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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第5章、家田杏里と世界征服
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35枚目

 1日寝たら大抵のことは許せる私でも、さすがに今回の出来事は堪えていたらしい。朝起きても、歯を磨いても、風呂に入っても、自転車に乗っても、無論学校についても、私の心は晴れなかった。

 今日は有田も来ていないみたいだった。あれからどうなったんだろう。まだ遠垣の元に居るのだろうか?というかあいつ、サッカー部はいいのだろうか。レギュラー剥奪を嫌がっていたくせにと、少しだけ苦言を呈した。彼とは私と違って抱えているものが多いのだから、もっとそれを大事にしたらいいのに。そんな言いがかりをつけるのも、心が晴れないせいだ。

 その日も私は1人で昼ごはんを食べた。ちょっとパンの味を感じるようになったのは、順調に退化している証拠だ。このまま、一人になっていくのだろうか。

 ふふ、ふふふ、私は不気味に笑った。そうだ。それが正常なのだ。私は宇宙人だ。クラスの奴らの事情など知ったことではない。それよりも、この地球人の生態について、この一月関わったおかげでだいぶわかった。後は宇宙と通信しながら生活すれば良いではないか。何を戸惑っている。何度も言ってきたじゃないか。情を持つなと。情を持っても仕方ないと。

 学生にとって学校は世界だ。権力も戦争もあるし、勝者も敗者もいる。そんな血生臭い舞台だ。そして世界から逸脱しないように生きるのが、学生がこの世界で快適に暮らす条件だ。それには同意しかない。真っ当な意見だと思う。しかし、私にはそんなもの関係ない。だって私は宇宙人なのだから。宇宙人に、地球のルールなど当てはめてくれるなと言いたい。そう考えると、もうどうでもよくなってきた。周りの生徒達も、この世界で生きる「家田杏里」も、私の最も成し遂げなければならない世界征服に比べると矮小なものだ。そんなものにいちいち気を使わなくていいじゃないか。

 私はこんな最悪な立ち直り方をした。最低だと思う。でも、こんなやり方じゃないとこの世界を生きぬけないほど、私はちっぽけな人間なのだった。そんなことを噛み締めながら、その日1日が過ぎていった。


「ねえ、家田さん。あなたに言いたいことがあるから、ちょっと今日教室に残っててくれない?」

 私はそのセリフを聞いて、おびえるでもなくいらだつわけでもなく、ただ『思っていたより早かったな』と思った。これがいじめの際によくやられる呼び出しという奴なのかと感心さえしていた。これは地球人の愚かで劣悪な本性を見れるいい機会になるぞ、とすら考えていた。

「わかったわ、出森さん」

 そう言って私は、教室の窓から外を見ていた。見る見るうちに教室の中の人は少なくなっていった。もしかしたら裏で何らかのやり取りがあったのかもしれない。ついぞ残っているのは女子六人だけになった。ん?女子六人?

「家田さん、今日一緒に帰りましょうよ!金曜日は剣道部部活がないんです!」

 姫路纏菜は、こんな時でも私を誘おうとしていた。これは有田のように周りが見えていないという訳ではない。

「駅前にとってもおいしいパン屋さんができたらしいですし、一緒に行きましょう」

 ほう、私は地元民だが、そんな話は聞いたことがなかった。

「悪いけどー家田さんは私たちと話があるからさ」

 陰湿女子組の一人がそんなことを言った。名前は確か、嘉門だっただろうか。髪の毛を茶髪に染めて、やたらと高圧的だった。

「そうそう、お取込み中ということで、お願いね」

「さっさと出ていきなよ」

「ば、バイバイ姫路さん」

 他の2人も、出森も同調した。それを見てか、姫路はいきなり大声で叫び始めた。

「うお、うおおおおおおおおおお」

 驚く4人を見つつ、私はもう3回目になっていたので、この人は叫ばないと何もできないのかとあきれ顔になってしまった。しかし、この展開はまずい。私は冷たくなった心の中でそう思った。

「貴様らは、貴様らは恥ずかしくないのか。そんな、大人数で一人を寄ってたか…」

「もうやめてよ」

 私は冷たく言い放った。姫路がまるで豆鉄砲を喰らったかのような顔をしていた。

「大丈夫、私は大丈夫だから、姫路さんはここから離れて…」

「え?でも…」

「パン屋さんは今度、また誰かと行ってよ」

「いや…私は…」

「もう、私には構わないで」

 そう言って、私は姫路のもとへ歩いていき、肩を一突き軽く小突いた。

「お願いだから、私は大丈夫だから、ね」

 私は少しだけ流れかけた涙をぐっと溜め込んだ。声が震えていた。姫路を直視できなかった。

「ほら、こう言ってるんだし、早く帰ってよ」

 出森がこう言うと、姫路はカバンをもって無言で帰ってしまった。怒っただろうか。そりゃそうだ。折角庇ってあげていた相手から戦力外通告を受けたのだから。ずっと私側についていたのにあんな仕打ちを受けたとなら、もうトラウマレベルのことだろう。それでも、そんなこと今の私にはどうでもよかった。むしろ近くにいてほしくなかったから好都合とまで思った。これは、私の周りにいるといじめられるから善意でやっている、なんて生易しいものではなく、もう誰ともかかわらずのこの世界を生きるという悲壮な決意からくる誤答だった。だって、人とのつながりとか、クラス内の権力云々とか、友達とか、そんなもの宇宙人に必要なものではないのだから。そんなものいらない。欲しくない。宇宙人として当たり前の行動だ。

「で?話って何のこと?」

 姫路が出ていったのを皮切りに、私は喧嘩を吹っ掛けた。

「大体ねえ、あなた最近調子乗りすぎなのよ」

 先陣を切ったのは出森だった。

「ちょっと最近いいことがあったからって、うざくて仕方ないのよ」

 いいこと?んなことあったっけ?もしもクラスで話す奴ができたことだというのなら、それでこんな仕打ちが受けるなんて私はどれだけ権力がないのだろう。

「そうそう、そもそも何よその包帯。馬鹿じゃないの?」

「可愛娘ぶってんじゃねーよ」

 他の女子たちも次々と取り囲んできていた。気づいたら私は、教室の窓端で四人の女子に四方八方ふさがれていた。

「そんなことで私をいじめてたの?暇ね。あんたら」

 私は目一杯煽った。どうせ抵抗できないんだから、これくらい言ってもいいだろう。そんな甘いことを考えていた。しかしながら、相手は生半可で私を返す気はないらしい。それを聞くと、いきなり陰湿女子三人衆が一角、高見が私の頬をビンタした。

「あんた、あんたねえ…なにがそんなことよ。私たちがどれだけ傷ついたと思ってるの!」

 いや現在進行形で傷ついているのは私だけどな。

「鬼だわ」

「がちで悪魔。生きてる価値ない」

「ほんとひどいわ」

 他の女子たちも口々と私に罵声を浴びせた。この時間があと何分続くのかなあなんて思った矢先、いきなり誰かの携帯が鳴った。

「え?嘘!」

「もう来たの?はやくない」

「ちょ、心の準備が…」

 女子三人が驚いていた一方で、出森だけが状況についていけていないことを私は見抜いた。そして次の瞬間だった。いきなり高見は出森を突き飛ばした。それは私が姫時にしたような小突きではなく、両手を開いた相撲のような押し出しだった。無論出森は、状況についていけず困惑していた。そして高見は言い放った。廊下まで聞こえんとするほどの大声だった。

「ちょっと、出森さん何してんの!?」

 この声と呼応するかのように、教室のドアが開いた。ドアの向こうには安藤先生が立っていた。



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