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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第6章、家田杏里と体育の授業
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44枚目

 ふと、泳ぐ練習をしてみようと思った。金曜日の夜、買った水着をつけて鏡に映していた私は、そんなことを思って携帯を手に取った。

【…そんな恰好のままうろついていたら風邪ひくぜよ】

 マリアの言葉など聞かずに、私は水着のまま家の中を歩き回っていた。

【何を調べてるきに?】

「泳げるところ。確か、隣町に温水プールがあったはずだから、明日そこで泳ぐ練習しようかなって」

【なるほど…とにかく水着を脱ぐきに】

「裸になれってか?」

【服を着るぜよ…】

 口うるさいマリアに屈した私は丁寧に水着を脱いでパジャマに着替えた。もう少し大きい胸に調節できなかったのかなあ。そんなこと考えてもむなしくなるだけだけれど、自分の上半身を見るたびにそんなことを思ってしまうのだ。水着だったら慎ましくも主張する山が、パジャマを着ると完全に平地になってしまっていた。ま、まあこれは仮の体だからな。向こうの星ではボッキュウボンな体に…なるわけではない。少しでもあるだけましと思って生きていくしかないか。これが諦念というやつである。

 隣町である槻山市の南には温水プールがある。近くにごみ処理施設があって、ここ一帯の燃えるごみを担当していることしか知らなかった。無論これまで行ったことはない。それでも、もしも遠垣と姫路と遊びに行くのであれば、少しくらい泳げるようになりたい。そう一念発起したのだ。少なくともこれまで浸かったことすらない水というものになれなければならない。プールや海に来て、水に入れないとかいうわけにはいかないからな。

 ちゃんと土曜日も営業していることを知った私は、2人に連絡を取ろうと思った。一緒にプール行こうぜ!って感じの軽いノリで。

 最近インストールしたラインを開いて、まずは遠垣に連絡してみた。

『遠垣ちゃん、明日暇?温水プール行かない?』

 時刻は10時半。よい子は就寝している時間である。もしかしたら明日になるまで返信が来ないかもな。そう思った私は冷蔵庫に行ってミルクを暖め始めた。け、決して邪心があるわけではないぞ。カルシウムは骨を強くするらしいからな。健康に良いから飲むのだ。うん、そうだ。

 マグカップに牛乳を入れて電子レンジに入れた。それと同時にバイブ音が鳴った。無論遠垣からだった。

『ごめんなさい明日はバイトなんです…また誘ってください(*'ω'*)』

 なんだこの『誘ってください』の後についている変な顔は。これが女子高生の普通というやつなのだろうか…とにかくバイトらしい。まあ仕方ないか。遠垣の身体的特徴について述べていなかったかもしれないが、彼女は程よい肉ツキと158㎝という平均的身長を重ね持っている。それで顔が美少女なのだから、あの面倒くさささえなければもっと寄ってくる男はいるだろう。というか今はむしろ彼女の魅力が気づかれていないのだからチャンスなのだよ。誰に言ってるか?無論有田だ。

 まあ話を戻そう。次は姫路だ。

『姫路さん、明日暇?よかったら温水プール行かない?』

 良かったらという文言を追加してみた。特に深い意味はない。この時間、ワンチャン姫路は寝ているな。そんなことを思いながら私は電子レンジからマグカップをとって一口飲んだ。なんだこれ?全く暖まってないじゃないか!え?これ電子レンジ壊れた?

 それは杞憂だった。もう一度一から手順を踏んだらしっかり作動した。もしかして…私、暖めるボタン押さずに牛乳入れっぱなしにしていたんじゃ…

 恥ずかしさで手を顔に当てて蹲っていると、姫路からの返信が返ってきた。本当に、今ここに誰もいなくてよかった。いたら絶対またどじっ娘だのなんだの間違った解釈をされてしまう。私はどじっ娘じゃないもん。優秀な地球調査員だもん。私は真っ赤になった顔のまま誰に伝えるわけでもなく強がった。そして伏し目がちになりながら携帯を操作した。

『ごめんなさい。明日は父上と修行があるので行けません』

 …修行?何のことだろうと思ったが、詳しく聞くのも野暮だと思った。

『そうかーわかった』

 この文章を姫路と遠垣に送ったのち、ようやく暖まったホットミルクを啜った。思っていたよりも熱かった。私は猫舌ではない自信があるものの、それでも舌がじんじんするほどだった。むうう、もうちょっとふーふーしてから飲めばよかった。私はマグカップをテーブルにおいて、少し冷まそうと思った。そして冷ましている間に携帯をいじくった。

 どうしよう。2人とも忙しいみたいだ。まあ前日の夜にいきなり言い始めたって、そんな急に言われても…って感じなのだろう。その点は少し申し訳なかったな。ちょっと反省だ。

 にしても…他に誰を誘おうか。まあ迷うほど私に友達がいるわけではない。遠垣と姫路がいなかったら、もう誘うような人はなかなか見当たらなかった。強いて言うなら阿部だろうか。向こうからいくらか好意的な対応をしてくれていることは重々承知しているが、それでも一緒に遊びに言った経験はないし、あまり話したこともなかったりする。他に話したことあるクラスメイトといえば、出森…嘉門…高見…そして真砂…いやいやないな。先週の今週でそんなことできるようなコミュ力なんて持っていなかった。まあそんなもの持っているなら、もっとクラスで溶け込めているはずだからな。そんな自虐を思い浮かべていたら、自然と牛乳は熱さを控え始めていた。

 牛乳を啜りながら、私は明日の予定について考えていた。後誘える人間としたら…有田と結城か。

 有田はないな。有田関連のいざこざからはまだ一週間しかたっていない。あれからちょっとの間2人で会うような誤解を与えかねない行動は禁止するよう通達し約束し合ったばかりだった。それなのに2人でプールなど行くのは愚策だし、何より私に行く気がなかった。論外だな。

 では結城はどうだろう。実のことを言うと、前のボーリングから一度もあっていないし話していない。なんやかんや知り合って一月の間何らかの言葉を交わしてきただけに、少しだけ慣れない日々を送っていた。別に物寂しくはないがな。

 まあ結城は野球部の大きな大会が控えているから今は忙しいのだろう。こうしえんというやつだった気がする。私は野球に疎いから、どれくらい大変なことなのかはわからないが、なんせ二年生ながら背番号一桁をもらえるチャンスらしい。よくわからないって?私もよくわかっていない。

 それ以上に、ある種の気恥ずかしさがあった。少し彼には、私の弱いところを見せすぎた気がする。人前で泣いたことなんてほとんどないし、他人とある種の感覚の共有をしたのもごくごく稀なことだった。だからこそ、少し距離を置きたくなった。弱さを見せ過ぎているからこそ、あまりうまく関わっていける気がしなかったのだ。

 ならどうしようか…やはりおとなしく家に籠っておこうか…私はホットミルクを飲み切ると、決心がついたかのようにマグカップを洗面台においた。

 やっぱり、1人でプールに行こう。隠れて水泳の練習をしよう。そう心に決めて、私は自分の部屋へと帰っていった。

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