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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第3章、クラスメイトとボーリング大会
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14枚目

 その日の昼休み、私は遠垣にこのことを話した。

「ボーリングかあ、長いことやってないんだよなあ」

 遠垣は呑気な言葉を紡いでいて、もう少し私の気持ちを汲んで欲しいとさえ思ってしまった。

「よく子ども会とかで行ったんだよ。あれ低学年の子から高学年の子まで幅広く楽しめるから人気なんだよ。低学年の子にはガーター無しにしようってネットみたいなの貼ってもらったりしてた記憶があるなあ」

 誰もいない中庭の藤棚で、2人してパクパクとパンを食べていた。今日はサッカー部も野球部も昼練習があるらしいから、私達2人でのご飯だった。

「まあ私は小さい時、ネット張ってるのにガーターしちゃったことあるんだけどね」

 そう言うと遠垣は思い出し笑いを始めた。

「ど、どうやったらそうなるの?」

「やーあの時はアホでね。目一杯投げようと思って腕を大きく振りかぶったんだよ。これくらい!」

 遠垣は徐に立ち上がると腕を後ろにぐんと振りきった。その急さに私もびくっとなってしまった。遠垣は姿勢を屈め、あたかもボーリングをしている様子を映しているかのように見せた。

 そして彼女は後ろに持って来た腕をぶんと前へ持って来た。あたかも転がすのではなく遠くへ投げるかのような動作だった。

「こんな感じに、めっちゃバウンドつけたんだよ。そしたらネット超えてガーターに入っちゃって…もうみんな爆笑!私は恥ずかしくて仕方なくてその場でへなへなって座り込んじゃった」

 彼女はそう言うとすっと座り込んだ。

「だから、まあ、ボーリングも楽しいんじゃないかな?1番は仲良い人と行くことだと思うけど」

「そ、そうかなあ…」

 私は曖昧な返事をした。遠垣はそれを更に疑問に思い尋ねてきた?

「あれ?もしかして行ったことないんだ?」

「故郷で映像を見たことならあるぞ」

 遠垣はもはや突っ込まずに話を続けた。

「そっかあ…初めて行くんだーどうせボーリングやるんなら、ラウンドランとか?」

 日本の若者の主要娯楽施設、ラウンドラン。ボーリングの他にゲーセンやカラオケなど様々な娯楽が楽しめる大型店舗だ。それは少し田舎が顔を出すこの街にもあって、繁盛しているのを知っていた。

「いや、私鉄側のボーリングらしいよ」

「あーそういやあるね。ボウルバスターだっけ?」

 遠垣は2割増しで元気な風に思えた。

「もしかして…ボーリング好きなの?」

 私は恐る恐る聞いた。

「んー好きというか、懐かしい。私小学生の頃東北に住んでたんだ。ここよりよっぽど田舎で、ラウンドランなんて無かったくらい。だから、一個しかないボーリング場が唯一の娯楽施設だったんだ」

 遠垣はここで一呼吸置いた。

「こういう話、こっち来てからあんまり昔話する機会なくてね。当時の知り合いとかいないし。だからボーリングって聞くと小学生の頃を思い出してとても懐かしくなるんだ」

 なるほど、そういうことか。

「また、今度行こっか?」

「マジで!行こう行こう!!」

 割と無責任な約束だったのだが、遠垣は思ってた以上に食いついてきた。私は心伴わず誘いの文句を投げた自分を戒めつつ、そう遠くないうちに遠垣とボーリングに行こうと決意した。

 そうだ。所詮娯楽というものは、何もするかではなく誰とするかである。仲の良い友達でも良い、お互いを知り尽くした恋仲でもいい、本人が納得しているなら別に1人だっていいだろう。こうした状況だと、楽しくないなんで感情にはなりにくいはずだ。問題は、特に仲が良いわけでもないクラスメイトとどこかに出かけることである。私みたいに馴染めていない、馴染む気すらない生徒にとって、その先がどんな魅力的な場所でも憂鬱へと様変わりするだろう。つまるところ、私は未だにクラス会に否定的だったのだ。もうどうにもならないと分かりながらも、できるなら行きたく無かった。

「あんたのところは、そういうクラスの集まりとかしないの?」

 私はそれを暗に訴えるかのように遠垣に訊いた。

「あー聞かないなそんな話。もしかしたら私の知らないところで話し進んでるかもだけど」

「悲しいこと言わないでよ」

 2人してはははと笑うと、何処と無く物悲しい気持ちになった。

「でも…多分ないかな。まだ知り合って1ヶ月だし、様子見って感じだ。授業とか部活とかも入ったばっかりだし…」

「確かにねえ」

 そう相槌を打った時、私はふっとあることに気づいた。そう言えば、彼女はなんの部活に所属しているのだろう。

「まあ私は部活入んなかったんだけどね」

 私が訊くよりも前に遠垣自身から話を始めた。

「そうなんだ!バイト忙しいから…?」

「や、そんなわけじゃないんだけど…ね。ちょっとこれ!っていう部活が見つからなくて…」

「ま、まあ無理して入るものじゃないしね。私も入ってないし」

「先輩は入れてくれる部活がまずないんじゃ…」

「ひどーい」

 私はふくれっ面をした。でも確かに、私ははなから部活に入る気は無かったし、部活の勧誘もされたことがなかった。いや、一回だけ化学研究会に勧誘されたか。その時は、正直少しだけ興味があったものの、調査活動の時間が欲しくて泣く泣く断念したのだ。でもその一回のみだ。これは普通のJKはなかなか持ち得ぬ記録だろう。

「ここの学校、ほとんどの人が部活入るからね。クラスで浮いてない?」

「いやですねー先輩。浮いてなかったらこんなところ来てないですよ!」

 そう言って遠垣はケタケタと笑った。私は内心ドキドキしながら相手の応手を待った。

「それに、ここで飯食べる方が楽しいし!」

 そう言いながら彼女はメロンパンをパクついた。それにつられて私もパンを口に運んだ。確かに、息苦しい教室内でご飯を食べるよりも、ここで藤棚を見ながらベンチに座って食べるご飯の方がいい。

「でもクラスの人くらいと仲良くしておかないと、部活入ってない私たちは何のために学校に来てるんだかって感じではあるんだよね」

 遠垣が珍しく深い話を振った。

「や、勉学に励むためでしょ。私は、宇宙人として地球人の調査活動のためでもあるけどね」

 私はそれをあえて軽く受け流した。彼女には気づいて欲しかったのだ。隣で一緒にご飯を食べてくれる人がいるというのが、どれだけ大切なことで、どれだけ助かることで、どれだけ助けられているか…

「確かにそうかもね」

 そう呟いた遠垣はまたパンを口に入れた。私もつられて食を進める。私は、少しずつもやっとした感情が晴れていくのを感じた。誰かに話すことがこんなにも心を落ち着かせてくれるのかと感心していた。今だったら、前向きにボーリングを楽しめるかもしれない。そんな淡い期待を抱くほどに、私の心は回復していたのだった。

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