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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第5章、家田杏里と世界征服
37/166

37枚目

 私は力強い足取りで教室へ向かっていった。鞄をとったら生徒指導室に行こう。そこで洗いざらい言ってやろう。誰が最も悪いか。

 無論出森だって罪はある。私のことを疎ましく思っていたことは事実だろう。しかしながら、その罪は4等分されるはずだ。何も一人で背負う必要などない。それに…私は彼女がまるでほか三人の女子の使いっぱしりのような立ち位置にいることも知っていた。たとえそこまで行っていなかったとしても、ぞんざいに扱われていたことは事実だ。ならば一番の巨悪は誰だ?あの三人組だ。高見、真砂、嘉門。こいつらの罪を白日にさらさなければいけない。私はそう思いながら、重く、それでも力を込めて階段を上った。

 教室を開けたら、意外な人物がいた。その少女は、女子三人分の手首を握って、まるで綱引きのような体制になっていた。そして私の方を見て驚いたのか、掴んでいた3人分の手首を放してしまった。無論3人ともずでーんと転げてしまった。

「い…家田さん…」

 姫路は、何でここに来たの?という顔をしていた。私からしたら姫路がなぜこんなところにいるのか問い詰めたかった。

「なんでここにいるの?構わないでって言ったじゃん」

 姫路は何の迷いもなくこう言い放った。

「何言ってるんですか。師匠に教えてもらったんですよ。大丈夫って言葉は、本当は大丈夫じゃない人が使うんだって。構うなとは、本当は構ってほしいから言ってるんだって」

 それ、勘違いしがちなオタク男子の理論じゃね?私はそんな水を差す言葉を浮かべたが、心の中にとどめておいた。

「だから私は、先生を呼んで、なお反省しない彼女たちを説得してたんですよ」

 説得というか、実力行使だった気がする。

「くっそ、痛いじゃない!ほんと、姫路マジしねば?」

 高見の声だった。折り重なっていた3人は、のっそりと立ち上がった。

「そもそも、なんで私たちが反省しなければならないんですか?」

「そうだそうだ。悪いのは出森でしょ?私達、彼女に言われてあんなことしてたんだよ」

「何言った無駄だわこのゴリラには、マジ糞。うざい。帰ろ」

 そんな全く反映しない3人組に対して、私は震える腕と脚を隠しながら条件を出した。

「高見さん、真砂さん、嘉門さん。貴方達が取れる選択肢は2つよ」

「はあ?あんたは黙って…」

「1つ、今から私達と一緒に先生のもとに行って、すべてのことを洗いざらい吐く。2つ目、このまま勝手に帰って、後で先生に怒られる」

「結局怒られるんじゃん」

「そうよ。でも、直接来てくれるんならあなたたちのこと、そこまで悪く言わないわ」

 私のこの条件を聞いていなかったのか、高見が私の方に近づいてきた。

「ふざけんな。何様のつもり?あんた、いつの間に私たちの格上になったのよ」

「格上でも格下でもないよ。対等な立場からの物いいよ」

「うっざ。ほんと嫌いだわあんたのこと」

「私も嫌いだよ、貴方みたいな暴力と権力を振りかざす人。そんなので私は屈しないし、言うことなんか聞かない。だって私は…宇宙人だからね」

 私はもう、高見の視線から目をそらさなかった。例えた紙が私の胸ぐらをつかんできたからって、私はじっと彼女を見続けた。

「これが最後通告よ。私は決して屈しない。だから選んで。先生に自白するか、後でこっびどく叱られるか。二択よ?どっちにする?」

 高見はどんどんと顔を赤くしていった。無論これは怒りの顔だ。いまにも殴り掛からんとするほどの殺気を感じた。私は速くなる胸の鼓動を誰にも悟られないようにするため、じっと高見を見ていた。決して屈しない、この言葉を現実のものにするために必死だった。

「わかったわ。じゃあ選ぶ。先生にチクられないように、貴方をここで…」

「やめろ」

 この声が聞こえた瞬間、高見の手は私の服から離れた。高見の右腕を姫路が握っていた。今のは、姫路の声だったのか。まるで男の人の声と間違うほど低くどすの聞いた声だった。彼女もまた、底見えぬものがあると思った。

 姫路は、少し涙目になりながら言った。

「貴方達には、家田さんの優しさがわからないのですか!!!!!」

 ん?優しさ?目の前の3人以上に、私がその言葉の真意を測りかねていた。

「そもそも、何でここに家田さんが戻ってきたと思っています?もしも本当に貴方達を恨んでいるならば、直接生徒指導室に行って洗いざらい言えばいいでしょう?何故それをしなかったか、何故それをせずにこちらに来たか、それは、貴方達に反省してもらいたくてここに来たんですよ」

 いや、鞄取りに来ただけなんだけど。

「それが貴方達にはなぜわからないんですか!!」

 まあわからんわな。私がそのつもりで来ていないのだからな。今から思うと、もしかしたらまだ決心が固まり切っていなかったのかもしれない。心の底では先生に言うことを恐れていたのかもしれない。そんなことは思ったが、目の前のやつらに優しさを向けたことはなかった。しかしまあ、ここで否定するのも野暮である。

「わからねえよ」

 高見が叫んだ。

「わかりたくもねえよ!!そんなこと!!!」

 まるでそれは、親の敵に向けて言うような口調で、到底知り合って2カ月弱のクラスメイトに言うセリフではなかった。なんだ?なんで私はこんなにこいつに嫌われているんだ?

「だって、だって姫路さんは解るでしょ?私達の気持ちが。私達が家田を恨んじゃう気持ちが、貴方だったらわかるでしょう?」

 後ろにいた嘉門が、そう言って涙ぐみ始めた。ほう、姫路にはわかる?なんだ?勉強関連?

「解りますよ!!!!!痛いほどわかりますよ!!!!!」

 姫路も涙ぐみ始めた。ん?これはいったい何をしているのだ。当事者であるはずの私が、一番状況を理解できていなかった。

「最初は耳を疑いました。本当なのかと。信じられないと。確かに最近の行動を見ていると辻褄が合っていたけど、まさかこんなことが起こるなんて…私は絶句し、毎夜毎夜涙を流しました」

 姫路はいよいよ大泣きを始めた。それにつられ、陰湿3人組も涙を流し始めた。私は疎外感と意味不明さから泣きたくなった。

「それでも、ここのところ彼女と接して、わかりました。家田さんは気づかいもできて、大人で、誰に対しても優しい。たとえ理不尽にいじめられたって泣き言ひとつ言わないで、周りを巻き込まないように配慮する。そんな姿を私は間近で見てきました。断言します。家田さんは、本当に素晴らしい方です」

 お、おう。いきなりめちゃくちゃ褒められてしまった。ここ数日私のもとになついていると思っていたが、そんなことを思ってくれていたのか。私は少し照れて、頬を赤らめてしまった。そんなに真正面から褒められたことなんて、これまでほとんどなかったからだ。

「そして思ったんです。このお方なら、有田さんを幸せにできるって」

 は?赤らめた頬が瞬間冷却し白くなっていくのを感じた。

「だから私は、絶対に家田さん側につきます。2人の恋路を守り抜きます。あなた方も、そんないじめなどやめなさい」

「ちょちょっとまって姫路さ…」

「大丈夫ですよ家田さん。すべてこの纏菜にお任せください」

 いや任せられないよ。なにこれ?私聞いてないんですけど?有田との恋路?そんなもの始まってすらし、始める気すらないわ。こいつら、もしかしてものすごい勘違いをしているのではないか?

「貴方は、貴方は何もわかってないわ!!!!!」

 いきなり大きな声が聞こえたかと思ったら、その主はここまであまり目立っていなかった真砂だった。彼女は、切々と長い語りを始めた。それはまさに寝耳に水な内容だった。


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