42枚目
「お勤めご苦労様です!」
どこまで冗談かわからない冗談が飛んできた。生徒指導室を出た直後、目の前には姫路と遠垣が立っていた。遠垣は制服がないうちの学校に慣れてきたのか、徐々にスカートが短くなってきている気がした。うーむ許されんな。隣で上下学校指定のジャージを着ながらもそのスタイルの良さを見せつける姫路を見習えと言いたくなった。まあスタイルとか短足低身長の私に言われたくないだろうが…
「ここはムショかい」
「まあ生徒にとって先生は警察みたいなところだからね」
遠垣の先生観を少しだけ垣間見た。本当に過去が謎なやつである。
「家田さん!」
そしていつも通り姫路は大声で私に話しかけてきた。少しだけ耳がキーンとした。
「ど、どうした?」
「結局何で呼び出されたんですか?」
姫路は少し心配そうな顔をしていた。姫路が心配することなど何も無いというのに…本当にお節介な奴である。私は少し申し訳なさげな顔をして答えた。
「や、プールの授業についてね」
「プール?」
「いや、去年全部の授業エスケープしたからさ」
私は少し照れた顔をしながら言った。過去の失態をいうのは流石に気が引けた。しかしながらこれは正しい選択なのだ。世界を滅ぼすのと、私の体育の単位が壊滅するの、普通なら前者をとるだろう。普通の人間でも、普通の宇宙人でもだ。
「え?何でですか?」
「いや、包帯取らなきゃいけないじゃん」
2人はあ…って顔をした。お?何だ文句あんのか?
「そういやその包帯って何でつけてるんですか?」
あれ?姫路には言ってなかっけ?この邪眼の恐ろしさを…ならば、これはとくと語らなければ…
「姫路先輩、家田先輩はその包帯とると世界滅ぼすんだってよ」
私は少し拍子抜けしてしまった。先にめちゃくちゃ軽く遠垣に言われてしまったからだ。前の結城にしろ、この国の人々は世界が滅びることをやけにフィクションじみて言う嫌いはないか?それは多分当たっていることだろう。この星のように他人種から攻められた経験のないことは、終末をお粗末だと錯覚させてしまうに違いない。これは大きなレポートである。この平和ボケした状態ならば、我々アルフェラッツ星人たちがその覇権を握るのも容易いだろう。
「え…?でも前取ってましたよね?」
「ん?いつですか?」
「や、遠垣ちゃんはいなかった…ほら、先週の金曜に色々あった時、包帯から白色のガーゼをテープで止めたものになっていましたよね?」
私はウッとなった。
「どういうことですか?」
姫路はとてもとても純粋な顔でこちらを見てきた。やばい、このままでは私が宇宙人であるということに疑念を持たれてしまう。
「あれは…結城が勝手に…」
私はあたふたしながら言い訳を探していたが、そこで口にした結城という言葉によって話は思わぬ顛末をたどっていくことになった。
「ほう、結城君?」
姫路はニタニタした顔でこっちを見てきた。
「結城君が取り替えてくれたんですかーそうですかー」
「それは見逃せないですね?姫路先輩」
なぜかそれに遠垣も乗ってきた。
「な、なによ二人とも気持ち悪い」
私はむすっとして顔を赤らめた。すると急に姫路が抱きついてきた。
「え…ちょっと何?」
「かわいいぃぃぃぃぃその素直になれない感じめっちゃ可愛いですよ家田さん!」
そう言いながら姫路は頬をスリスリしてきた。私は更に顔を赤らめた。
「やめ…やめろう!!気持ち悪い!!」
「いいんですよーいいんですよーもっと素直になっても」
「あー姫路先輩ずるい!!」
そう言いながら遠垣も抱きついてきて頬にすり寄ってきた。更に遠垣は頭をポンポンと手を置いてきた。こいつ本当に後輩なんだよな?
「かわいい」
「かわいい」
「なんだお前ら…やめろー離れろー」
私はベタベタと触ってくる二人に抵抗しながら、悪化していく彼女たちの妄想を止められないでいた。
どうしてこうなった。
「ビキニ!夏といったらビキニでしょ!!」
私は何でこんなところにいる?
「先輩、ビキニってなんか男に媚びてる感じしないですか?ここはちょっとおとなしめの水着の方が清楚感あっていいと思います」
この2人はどうしてこんなにテンションが高いのか。
「そんなんじゃ結城くんを夢中にできないですよ!ここは派手に大胆に。この世の男子はそれを求めているに違いありません!」
どうしたら彼女たちの言葉を理解できるのだろう。
「姫路先輩、それだったら結城先輩以外の悪い虫も寄ってきてしまいます。家田先輩にはそんな目に合わせるつもりですか!!」
ワカラナイ。ワタシニハサッパリワカラナイ…
「家田さんはどう思ってるんですか???」
いきなり姫路の矛先は私に向いた。
「やはりビキニですよね?」
「いやいやこういう露出度の低いワンピース型の水着がいいですよね?」
いや、いやいやいやちょっと待って。ぐんぐん顔を近づけてくる二人に私は押されっぱなしだった。私は恐る恐る聞いた。
「これ…誰の話?」
「もちろん、家田さんの水着を選びに来たんじゃないですか!!!」
姫路のこの言葉に、遠垣も力強く同意していた。無論私は、何故今三人そろって水着売り場に来ているのか理解できぬままだった。




