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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第16章、家田杏里と狂った予定
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118枚目

「うわあ、これ何入ってるんですか??」

 非常に呑気な顔をしながら遠垣はそう目を潤ませていた。確かにこれを作っている時、時間的に彼女は居なかったはずだ。しかしながらその言葉は、やけに白々しく聞こえた。私の体調が悪いから?関係ないわそんなの。

「これはねえ、家田スペシャルと言ってだね。家田が元気になってもらうために作った特別なスムージーなんだよ」

「わあああ、有田教授!!紫に変色してます!!」

「そうだろう。ここに入っているのは……おっと失礼。それでは頂こうか?モルモット君」

「誰がモルモットだ!?」

 謎のコントを挟みつつ、有田は泡立った紫色の飲み物をこちらによこして来た。

「ねえ、有田」

「なんだ?」

「これを私に飲めと」

「そうだぞ!!結城が丹精込めて作った飲み物だぞ!これを飲めば元気になること間違いなしだ!」

「何をどう見ても毒物にしか見えない見た目してるんですけど……つうか私の家にスムージー作るミキサーとかあったっけ?」

「持ってきた」

 本当に、本当にさらりと結城は言った。まるで歴史の事象のように、確定した過去を話すかのような口ぶりだった。

「そうだぞ!!これを作るにあたって、仁智は自作のミキサーをわざわざ家に取り帰ってここに持ってきたんだぞ!」

「それだけじゃないぜ雄二!俺はここに入ってる食材も自ら手に入れてきた。どうだ??しっかりしてるだろ??」

「こんな何入ってるかわかんないもので胸張られても困るんだけどな」

 私は口を尖らせてそう忠告した。

「ちょっと男子!へんなものまぜてないでしょうね!」

 姫路は若干片言になり体を硬直させながらそう指摘した。少し顔が照れているのを確認できた。

「いやいや、へんなものって何よ?」

「へ、へんなものはへんなものよ!!」

 結城の即座の反撃に、姫路はたじたじとし始めた。

「な、な、なんですか!?その訝しそうな目は」

「いや全くしてねーけどなそんなの」

 有田の言葉に結城は大きくウンウンと頷いていた。そして小声でこんなことを言った。

「あいつに媚薬使っても意味ないし」

「なんかきこえたきがしたなあ!?!?!?」

 それを私は聞き逃さなかった。驚いた顔をする結城。そりゃそうだろう。私の盗聴(ぬすみぎぎ)スキルを舐めてもらってはいけない。この世の悪口全部自分に向いていると思っていたこともあるこの私が、こんな目の前の小声聞き逃すわけがないだろう。私にだってプライドがある。ぼっちとしての……いやこの星を孤独に攻め落とさんとする私に対して、仕事への誇りと矜恃という要素は何よりも大切なものだった。

「気のせい気のせい」

「はん、アルフェラッツ星随一の諜報能力を舐めないでよね。私の耳にかかれば数メートル先の悪口まで丸聞こえよ」

「家田先輩……それ誇れることじゃないですよ」

 なにー!?!?遠垣をぐぬぬと睨んだが、遠垣は曖昧な笑顔で返してきた。やめろやめろ!そんな私を可哀想な目で見るな!

「割とガチな話をしていいですか?これ、なに入ってるんですか?本当に」

 遂に姫路が口を開いた。

「私、ミキサーが運び込まれたところから見てないんですけど」

「まあ、牛乳とラズベリー、ブルーベリーとプルーン。この辺が主だよ」

 結城は案外はっきりと白状した。

「その割には紫成分多くない?」

「牛乳の量少なくしたからな。その分混ざるのに苦労したけど、鉄分たっぷりの健康飲料の完成だ。味わってくれ」

 そう言ってニコッと顔を傾けて笑う結城が、今すぐ立ってしばきたいくらいムカついてしまった。絶対にこれは、それだけではない。もっと凄いものが入っている。それだけは間違いないと、私は確信していた。

 私は恐る恐るゴクリと喉にその飲み物を通した。別にどこかで詰まることもなく、そのまま食道を通って胃に流れていった。その合間で感じたのは、複雑すぎて雑味と化した味達だった。

 甘味が来たかと思ったらしょっぱくなり、苦味が来たかと思ったら酸っぱくなった。海を感じる風味が流れたかと思ったらそれを打ち消すような山の幸の風味が流れ込んで来た。更にたまに牛乳がなんとも言えない雰囲気を包み込み、なんと表現したらいいかわからなかった。

「ど、どうですか家田さん!!」

 姫路は少し動揺しながらそう尋ねた。しばらく話さなかったから心配されてしまったのだろう。

「なんか、よくわかんない」

 私は首を傾げつつ、結城に尋ねた。

「ねえ、結城。怒んないから教えて。普通に気になるんだけど、これ、何入ってんの?」

「えーと、さっき言ったプルーンブルーベリーラズベリーヨーグルト。それに海藻」

「海藻!?!?」

 この声は姫路のものだった。やたらとびっくりした顔をしていた。まあそれも当然か。私としては少し腑に落ちていた。

「昆布のエキスみたいなの入ってない?もしかして」

「お、ビンゴ」

 結城が指をならしてなんかよくわからないポーズを取っている間に、私は二口目に突入していた。印象は一口目とそこまで変わらなかった。甘さだけでなく苦味もあり、酸っぱくもあり塩っ辛くもある。昆布だけではない、他にも何かあるな……

「昆布入りとか絶対美味しくないでしょ?ちょっと飲んでみていいですか?結城先輩」

 そう言って台所に遠垣が行く途中で、私は思いついたことを話してしまった。

「レバー?」

 その言葉でついに遠垣の足が止まってしまった。そんなこと気づかないまま、私は結城に話しかけた。

「結城これレバー入ってるでしょ?」

「そうだよ」

 結城はあたかも当然のような顔をして答えた。遠垣は真っ青な顔をしていた。もしかして、レバー嫌いなのか?

「確かになんか苦味とほのかな臭みがあるなって思ってたのよ。そっかあ……」

 ぐびぐびと2口目、3口目と飲んで行く。

「もしかしてさ、結城」

「何?」

「鉄分多い食べ物、あんた片っ端からぶち込んでんじゃないの?」

 ギク!という顔をしつつ、結城は取り繕った。

「失敬な!他のものも入って……」

「もしかして、レモン?」

 私は少しの確信を持ってそう答えた。

「しかもこれ、レモン絞ったんじゃなくて、ポッカレモン的なやつを混ぜ合わせてるわね」

「ご名答!レモンなかったんだよ」

「いやまあ、別にいいけどさ」

 そしてもう、コップの中身は残り少なくなっていた。するとどうだろう。コップの下の方に、少し塩辛いのが濃い部分を発見した。

「う……もしかしてさ、結城」

「なに?」

「これ、秋刀魚入ってない?」

「お前すげえな!!塩焼きした秋刀魚の皮入れたんだよ」

 この頃になるともう私たち2人以外話していなかった。

「入れ過ぎよ!!ちょっと塩味増してるわよ」

「嘘だろ?隠し味っぽく入れたつもりだったのに」

「いやいや完全に独立した味になってるからね」

「まじかあ、これは失敗作だな」

 そして私はコップを置いた。

「でもまあ、不味くはなかったわよ」

 無論中身は空だった。

「ありがとう」

 と返した結城は少し動揺している様子だった。

「……………」

 他のみんなも押し黙って、何も話さないでいた。

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