把握できないだろう。強いていうなら背が低くて胸が…これ以上はいけない。

 そんなことをしていたら、他の野球部員たちも近づいてきた。

「ん?どうした?」

「結城の知り合いが居たんだってよ」

「あー家田さんってあれだろ、有田の…」

 おい1番最後のやつぶちのめすぞ。

「ちげーよ結城のだろ」

 訂正したやつは半殺しな。無論そんなの口だけ…いや大勢の男に囲まれて声すらろくに出てこなかった。みんながみんな揃って別の生き物のように筋肉モリモリである。まあ別の星の人なのだが…

「つーか何しにきたんだ?家田」

 囲まれた私に助け舟を出すように、結城は話しかけてきた。私は正直に答えた。

「お…泳ぐ練…」

「お前ら何してるんだ!」

 後ろから怒号が飛んだ。その瞬間に集まってきていた丸刈り達は散り散りに散っていった。

「これも練習の一環だからな!サボんなよ!」

 多分この声は野球部顧問の牛尾だ。牛尾はずんずんと私の方に近づいてきた。

「なんだお前、家田か?」

 お、よくわかったな担当学年違うのに…

「…これも練習の一環だからな、邪魔すんな」

 牛尾はこんな捨て台詞を言った。どうやら私が練習を邪魔したと思ったらしい。それは大きな間違いだったが、反論する隙も与えず向こうの方に行ってしまった。

「ちょっと気が立ってるんすよ…ごめんっすね」

 結城の少し残念そうにしている(と勝手に想像していた)背中をぼんやり見ていたら、沢木が呆れた顔をしつつフォローしていた。

「沢木は行かなくていいの?」

「ちょっと肩怪我しちゃったんで、別メニューっす」

 つまり沢木は9レーンにいるということか…私は急に、沢木の面倒を押し付けられているかのような錯覚に陥った。

「んじゃまた歩くっすか?杏里ちゃん」

 そんな私の気持ちも察しないまま、沢木は屈託無く笑っていた。

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