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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第6章、家田杏里と体育の授業
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45枚目

 前向きに何かを始めようと思ったのはいつぶりだっただろう。高校の初めに本屋巡りを始めたとき以来だろうか。あの時はまあ、昔から本を読むのは嫌じゃなかったし、ハードルも低いものだったと思う。しかし、今回は違う。これまで運動は体育の時間しかしてこなかった。その体育の時間すらまともに体を動かしたかというと怪しいレベルだ。そんな私が一人でプールに行く。このハードルは険しく高いはずだったが、その日は自然と前向きになれた。何か必要が迫られると態度や考えが変化するのは地球人も宇宙人も変わらないようだ。全宇宙共通の原理というやつか。そんな小難しいことを考えつつ、私はいつも通りの朝8時に起床した。温水プールは朝から開いているが、土曜日は自由遊泳は夕方からしかできないらしい。私はちゃきちゃきと溜まっていた家事を片付けて、母が帰ってくる前に家を出た。

 これも気まぐれだったのだが、温水プールまで自転車で行こうと思った。隣町であり少し距離があるみたいだったが、体力向上計画の一環だと思っていこうと思った。道がわかるのか?という疑問があるかもしれないが、それはさすがに予習していくさ。そもそも私は方向音痴ではないし。そんなことを言いつつ、私は開場時間の2時間以上前に家を出た。

 鼻歌を歌いながら自転車をこいだ。その日は所謂晴天という訳でもなく、かといって雨の中走り出すとかいう奇行を起こしたわけでもなかった。曇天の空。でもそんな日が、案外外に出やすいというものだ。カラッとしつつも直射日光を遮ってくれている今日の天気は、私的には最高の外出日和だった。

 アルフェラッツ星には太陽というものがない。そもそも太陽を浴びるために外に出るという手段など取らない。もしも光を手にしたければ、星の内側内側へと行かなければいけない。マントルが、この星でいう太陽の役割をしているのだ。それは日光よりも少し有害なもので、そのためこんな風に素肌をさらすようなことはできない。だから最初にこの星に来たときは、完全防具体制で降り立った。当時は夏の終わりだったから、熱中症で死にかけてしまったことを覚えている。どれだけ言われても長袖で外に出続けていたあの頃は、今となっては懐かしい時代だ。そんなことを思いつつ、私はまるで元気な田舎娘みたいな半袖のTシャツを着てのびのびと自転車をこいでいた。

 川を一つ越えた。するともうそこは槻山市だ。ここは私たちの街よりほんのちょっとだけ人口が多くて、ほんのちょっとだけ発展している。よく私のクラスの中でも茨田市と槻山市の人達がどっちが発展しているかについて議論が繰り広がられていた。私的には勝ってる点なんてない気がするけれども…強いて言うならモノレールが通っていることか。それくらいしか出てこなかった。

「つかれたあ」

 いくら日が照ってないからって、動けば汗をかくし、乳酸が溜まるのは自明なことである。それが疲労感として私の体に巻き付いてくるのも仕方のないことだ。まあ、このまま走ればあと15分くらいで目的地に到着する。もう一息の辛抱だ。そんな思いを発散するかのように、私は疲れたと呟きつつも一層足に力を入れた。 


 そこから1時間かかって、目的地に到着した。途中2回ほどコンビニに寄ったから、実質は45分くらいであろうか。想定よりは早く着いたなとポジティブな発想をすることにした。今日の私はポジティブ杏里ちゃんだ。そんなあほみたいなネーミングセンスに自ら寒気を引き起こしながらも、自転車をきっと止めた。外は少しだけ湿気が増えた気がする。私はあまり気にせずに施設の中に入っていった。

 来たことがなかったから、そもそもどこに受付に行けばいいかすらわからなかった。あたふたとしていたら、近くのおばちゃんに案内されてしまった。まるで小学生に道を教えるように懇切丁寧に教えられたが、私は高校生だということを理解しているのだろうか。背が低いからって子ども扱いされるのは納得いかなかったが、今思うとガキ大将のような半袖が悪いのかと理解した。Tシャツは汗ばんでいて、早く体を水に流したかった。今入りたいのはプールではなくお風呂だな。

 椅子に座って20分待つと、自由遊泳の時間が始まった。私は受付を通して水着を借りた。一瞬受付の人が『この人のサイズに合う水着あるのだろうか』という顔をしたのを、私は忘れない。いやそれは言い過ぎかもしれないが、少なくとも大人のサイズでないか探していたのは事実だろう。全くどいつもこいつも…いい加減にしないと私だって怒るんだぞ。私は少しふくれっ面をしつつ、女子更衣室に入った。

 誰もいなかった。おばちゃん一人くらいはいると思ったのに、私が一番乗りだった。少しの占領感覚に陥った私は、少し大胆に服を脱いだ。

 英字プリントの書かれたTシャツを脱いで、アンダーシャツと一緒にくしゃっと鞄の中に入れた。背中につーっと汗が流れる感覚がして、私はそれを指でなぞった。少しだけブラジャーをずらしてみたら、胸と服の間が少ししっとりしていた。私の体臭がする。普通自分の体臭なんて匂わないはずだが、その時だけは汗のにおいがむんむんとしていた。

 背中に手をまわして、両の手をブラジャーにかけた。ホックが外せないほど私の身体は固くない。比較的体毛は薄い方だから、こんな時でも脇には何のダメージもきていなかった。そして少しきつめのブラジャーを外して、上半身を裸にした。

 胸の下に赤色の線が入っていた。いつもよりも跡がきつい気がする。これはもしかしたら、少し胸が大きくなってきているのではないか?それが幻でないことを願いながら先ほどもらった水着を身に着けようとした。

 うーん、これはどのように着るんだろう。普通に上から足を入れるのだろうか。そう思った瞬間に私は気づいた。スカートはきっぱなしじゃねえか。全く最近忘れていることが多くないか?これはどじっ娘という次元を超えているぞ。もうちょっと何もないところで転んだり、パフェでも運んでミスって客の頭にぶちまけたり、そういうわかりやすいミスをしなきゃダメだろう。そんなことを思いながら向かって左側側面についているチャックを降ろし、スカートを脱いだ。どうやら見せパン用のブルマをはいてきたことは失敗だったようだ。パンツと見せパンの間がまたしっとりむれむれ状態になっていた。これはもう、上半身とは比べ物にならないほどだった。久しぶりにこんな汗をかいたなと思い、これまた大胆に見せパンと一緒にパンツを脱いだ。完全にすっぽんぽんである。それらもすべて鞄の中にぶち込んで、私は水着に着替えようとした。

 普通に足を入れて着ると、少しセクシーな感じになった。肌と外界との間が布っきれ1枚しかないのは、落ち着きが足りなかった。こんなの激しく泳いでは脱げてしまうのでは無いか。そうかこんな羞恥にたえつつみんな水泳をしているのだな。ただの競泳用の水着なのに、そんなことを考えている私が、果たして海になどと行けるのだろうか。はなはだ疑問である。

 鏡に向かってかわいらしいポーズをとった。手を伸ばしてピースしたり、足をくっと大股にしたりした。それでも何らおかしいこともなかったし、隠さないといけない所はしっかり隠せていた。ならまあ、これでいいか。私はそう思って、汗ばんだリュックから必須アイテムを取り出した。そう、ゴーグルである。

 私は目を閉じて包帯をとった。これは服よりも大事なものだから、リュックとは別の袋に入れてロッカーの中に入れた。そして目を閉じたまま、私はゴーグルをつけた。これでいけるはず。そう思って両目を開けた。

 やはり少しだけ古傷が残っていた。目の下の古傷は、いつまでも癒えないのだろうか。そんな少しネガティブな私を、今日は吹き飛ばした。だって今日は、ポジティブ杏里ちゃんなのだから!

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