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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第6章、家田杏里と体育の授業
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43枚目

 話は少し前へと遡る。少し端折って説明しよう。

「素直になれない家田さんが結城くんにアピールするにはどうすれば良いかなあ?遠垣さん」

「うーん、どうしましょ姫路先輩」

「や、私は素直だから…」

「海!海とかどうですか?」

「妙案ですよ先輩!それなら多少つれない態度を取っててもその美貌でアピールできるに違いないです」

「や、その美貌ってなんの…」

「それじゃあ夏に向けて水着を確保しなければ…」

「どうせ野球部は夏まで甲子園の予選があるから、結城先輩も夏休みまでは忙しいでしょうしね!」

「私そもそも泳げな…」

「どんな水着が良いですかねえ…」

「今から時間あるならデパート行きません?確か今イ⚪︎ンがセール中ですよ」

「いやだから…」

「ナイスアイデアですよ遠垣さん!今から行きましょう!」

「でしょうでしょう?行きましょう!」

「や…2人とも私の話を…」

「家田さん!」

「家田先輩!」

「ん…?どうし…」

「「一緒に水着見に行きましょうよ」」

 まあこんな風にして私はデパート2階の水着売り場に来ていた。多少違和感のある部分があるかもしれないが、それは枝葉を折ったと思って許容していただきたい。にしてもこの2人は自分のことでもないのに盛り上がれるなあ。いや、もしかしたら自分のことではないからこそ盛り上がれるのかもしれない。

「ビキニだ!」

「いやワンピースですよ!」

 そして遠垣と姫路の不毛な争いもまた勃発していた。あんたらは今日完全に私を置いてけぼりしてるわよね?そう詰め寄りたくなったが、あまりに2人の剣幕が激しいのでことを荒立てず時期を待った。

「そんなにいうなら…一回家田先輩に合わせて見ましょうよ!」

「試着はできないですよ!」

 そうか水着は試着できないのか…そもそも水着自体スクール水着しか持っていなかったから、そんなことすら知らなかった。

「試着できなくても想像するんです、ほら!」

 そう言って遠垣は私の胸元に水着を持って来た。薄ピンク色のワンピース型の水着だった。個人的な直感を話すと、ただでさえ背の低い私の外見年齢が更に下がる気がした。これに白色のハットとか被ったら完全に少年漫画の幼いヒロインみたいだ。

「ちょっ…ちょっと少女っぽ過ぎですかね…?」

 同じことを思っていたのか、遠垣も遠慮気味な声を出した。しかし1人、その琴線にふれた人物がいた。

「あり…だな」

 先ほどまで否定していた姫路のことである。

「少し幼さを出しているようで、その実サバサバしていて大人っぽい性格である家田さんのギャップを狙える一着…普段きついことを言いながらも可愛いテイストの水着を着ることで、より結城くんを意識できることを狙っているのか…」

 おいどうした姫路?あんたは水着ソムリエか?想像力豊かに批評してるけどこっちは実感なさすぎて困惑してんだよ。

「確かに…遠垣さんの方が良いかもしれないですね」

「いや…どうですかねえ?ちょっと子供っぽすぎてあざとくないですか?」

 さっきまで推していたはずなのに、遠垣は急に立場を反転させた。

「何ですか?さっきまで推していたというのに…否定ばっかじゃダメじゃないですか!」

「な…姫路先輩心外です!私は否定ばかりしてるわけではないです!」

「嘘おっしゃい!このビキニをさっき否定しまくっていたではないか!」

 そう言って今度は立場交代し、姫路が私の身体に赤色のビキニ型の水着を押し当てて来た。露出も激しく、ヒップのラインもよく出ていた。これは相当自分のスタイルに自信がなかったら着れないやつだぞ…

「ちょっと色っぽ過ぎですかね…」

 姫路も少し反省したようだったが、ここでも意外な人間がこの水着に同調した。

「あり…ですね」

 無論お気づきであろう。遠垣来夏である。

「確かに少しチャレンジングな水着かもしれない。しかしながら先輩のそのスリムな身体と細い肢体に赤色の情熱的なパッションはうまく絡め合い、最高のパフォーマンスへとアジャストするのではないか…?これは結城先輩もミスしないに違いない!」

 そして遠垣もなんだそれ?意識高い系の人でも使わない英単語羅列してるじゃないか。つうか情熱的なパッションって何だ?パッション的なパッション?同じ意味じゃねえか。いや突っ込むところはそこではないかもしれない。

「これは姫路先輩の方が正しいのでは…」

 そう言うと姫路と遠垣はお互い睨み始めた。そしてお互いが持っていた水着を交換した。無言で交換したから側から見たらとても不可解な行動だった。そしてまた、2人は私に詰め寄って来た。

「家田さん!このワンピース型の水着にしましょう!」

「いえいえ、このビキニ型の方が家田先輩には似合いますよ!」

「おいあんたら、さっきと言ってることまるで違うじゃねえか」

 私はそんな苦言を浴びせた後、偶然近くにあった水着をひょいっと取った。

「これで良いかなあ。形的にもその2つの中間っぽくな…」

「ダメですね」

「ダメ」

 2人してダメ出しを食らってしまった。

「色合いが可愛くないですよ。黒なんて家田さんにはにあいません」

「宇宙といえば黒でしょ?何が悪いの?」

 さりげない宇宙人アピールも、今日の姫路には届かなかったみたいだ。

「しかもそれお腹見えてるじゃないですかー」

「いや水着だから見えてて当たり前だよね?」

 さっきビキニを推していた人間とは思えない反論だった。

「とにかくそれはダメです」

 姫路の言葉に遠垣も同意していた。なんでぃ私の買い物なのに何であんたらの方が発言権があるんだ。私は不満顔をしながら、その隣の水着を手に取った。

「これはどう?青色だけど…」

 どーせ断られるんだろうな。色合いも地味だし、形も変わってないし…何故か2人は私に赤系統の水着を着せたがっているみたいだが、実は私は赤系統より青系統の水着の方が好きだった。それもパステルカラーのような水色っぽい青色ではなく、落ち着いた色の方が好きだったのだ。それをさりげなくアピールしておこう。無駄だろうが…

「いい…かも」

「そう…ですね」

 お、案外印象が良さそうだ。というかこの2人の良い悪いの基準はどこにあるのだろうか?そんな疑問を持ちながら、私は水着を当ててみせた。

「良いですね。家田さんの大人っぽい雰囲気を増してる気がしますよ!」

「そうですね!家田先輩の子供っぽさが緩和されている気がします」

 概ね好評のようだが、さっきの熱意はどこへ行ったのかというほどあっさりとしていた。そして遠垣お前は後でパン奢りだ。私は子供ではない宇宙人だ。覚えておくのだな。

「これで結城くんを夢中にできますかね?」

 姫路のその問いに、若干の間が空いた。よしこれは訂正するチャンスだ。

「言っとくけど、これは結城と遊びに行くために買うんじゃないよ。つうか遊びに行きたくない」

「えーそんな…先輩じゃあなんで…」

「それより3人で遊びに行こうよ!プールでも海でもいいからさ。その方が楽しいし、その方がしたいな」

 これは本音だった。色恋沙汰など、今の私には特にいらない。それよりも、ひょんな事からできたこの2人との関係を、もっと深めたいと思ったのだ。潜入任務なのだから、これくらいは許容範囲だろう。

「だめ…かな?」

「だめなわけないでしょ!!!」

 姫路は持ち前の大声で全力否定した。

「先輩方行きましょうよ!夏休み!」

 遠垣もノリノリだった。

「んじゃ、楽しみにしてるから!これ買ってくるね」

 そう言って歩き出した私に向かって、後ろから姫路の声が聞こえた。

「ね?家田さんって大人でしょ?」

 そんなことないよと言いながら、スキップしたい気持ちを抑えつつレジに向かっていった。今年の夏は、今までよりかは楽しくなってほしいな。そんな淡い期待とともに、未来への投資を敢行したのであった。

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