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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第18章、家田杏里とけいおん活動
145/166

134枚目

 その週の月曜日、私は古都に来ていた。

「あのう、先輩?」

「何?」

「ここ一応メイド喫茶なんですよ?」

 遠垣が相変わらず可愛らしい格好をしながら外面にこやかに応対していた。一つ大きく違う点を述べるならば、ツインテールにしていたことくらいだろうか。

「知ってるけど?」

「あなたが今持っているこれは何ですか?」

「詩集、谷川俊太郎」

「先程私になんてオーダーしました?」

「うまい歌詞の作り方教えて」

「……先輩、メイドにもできることとできないことがあるんですよ??理解してます?」

 遠垣は呆れ顔で机を叩いた。軽くだったけれどもダンという音が鳴り響いた。

「メイドさんって何でもできるんでしょ?炊事洗濯掃除暗殺」

「最後のはあくまでメイドのやつだけですよ」

「いやそれ以外にも結構メジャーでしょ?実は暗殺者のメイドさんって」

「いやそうですけど……」

「そんだけできるんなら歌詞の一つくらいアドバイスできるでしょ?」

「いやいや、私は……そう、私、見習いなのでそういったことはできなくてぇ!!ごぉめんなさぁい」

 抑揚のつけ方が的確すぎて私の青筋を刺激した。

「それじゃ、失礼しまーす!!」

 そしてさっさと帰っていった。いやいや、私のオーダー何一つ通ってないんですけど……

「宮沢賢治って泣いた赤鬼書いた人だっけ?」

「有田、それは浜田廣介よ。大体宮沢賢治が亡くなった頃くらいの作品ね」

「へー全然わかんねえわ」

「……銀河鉄道の夜とか、注文の多い料理店とか有名でしょ?」

「あーあの人?めっちゃわかりやすい文章だった気がするけど、これ難しい詩ばっかりじゃない?」

「……まあそれに関しては同意するわ」

 比較的本を読む私でも、あまり詩集に手を出してこなかったので、こうした類の本には頭を抱えざるを得なかった。近くの図書館で借りて来た有名詩人の詩集と睨めっこする謎の時間に、そこまで文学に興味のない、というか学問に興味のない男を引っ張り出して来たのだから、頭を抱えて読んでいる彼には同情していた。今日に関しては流石に私が迷惑をかけている。今日の場所代は私が受け持とう。

「つうかさ、文化祭での歌詞を考えるのに、なんでこんな昔の詩集持ち出して来たの?もっと今風の歌詞から考えたら良いのに」

「ははははは面白い冗談ね。有田君?私がそんな方々の存在、知っていると思って?」

「秋元系列のアイドルグループは知ってるだろ」

「たかが地球で轟くアイドルなんて、私たちアルフェラッツ星人からしたら小童も小童よ。せめて銀河系規模になってもらわないとね」

 私は手を横にして馬鹿にした笑いを浮かべた。少し睨まれた気がするが気のせい気のせい。

「だとしても、これはハードル高くない?」

 有田はそう言ってパタンと本を閉じた。

「そ、そうかなあ……」

「別に歌詞を書くんだから、詩を書くわけじゃないんだろ?なら今流行ってるアーティストとかの歌詞見た方が結構いい線いけるんじゃね?ほら、SHISHAMOとか、ちょっと前だったら西野カナとかさ」

「会いたくて会いたくて震えるやつ?」

「結構知ってんじゃねえか!」

 鋭いツッコミが飛んできた。

「宇宙人とやらも随分と日本に染まってきたようで」

「いやそれ歌わされたし」

「いつ?」

「一昨日、バンドメンバーの前で」

 例のカラオケである。古今東西、悪ノリで演歌を歌い、英語の発音ボロボロのまま洋楽を歌い、いつのものかわからない歌謡曲を歌い、往年の名曲を歌ったあの日、私に残ったのは喉の痛みと全身の疲労感だった。勿論他の人達も歌ってはいたのだが、ダントツで私が疲れた気がする。何故だろう。武田なんて、めちゃくちゃ元気なツラしてたのに。

 今でも覚えている。彼女の無垢な悪魔を。

「んじゃ、来週までに歌詞考えてこよっか!」

 大まかでも良いから、曲作るのに使うからお願いねー!!そう言って言い逃げしたあの女を、私は許さない。そして、ちょっとだけやる気を出して歌詞考えてくるとか言っちゃった昔の私を後悔する。しばらく後悔する。

「そういうのはお気に……」

 ふと言葉が途切れた。そして……

「ツインテールって人選ぶよな」

「おい有田。話を急転換するな振り落とされてしまうだろう」

 私はついていた肘をガクッと落としてしまった。

「いやあまさかツインテールの日に来ることになるとは思わなかった」

「もしかして今日来る予定なかったの?」

「いやそもそも今日雨降らなかったら普通に練習してたからな」

「あーそう言えばそうだったね」

「姫路が来てないのはあいつら雨降ろうが何しようが関係なく練習できるからで、俺は急に予定空いたから駆り出されたんだろ?」

「完全に抜け落ちてた」

「お前なあ……」

 有田はそう言いつつ辺りを見回していた。

「ツインテール、好きなの?」

「そこまで」

「リモのツインテールは?」

 リモとはここでの遠垣来夏の芸名だ。リモートからとったって言ったら不思議な顔されましたよーって昔笑いながら言っていた。リモって、愛嬌あって良い名前だと思うんだけどなと、私は擁護した記憶がある。

「……あり」

「結構はっきりいうのね」

「お前らと違ってな」

 パタン!動揺して、手に持っていた谷川俊太郎の詩集を落としてしまった。

「お、お、お、お、お、お」

「おおおおうるせーぞ」

「お……私の何が問題と?」

「しかもおから始まんねーのかよ!!」

 私はあたふたとしながら机の本を手に取った。

「いやそれ俺が読んでた宮沢さんのやつ!まあ良いけど……」

「あ、あああああ」

 動機が早くなる。呼吸速度も速くなる。結構直球に聞かれすぎて、逆に動揺してしまう。

「何ビビってんだよ。同じベットで一夜を過ごしておきながらこんなツッコミ一つで動揺すんなってえの!」

「な、な、ななななな!!!!それは違う!それは違うぞ!!!」

「何が違うんだよ!!」

「あれはそう、たまたま同じ布団で寝てしまっただけの、それだけの話よ!!」

「どういう状況だよそれ!」

「あれはに深淵よりもさらに深い、そうニーチェすら覗いていると宣わないほどの理由がある……」

「大体、あんな状態になったら手出せっての。仁智」

「あんたとはち、違うのよ」

 そう言いつつコップを持とうとしたら、手に持とうとして倒してしまった。水が溢れて本へと向かっていく。

「ふぎゃあ!!!!」

「ちょっ!!ちょっと!!!」

 さっと有田が本を机から離し、私はコップを立てたが、水はその大半が溢れてしまった。

「こちらお使いください!!」

 たまたま通りかかった金髪ツインテールの女の子がさっとお手拭きを出してくれたお陰で、すぐにテーブルの上から水たまりを除去できた。

「あ、あわあわ」

「家田動揺しすぎだろ!!」

 有田は笑いながら吹くのを手伝っていた。良かった。まだ商品が来る前でよかった……久しぶりにこんな典型的などじをした気がする。

 ひとしきり笑った有田は、少しきつめのトーンでこう尋ねて来た。

「なあ、家田。()()()()()()()()()()()()

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