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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第5章、家田杏里と世界征服
33/166

33枚目

 次の日になっても、私は教室で誰とも話さなかった。確かに少し落ち着かない感覚がしたが、それは多分気のせいで、だって私は宇宙人なのだからと呑気に暮らしていた。しかしながら、そんななんとも言えない状況の中でも、一際周りの空気を読めない奴が私に声をかけてきていた。

「家田さんお疲れ!お昼会うの久々?」

 有田雄二その人である。彼が話し掛けると、教室が一瞬ざわつく。それが不快で仕方なかった。

「まあそうだね。雨降ってると練習ないの?」

「そもそも雨降っても練習続けてる頭のおかしな奴らなんて野球部ぐらいだぜ」

「そうなんだ…すごいね野球部!」

「そうだな」

 そう言いつつ彼は少しにやけた顔をしていた。私はそれを見て不機嫌になった。こいつには、空気を読むという人間の基本的能力を一刻も早く学習し身に付けて欲しいと思った。

「何?一緒にご飯食べるの?」

 私はぶっきらぼうにそう聞いた。

「いや、今日雨だからミーティングだし」

 有田は屈託のない笑顔でそう言った。用もないなら話しかけないでよと睨みたくなった。

「そっか、お疲れさま」

 私はそう言うと逃げるように教室を出た。誰か彼に今の状況を教えてくれはしないかねと思ったが、そう言えば有田はここのところ部活動に精を出していて、中々昼休みクラスにいる姿を見なかったことを思い出した。それなら致し方ないかもしれない。しかしながら、もしもクラスに常駐していたとしても、自力でこの状況を察するのは不可能だろうな。私に取って有田とは、それくらい評価の低い人物だった。

「あ、家田さん!遠垣さんのところ行きましょう!」

 程なくして私は姫路と落ち合った。最近はこのように、教室の外で会話を始めることが多かった。

「ごめんね、待たせちゃって」

「や、大丈夫ですよ。纏菜は待つの平気な子ですから!」

 そう言って彼女はなぜか腕をぐっと盛り上げた。そして少し躊躇いながらこんな質問をした。

「あれから、どうですか?」

 ん?なんの話だろう。曖昧な問いだ。しかし聞き返すのもなんとなく気が引けた。でも多分…私の身を案じて言ってくれているのだろう。

「うん、大丈夫だよ。心配ありがとう!」

 そう言うと姫路は見たことないほど顔色が明るくなった。そしてこんなことを言った。

「姫路はいつでも家田さんの味方ですよ!だって、ライバルには全力で向かってきて欲しいじゃないですか!」

「そ、その戦いはまだ続いてたんだ…」

「当たり前です!私が勝つまで勝負です!」

 こんなことを言っているが、実は前回の勝負は姫路の勝ちであった。しかし彼女は納得がいかないご様子だった。何故なら、5教科10科目は全て私の方が点数がいいか、良くて同点であったからだ。では何故、彼女の方が総合で良い点数になったか。すぐ察せられるだろう、私は保健体育でその貯金を全部使い果たしてしまったのだ。これまで取ったことのなかった60点という点数に、私がほんの少しだけ絶望してしまったことは内緒である。

「だから、屈しちゃダメですよ!家田さん!!」

「う、うん」

 あまり姫路の会話についていけないまま、それでも私のことを心配してくれていることは十分に理解し、少し心が穏やかになった気がした。そんな私の心情など何も推し量らないかのように、姫路は天真爛漫な表情をしてぐんぐんと歩いて行った。

 遠垣の教室に着いた瞬間に、めちゃくちゃ大きな声が聞こえ、私は数歩のけぞってしまった。

「飯食べる相手くらい自分で選ばせろ!」

 そう言いながら教室を出たのは、紛れもない遠垣来夏本人だった。

「あ…とおか…」

「ごめんだけど、今日から私の教室無理になった。別のところ行こう!」

 そう言って彼女は私たちの手首をつかんで教室から離れるよう誘導した。私も姫路もなされるがままだった。一体、彼女の教室で何があったというのだろう…


 青春漫画等では定番の屋上だが、今は閉鎖されているところが大多数だ。落ちてしまう可能性やエスケープに使われる可能性のせいだろう。そうして屋上に行くことはできないのだが、そこにつながる階段は、別に出入りすることができた。恐らくこの学校において最も人が出入りしていない場所であろう。しかしそれは、裏を返すと逃げ場として最適だった。

「はあ、やっと飯が食べられる」

 そう言って一息ついた遠垣にたいして、私は無言で見つめていた。

「にしても遠垣さん…どうしたんですか?なにがあったんですか?」

 私が聞きたいような凡俗なことは、優しい姫路が全部聞いてくれていた。

「やー参ったんすよ先輩。なんか、これまでクラスで全然話しかけてこなかった女子たちが急に話しかけ始めて、それがまた誰がかっこいいだのイケてるだの男の話ばっかりしてきて、めっちゃ退屈だったんですよ。それで適当に合槌打ってたら、昼休みになっていきなり一緒にご飯食べようとか言いだして…いや先輩方と食べるからって」

「私そういう女子苦手」

「私もです」

 ここは意外にも、そういったクラスの中心女子が嫌いな集団だった。顔で見ると私以外の二人は美形だし中心側に居そうなものなのだが…まあ、こんな言い方はあれだが、物理的に面倒な奴と精神的に面倒な奴だから、この集団に居ても何らおかしいとは思わなかった。

「それで先輩方と食べるって言いだしたら、なんか先輩方の悪口言い始めて、もう耐えられなくなったんで怒鳴って出てきちゃいました」

「わ、悪口!!!!そんな、私はまだしも家田さんに悪口なんて…」

 いやたとえ誰相手でも悪口はよくないことだがな。

「優しいね。遠垣さん」

 そう言うと、遠垣は少し照れた顔をしていた。

「ありがとう。でも…これはいじめられちゃいそう…」

 遠垣の不安そうな顔を見て、即座に姫路は訂正した。

「大丈夫ですよ。纏菜がいますから」

「わ…私もいるよ」

「先輩は守られる側でしょ」

 そう言って遠垣は少し照れた顔をした。そしてこう言った。

「ありがとう…ございます。2人とも」

「というか、私のせいかもしれないしね」

 私はそんな自虐を飛ばした。

「そんなことないです。たとえそうでも家田さんが気に病む必要はありません!」

「まあ、元々クラスに馴染めてなかったし、大丈夫だよ家田先輩」

 そう言いながら三人で笑いながら昼ご飯を食べた。私は少しだけ感じた罪悪感を押し殺しながら過ごした。本当にいい人たちと巡り合えたなあと感動していた。彼女たちがいる限り、私はどんな目にあっても何とかなるだろう。そんな楽観が私の心を満たしていた。


 次の日、遠垣は学校を休んだ。学校内ではとある噂が独り歩きしていた。遠垣来夏は、いかがわしいお店でバイトしているらしい、というものだった。


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