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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第3章、クラスメイトとボーリング大会
19/166

19枚目

「沢木ー」

「ん?阿部ちゃんどうしたんすか?」

「そっちどんな感じ?まだやってるとこ?」

「まあそうっすね。どうしたんすか?」

「なんか、全部のレーンの第一ゲームが終わらないと第二ゲーム目に行けないらしくて…今の所沢木のところだけなんだけど」

「あーそれは時間かかるっすよ阿部ちゃん。まだまだうちは8ゲーム目っすから」

「あー本当だ!進み遅くない?」

「そらそうだろう」

 いきなり結城が話に割り込むのを、私は耳をそば立たせながら聞いていた。この集中力の無さが、ボールをガーターへと誘わせた。

「うちにはゴロゴロクイーンがいるからな」

 あん?またその話か?お前ここに人が来るたびにその話してるだろ?8ゲーム目の2回目を見事0点で終わらした私は、まるで大物芸能人のように横柄に椅子に座り飲み物を口に含んだ。

「でも結構点数的にはいいよね杏里ちゃん。スペアも出してるじゃん!」

 阿部は沢木に誘導されたのか私のことを下の名前で呼び始めた。私はきっと睨んだ。そう簡単に下の名前を呼ばれてたまるものかという謎の抵抗心を出していた。

「すごいね!」

 無論そんなこと気にも留めない。

「あ…うん…ありがとう」

 私はそう言った後瞬時に付け足した。

「あ、でも予定遅らしちゃってごめんなさい」

「あーいいよいいよそんなこと」

 阿部もそういった後瞬時に付け足した。

「なんか杏里ちゃんって、小動物ぽいよね」

「あーわかるっす」

 阿部の言葉に沢木が間をあけず同調した。

「常におどおどしてるし、声小さいっすもんね」

「それはあんた基準だからでしょ?」

「たはー阿部ちゃんの突っこみ鋭すぎっす!」

「や、普通のことだぞ」

 結城が口をはさむ。

「結城君はどう思う?一番杏里ちゃんと仲良さそうだけど、どんなイメージ?」

「べ、別に仲良くないし…」

 私は少しそっぽを向いて、伏し目になりながら言った。

「うーん」

 結城は少し考え込んでいた。すかさず私は突っ込みを入れた。

「いや、答えなくていいか…」

「宇宙人、かな」

 それは事実だろう。イメージと聞かれて事実答える奴なんて、初めて見たぞ。

「それイメージじゃなくね?」

「そうっすよ仁ちゃん、それは事実っす」

「それもそうか」

「あんたら…マジで言ってるの?」

 マジで言ってますけど、なにか?私はさらに阿部のことを睨んだ。一般的地球人とはいえ、彼女もまた宇宙人実在否定論者であったか。全く、この世界には馬鹿と変態しかいないのだろうか。

 この後も、阿部と沢木と結城によって繰り広げられる会話に、度々困惑させられる自分、家田杏里の姿があったことは自明であろう。


 ラストゲームになるころには、私たちのレーンにクラス中の人間が集まってきていた。見どころは二つ。

「結城の点数すげえ」

「これ200点行くんじゃねえの?」

「結城君ボーリング得意なんだぁ」

 恐らくクラスで一番点数が伸びているであろう結城仁智を見に来ている層と、

「最初家田さんからか」

「家田は地味に楽しみ」

「案外伸びてるじゃん点数。最初あんなひどかったのに」

 クラス1の珍プレーを生み出した女、私を見に来ている層だ。

「ギャラリーすごいっすね」

 沢木は自分が注目されていないことをいいことに他人事な言葉をかけてきた。私は手足をブルブルさせながらボールを取りに行った。

「どうしたんだあ…家田さん。緊張?」

 結城の声掛けに、私は小さく頷いた。皆さんご存知かどうかは知らないが、私は緊張しいである。周りから注目されるのも苦手だし、期待されるのも苦手。目立つのも苦手だし、とにかく人前に立つのが苦手だ。この点は、私が宇宙人であってよかったと思う点の一つである。宇宙人だから調査活動をするために否が応でも影を薄めなければならない。もしも私が、皆の前で目立ちたいとかいう自己顕示欲の塊だったとしたら、こんな仕事続けられなかっただろう。不幸中の幸いという奴だろうか。ちょっと違うかもしれない。

 私は、なるべく下を向いたまま歩いて行った。持つたびに重さを感じた約4キロのボールが、この時だけは一段と重く感じた。後ろでざわざわと声がしていた。気にしたら負け、なんていうのは簡単だが、そんなのは無理だ。気になって気になって仕方なかった。

 それでも…私はボールを両手で持ったまま、下手投げでふん、と投げ入れた。ざわざわ声は、笑い声へと変貌した。ボールはごろごろと音を立てて、ゆっくり、それでも確実にレーンの真ん中を転がっていった。

 ピンにぶつかったボールは、それで勢いを止めることなくピンの集団を突き抜けていった。次々とバタバタ倒れるピン。一本を残して、すべて倒れてしまった。笑い声は、不思議な歓声に変わった。

「下手投げ有能だなあ」

 ボールの返却を待つ私に、結城がそう声をかけた。

「教えてくれてありがとう」

「いやいや、でも下手投げでまっすぐ転がすのって、案外難しいんだぞ。どうしても回転かかるし」

「それは褒めてるの?」

「ほめてるよ。下手投げが上手いって」

 なんだか釈然としないほめ方だな。そんなことを思いながら、もう一度ボールを手に取った。一番端っこのピン、ここに私のすべてをぶつけるのだ。

 私はあえてガーターすれすれの端っこからボールを投げた。勿論下手投げだ。しかしその軌道は正確無比に、ガーターと平行線を描いて飛んでいき、最後の生存ピンに直撃した。

「すげー」

 有田の声だった。他のみんなも、拍手を送っていた。いや、スペアごときで拍手をもらっていたら、結城なんかもうストライク5回スペア3回だぞ。そんな捻くれたことを思っていた。

「すごいね、家田さん!」

「もう私よりも点数いいじゃん」

「これ100点超えるんじゃね?」

「やばい俺家田さんに負けるかも」

 顔も名前も満足に覚えられていないクラスメイト達が次々と口を開いていた。私はどう反応していいのかわからず慌ててしまった。まさか最後にしてこんなにうまくいくとは…

 ボ-リングは最後スペアかストライクをとると三投目がある。皆さん知っていただろうか。私はさっき教えてもらった。

「家田さん、三回目頑張ってね」

 誰かわからない人が応援の声を上げた。

「う、うん。ありがと」

 つい声が小さくなってしまった。目が伏し目がちになった。恥ずかしくて仕方なかった。でも少しだけ、悪い気がしなかった。

 そして私は三投目に向かった。もうボールは重くなかった。今となっては、片手で投げられるのではないかとさえ思った。後ろの声も、すべて私に向けられた歓声のように思えた。誰かに見られていることをこんなに快感に思ったのは、恐らく初めてだ。

 息を吸って、前を見た。もう伏し目にはならなかった。周りを見る余裕すらあった。後ろからは杏里コール、それに応えるように、左手でボールを掴み、右手を突き上げた。

 思えばこれがすべての始まりだった。

 私は少し左によろけた。流石にボールを片手で持つのは大変だったのだ。よろろとよろけて、そのまま左足がバランスを崩してしまった。地についた左足を背負いながら、立ち続けるなど不可能の業だ。私はそのまま体全体のバランスを崩した。その時、不幸にもボールが手から離れた直後だったのだ。

 真っ逆さまに地面へと向かっていく私の頭に、ちょうどよくボールが横入りしたのだ。私は覚悟した。これボールとぶつかる奴だと。これ死ぬ奴だと。

 辞世の句を読む暇もなく、私は気を失ってしまった。


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