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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第3章、クラスメイトとボーリング大会
18/166

18枚目

 じわじわと収束していく手首の疲労感とともに、私の心拍数は急激に上昇していった。確かに私はボーリング初体験だが、まっすぐボールが届かないどころかそもそもピンまで届かないなど、前代未聞である。ん?何故それがボーリング初体験の私にわかるのか、だって?そんなもの、周りの反応を見てたらわかるわ!

 結城が呼んできたスタッフの人も困惑していた。もしかしたら磨くのが足りなかったのではないかとまで言い始めた。違うんです、違うんですぅー。私が非力すぎるだけなんですぅ。いやホントごめんなさい。謝らないでください。もしかしたら私達の責任とか、そんなことないので。平和で友好的なアルフェラッツ星人にはこんなことで怒る人とか居ませんから。そんなことをスタッフの方に対して思いながら、なんとかガーターとして再開することができた。

「ん?何席ついてるの?」

 椅子に座って悶絶していた私を、結城は無情にも気に留めてしまった。

「ボーリングはストライク取らない限り2回投げるんすよ。ほら頑張って頑張って!」

 沢木はそう言うと私のボールを手渡してきた。私は絶望した。なんてことだと小声で呟いてしまったのだが、それが2人に聞かれていたらしく大爆笑を誘った。

 またもう一回投げなければならないのか…せめて少しくらい間を置かせてくれよ…もうすでにトラウマ級の失敗をしたと言うのに、まだ恥を上塗りするのか…

 私はボールの穴に指を入れた。足も手も全てがガクガクしていた。私には特殊能力として、周りを見渡さなくても誰が誰に視線を向けているか判別できるようになったようだ。クラス中の人間の視線を感じた。下を向いたままでもわかった。

 GO!と言う文字が、都合2回しか見ていないにも関わらず大嫌いになってしまった。私は恐れおののきながらボールを投げた。

 投げた瞬間にわかった。前回よりは、少し早く転がっていった。しかしながらそれでも、亀の歩くスピードと比べられるくらいゆったりだった。クラス中がどっと湧いた。隣のレーンとは何倍かも分からぬ遅さで進行していった。

 私は天に祈った。手と手をギュッと握った。頼む、もう次は途中で止まらないでくれ。私は必死にアルフェラッツ星の神様に縋った。

 私の願いが天に届いたのか、ボールは勢いを落とすことなく動き続けた。そして、1番手前のピンに当たった瞬間、止まってしまったのだ。

 この読者の中にもしやボーリングの様子を見たことがない者もいるかもしれないが、それでも普通のボーリングの球はピンに当たってピタッと止まるなんてことはない。そのまま転がり続けて通過するのが普通だ。というわけで、この異常事態2連発に、またクラス中がどっと湧いた。こんな形で注目されるのも、笑いを取るのも、不本意この上なかった。

「杏里さん!いえい♪」

 席に戻ってきた私に、沢木はハイタッチを要求した。私は何が何だかわからないまま彼と手を合わせた。そしてまるでついでのように結城も手を上げていたので、パンと沢木より少し強めに手を合わせた。

「…で?これは何のハイタッチ?」

「祝!初ピン倒し!っすよ」

 沢木は何の嫌味も感じない口調でこう言った。

「最初の見た時、マジで一本も倒せないと思ってた」

 結城は嘲笑を押し殺しながらそう言った。こっちには嫌味を全開に感じた。やはり裏の顔を知っているか否かは、その人の行動1つ1つの評価に影響するみたいだ。

「まあ、ボールがピンに当たって止まるってのもあんまりないっすけどね…」

 沢木の言葉に、結城は吹き出して笑い始めた。

「結城笑うな」

 私は目一杯不機嫌そうに言った。

「いやいや無理。さすがにおもろすぎるwww泰斗笑かさんとってwww」

「ほら、杏里ちゃんの次は仁ちゃんっすよ」

「ああw今すぐ行くwww」

 そう言いながら結城は、笑いをこらえきれないまま18ポンドのボールを持った。指を穴に入れたら、彼はふうと大きなため息をついた。

「2回ともガーターだったらいいのに」

 私は小声で腹黒いことを言った。いや、これは正論だ。真剣に頑張っている人間を笑うなんて、これくらいの罰を受けてしかるべきなのだ。

「そうなったら面白いっすけど、あいつに限ってそんなことはないっすね」

「ん?なんで?」

 沢木の言葉に反射神経だけで聞き返してしまった。私は刹那反省した。

「まあ、見てたらわかるっすよ」

 沢木がそう言った直後、結城がボールを投げる準備を整えていた。

 素人以下、初めてボーリングをやる私にすらわかるほど、結城のフォームは綺麗だった。ピンと伸びた腕、適度に曲がった柔らかい膝、しっかり落とした腰と猫背にならない背中、その全てが完璧だと思えるほど美しかった。そして、力が入っているのか疑いたくなるほどゆったりしたフォームから、とてつもないスピードのボールが転がり、ピンまで一直線に伸びていった。そして、勢いよくぶつかったピンは、為すすべなく全て倒れていった。スクリーンには妙な音楽とともに「STRAKE!」と表示された。

 またクラス中がどっと湧いた。これは私の時とは明らかに異質な、尊敬や賞賛を込めたものだった。

「仁ちゃんイェーイ!」

 沢木はまたハイタッチを要求していた。私もそれに便乗した。これはちゃんとした理由のあるハイタッチだった。結城は沢木とハイタッチした後、私とするときはほんの少し戸惑ってから手を合わせた。

「いやーさすがっすね仁ちゃん」

「久しぶりだからストライク取れるか心配だったわ」

「もしかして…結城くんってボーリング得意なの?」

 結城は少しだけこちらを見た。

「まあな。手でボールを扱うスポーツなら大体行けるかな」

「そし、次俺っすね!絶対ストライク取るっすよ」

 そう言って沢木は勢いよく席を立った。隣には、結城1人。少しだけ気まずいなあと思ったのは、助けてもらった借りがあるからだろうか。いや、単にこの男の裏の顔を知ってしまったからだ。多分。

「あ…ボール投げる時、両手の方が投げやすいし勢いもつくよ」

 急に話し始めたので、私は反応できなかった。数コンマ経ってようやく私の話だと気づいた。

「え?ボールの穴はどう使うの?」

「使わない」

「マジかー」

 ちょっと恥ずかしいと思ったが、途中で止まるよりはマシか。

「次はそう投げたらいいと思うよ…」

 こんな所で励ましてくれるのか…私は彼に対する評価を少し上げ…

「…杏里さん」

 はい、結城株暴落のお知らせである。

「は?なんで杏里さんとか言うの?気持ち悪いから家田さんにして」

「…泰斗にはそう呼ばせてるくせに」

「呼ばせてないわよ!彼には否定したいのにさせる時間がないだけよ!」

「どうだかねえ」

 結城は小さなため息をついた。なんだこいつなんかムカつくなあ。

「あんただって仁智君とか言われたら気持ち悪いだろ」

「べ…別にいいけど…」

「ほら言葉に詰まったー。本音隠してもダメだよ。そうやって、自分がやられて嫌なことを他人にするなんて、だから地球人は陰湿なのよ」

「そんなんじゃないし…そういうことなら仁智君って呼んでよ」

「は?」

「んで杏里さんって呼んだらイーブンだろ?」

「何がイーブンだ。どちらもされて嫌なことするとかマゾコンビか私らは?」

「俺は嫌じゃないけど…」

「マゾだね」

「むしろ…呼んでほしかったり…」

「やっぱりマゾだ」

「だからちが…」

 ここで真っ赤な顔で反論していた結城の言葉が途切れた。

「仁ちゃん!仁ちゃん!見るっすよ!」

 沢木の介入だった。

「見るっす!ストライクっすよ!どうっすか?見てたっすか?」

「すまない全く見てなかった」

 沢木は顎が外れそうなほど口を開けて驚いていた。

「あ、私も…」

「えーーなんでっすかー!沢木泰斗渾身の一撃だったんすよー」

「やーちょっと家田さんと口論してて…」

「何やってんすかーもう!何があったか知らないっすけど、仲良くしなきゃダメっすよ!」

 いや半分くらいお前のせいだけどな!!私は声に出すのをぐっと我慢しながら心の中で突っ込んだのだった。

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