119枚目
「にしても、家田の部屋きたの初めてだなあ」
「いやいや、今更そんな話すんの?」
結城のしみじみとした時を逸した発言に対して、私は厳しく追及した。
「まあ大体の間取りは理解したよな」
「気持ち悪い」
「おいちょっと待て家田!」
有田の発言に私は突っかかった。ちらっと奥の方を見ると、遠垣がニコニコした笑顔を見せていた。
「何が気持ち悪いんだ!?」
「いや、なんかその間取りって言い方が……ねえ?」
「わかりますーわかりすぎます家田先輩!」
ほーら乗ってきた。
「遠垣さんまで!?!?」
「大体有田先輩はあれなんですよ!何となく行動が怖い時あるんですよ」
「ないない」
「ほら、前に私の家まで来て三日三晩説得しに来たこともあったじゃないですか」
どん!と片膝をついたのは、私の飲んでいたぐちゃぐちゃ飲み物を片付けてしまおうとしていた姫路だった。
「こわ……」
ガチでドン引きした顔だった。
「あの……姫路さん?冗談ですよ?冗談ですよ?」
しばらく固まった姫路纏菜。
「あ、そーいえばあのでっかいぬいぐるみ何?ペンギン?」
そして話題を変えるために枕元の近くに置いてあったぬいぐるみを指差していた。いやまあ、確かに気になる人には気になるだろうが。
「確かにでけえな」
結城も同調していた。
「後数年したらお前より大きくなるんじゃねえか?」
いや違う。弄るネタを探してただけだ。私はムッとなって反論した。
「何よそれ?マリアが成長するわけないでしょ?人間じゃないんだから」
「え?」
遠垣のえ?っに、思わず私は反論してしまった。
「あ、ごめん間違えた私も人間じゃなくて宇宙人だった……」
「いやそこをえ?って言ったんじゃなくて……家田先輩ぬいぐるみに名前つけてるんですか??」
遠垣のマジトーンが、場の空気を笑いに変えた。いやいやどこに笑う所あったよ!!
「いやいや、いいんじゃね?いいんじゃね?女の子らしいんじゃね???」
「う、うるさいうるさい!!!大体ねえ、あんたらはこのぬいぐるみを舐めすぎてんのよ!!!!それはねぇ!超高性能異種生命体挿入装置なのよ!!」
「超高性能?」
「異種?」
「生命体?」
「機械?」
「おい最後!結城!お前今完全に微妙なボケで違うこと言っただろ」
姫路遠垣有田ときて、最後の結城だけズレてしまっていた。100%故意である。
「ここには私の星、アルフェラッツ星人の生命体を召喚し、依代として活動の拠点に利用することができるのよ!どう?中々に高性能でしょ?この星にはないわよね?異星間で感覚共有のできる装置、なんてもの」
「そもそも人間が住める環境の星が見つかってないですけどね。十分な酸素吸引を見込める場所が……」
私は指を横に振りながら地球人の常識に囚われている姫路を制した。
「甘い、甘いよ姫路君!その考え方は実に甘い!大体我がアルフェラッツ星人だってこんな有毒ガスである窒素の充満した星なんて本来は住めるはずがないんだよ!!それを我が星の卓越した科学技術によってなし得ているのだ!!これもその一環さ!少し旧型の、まだその技術が伝播される前だけどね!!」
「因みにその中に今も人いるんですかー?先輩」
「残念ながら、中の人は帰省中だ」
「お前の星にもお盆の文化とかあるのかよ」
本当は一方的にやめたんだけどな。それは隠しておこう。しかし突っ込んだはいいものの、有田は腑に落ちない顔をしていた。
「勿論そうだ!一から話してやろうか?それなら……」
「あーちょっとまって、タイム、タイム」
そして私を手でばってんをして静止させた。
「なあ、結城」
「何だ?有田」
「お前ら結構仲良しよな」
「否定はせんが」
してくれてもいいのよ?照れちゃうから。
「こういう話題、時々なるの?」
「時々なるな」
「その時の家田って、こんな感じ?」
「こんな感じだな」
有田はひとつ、はあああと大きなため息をついて、そして結城の左肩にポンと手を置いた。
「ご愁傷様」
何がご愁傷様だこの野郎!!!!と言おうと思ったら、続いて遠垣も有田と同じところを叩いていた。
「ほんと、お疲れ様です結城先輩」
「いやいやいやいや」
なんで?ナンデェ?私は何一つとして嘘をついていないし、何一つとして空気の読めない発言をしていない。なのに何故、結城が面倒な人間と絡んでる的な雰囲気を出すのか!私が面倒な宇宙人である的な視線を盛り込んでくるのか!全くもって理解不能だ。これだから最近の地球の若者はというやつである。
「まあでも、ぬいぐるみに可愛い名前とかつけるのって、女の子だと割とよくありますよね」
姫路のフォローが飛んできたが、これが思わぬところに飛び火した。
「え……?」
遠垣がなんとも複雑な顔をして姫路の方を見てきたのだ。まさか同性から否定的な意見が来るとは想定していなかったであろう。姫路は多少焦りを見え隠れさせながら答えた。
「いや、結構並じゃないですか?ぬいぐるみに名前つけたりして可愛がるの。私もしてますよ?」
遠垣の顔は信じられないという呆れた感情50%と、もしかしたら異常なのは私の方なのかもしれないという心配の表情50%でせめぎ合っていた。私も同性の友達すらいないからよくわからないが、この場においてはぬいぐるみ可愛がり派が多数決で優勢である。
「そ、そ、そうですか……」
「俺んとこの妹はよくトラッキンってぬいぐるみ可愛がってたけどなあ。小学生だけど」
「え?有田さんって妹さん居るんですか?」
姫路が驚いた声を出していた。
「や、弟もいる。なんなら兄も姉もいる。5人兄妹よ」
「「「「え?マジで!?」」」すか!?」
全員が同じタイミングでこの言葉を放った。姫路だけはですかまでしっかりつけていた。
「年齢的にどれくらい離れてるの?」
私は上体だけ起こしたまま有田の方を見ていた。
「いっちゃん上の兄は大4で最近就活終わり、次の姉貴は大1、で、弟は中2で妹は小6だな」
「全世代満遍ないな」
「結城ほんそれ!惜しむべきは小学校から就職までってのが無理だったことだわ。来年兄貴就職する時に妹中学に上がるから」
「絶対親御さんの負担きつそうですよね?」
遠垣の言葉に少し有田は言葉が詰まった。
「まあ、な。でもなんだかいってサッカー出来てるし、案外なんとかなるもんよ。それよりも兄妹多いと親からのほっとかれかたのほうがやばいわ」
「あ、そうなんですか?」
「特に3番目はやばい。120%放置される。可愛がられた記憶ねえもん。特に幼少期は。最近上2人が大凡の進路決まってちょっとずつサッカーの試合とか顔出すことも増えたけど、それまで卒業式さえくるか怪しい始末よ」
あーという声が口々に上がった。
「まあでもしっかり5人とも育ててくれてるんだし、親には感謝しかねえけどな」
「そうですねー結構有田先輩も苦労してるってわかったのでもっと構てあげますね」
「おいこら遠垣!」
和んだ笑いが起こったが、それが一瞬にして緊張した。しかしその状態になったのは、私だけだった。
「そういや、結城の所も妹さんいなかった?」
早くなる胸の鼓動。思い出す数日前の所業。しかし結城は表情一つ変えずに答えた。
「あれいとこだよ」
「いとこ?」
「そう。懐かれて兄って呼ばれてるだけ」
あ、そうなのか。余計私の頭はこんがらがった。うー!うー!やめよう。こんなこと、考えてたらまた倒れてしまう。
「他のみんなは?」
「1人!」
「一人っ子です!」
「俺もだわ」
3人とも声をあげた。
「家田は?」
「ふっふっふ、愚問ね有田。私は宇宙人なのよ?アルフェラッツ星人なのよ?そんな私を地球人の常識に当てはめて……」
「あー一人っ子ね」
「なんだとう!?!?」
私は全力で憤慨しつつ、その後も渾身の宇宙人語りをスルーされ続けられてしまったのだった。