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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第15章、夏休みの宿題とサッカーの試合
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111枚目

 まるで逃げるようにして今野と離れた私は、待ち合わせ場所にしていたスタジアム前にとことこ歩いて行った。集合時刻よりは15分早い。だからまだ有田がいないことにも納得していた。

 夏の夕方は雨が降りやすいが、そんなセオリーを無視したように雲は息絶えていた。まだまだその勢いを落とさない太陽は、私の肌をじりじりと焼いていく。待ち合わせ場所は日光射角の関係で日陰ではなかったので、私は被って来た帽子を少し深くした。そして姫路と一緒に買ったソルティーレモンを取り出して飲む。わが高校1番人気の自販機飲料だ。喉ごしの清涼感がたまらなかった。

「あ、こんちゃーーん!!まったぁ?」

 遠くで馬鹿女の声が聞こえて来た。明らかに男から注目を浴びようと半音上げてるその声は、鼓膜がその振動を拒否したがるレベルだった。

「まってないさ!今来たところだよ」

 どうやら今野はあの女とこれからデートらしい。金髪に染めた髪の毛と、濃いめの化粧が特徴だった。スカートは膝上何センチか特定できないほど短く、まるで大学生のような服装をしていた。本当に、日によって隣にいる女が違う野郎だ。秀才っぽい黒髪美人だったり、ほわほわとした妹成分満載の娘だったり、はたまた茶髪ポニテの純粋系だったりと、こいつだけは碌でもない人間関係を構築していた。それが何よりも、私を苛立たせる要因だった。

「ねえこんちゃん!!」

「なあに?りっちゃん?」

 りっちゃんってなんだよきめえな。こんちゃんはまだクラスで言われているから、違和感はそこまでではないが。

「今日、向こうの方に人いっぱいいるけど、どうしたの?」

「あれはサッカーの試合だよ」

「あぁそっかあ!!そういえば今日はゼーリーグの試合だったね!もしかしてこれ?」

 ゼーリーグってなんだよ。見た目だけでなく中身もアホっぽい女だな。私はそう心の中で暴言を吐いていた。

「いやそうじゃなくて、向こうの水族館……」

「そうだったんだあ!!サッカーの試合とかりっちゃん見たことなかったから新鮮!楽しみー」

 自分のことりっちゃんとかマジで害悪ですわ。そもそも自分のことを自分の名前で呼ぶ人間自体私からしたら信じられない。なんのために第一人称というものが存在しているのか小一時間説教したいくらいだ。その上この女はあだ名を第一人称に設定しているなど、愚の骨頂の中のNo.1、いやワースト1だと断定できるだろう。その上人の話を聞かないとか、どこにこの女の魅力があるというのか。たしかに、胸はそこそこあるし、顔も化粧は濃いが可愛い部類だし、生足が綺麗かもしれない。しかしそれだけだ。それだけなのだが、恐らく今野、そしてこの地球における一定数の男どもからしたらそれだけで十分なのだろう。やはり征服対象だな。私はそう心に決めた。

「いやあ……」

「早速行こ?ね?」

「そうだねりっちゃん、行こっか」

 そう言ってスタジアムの方角に歩き始めた今野を見て、私は吹き出してしまいそうになった。あいつ、アホな彼女に押されてこっちの試合に来たぞ。なーにやってんだか。よく言えば器量が広い、悪く言えば軟派すぎると評することができるだろう。

「お前……何1人で笑ってんの?」

 不意に有田の声が聞こえてきて、つい私は全速力で振り返ってしまった。

「うぎゃっ!!!」

 変な擬音とともに、だ。

「なんだようぎゃっ!!!って。そんなとこして可愛い子アピールしても無駄だぞ」

「う、うるさいうるさい!!誰があんたなんかに可愛い子アピールするのよ!!しても無駄なことはしないのがアルフェラッツ星人のポリシーなのよ!!わかる?」

「わからんし、わかりたくもない」

 むむむという顔をした私を尻目に、有田はスタジアムを指差した。

「待たせてすまんな、んじゃ行こっか」

「え?ちょっと待って!!遠垣さんは?」

「あ、なんか急用で来れないって」

 あーそっかあ。それは仕方ないなあ……ん?ちょっと待って、ちょっと待ってよ!!

 冷静になって今の状況を鑑みてみよう。私は有田と待ち合わせをして、今からサッカーの試合を見に行く。うん、別に間違ったことはしていない。私は遠垣が居ると思ってきた。コレクトしてる。しかし有田の話によると遠垣は急用で休んだらしい。悲しいがイグザクトリーだ。そして今から、頭の悪そうな女を連れて、今野がこちらに向かって居る。恐らくこのままだと鉢合わせになるのは時間の問題だろう。そして今野は、先程有田とデートに行くのではないかという疑念を、他にも女の子がいるからという理由で払拭している。そんな彼がこの状態を見たらどう思う?彼の先天的恋愛体質(クソスイーツ)から考えても、デートに来ていたのを必死にごまかしたと解釈されるだろう。

 ちょっと待とうか。これはなかなかにやばいのではないか?大変なのではないか?対策を考えた方が良いのではないか?やっと最近は有田と話題になることも減って来てたのに、これでは逆効果となってしまうのではないか?

 とりあえず、今野には極力見つからないように……

「あれー!今ちゃんじゃん!」

 ふざけんなよ有田!!!!いやガチでふざけんなよ有田!!!!何お前歩き始めて数歩も経たないうちにクラスメイト発見してんだよ。頭おかしいんじゃねえか?

 今野はこちらを見て、有田を見て、そしてニコって笑って言った。

「デート?」

 知ってた。今野のにやにやした顔まで含めて全部知ってた。予測不能回避不可能ってやつだ。厄介なことこの上ない。

「や、他にもいる予定だったんだけど急用が入ったらしくてさ。今2人なんよ?チケット後2枚余ってんのに」

「あ、マジ?ちょっとくれないかな?あとで金払うから」

「いいっていいって。これファンクラブの特典だから。俺も親からもらったものだし」

「やーそりゃありがてえわ。今度ジュース奢るわ」

「やよい軒でもいいぞ」

「高えな」

 出た出た陽キャリア充特有のアップテンポな会話。しかも意味ないし面白くないし、何が楽しいのって感じた。私は早くこの場所から逃げ出したかった。私のような家で読書と星間通信を生業としている者に、この空間はしんどすぎる。

「こんちゃーん!この人誰?友達?」

 今野の腕にくるまりながら、りっちゃんという女は尋ねていた。

「そうだよ。おんなじクラスのやつ」

「藤高の?かしこーい」

 そう言われて少し照れてる有田に、

「学校じゃ滅多に言われないセリフよね、賢いって」

 と小声で茶々を入れておいた。

「有田雄二って言うんだ。気軽に雄二でいいよ」

「わあああ!!私は多岐律佳(たきりつか)って言います。気軽にりっちゃんって呼んでください!!」

 そう言ったのちに、りっちゃんはこちらに視線を向けて来た。それだけで私は、少し怖気付いてしまった。

「そちらは、彼女さん?」

「クラスメイトです」

 私は音速の反応で切り返した。

「家田杏里です。呼ばれ方はどうでもいいです。よろしくお願いします」

「目のとこどうしたの?トイレットペーパー巻きついてるけど」

 誰がトイレットペーパーだ??私はギロッと睨んだ。しかし怒り出すのは大人気ない。

「目に傷があってね」

 そう言う(じじつ)で切り抜けることにした。りっちゃんはすぐに興味を失った様子だった。

「傷は目じゃなくて頭だろ」

 そう小声で言った有田は、後で処刑だ。なに?やり返しただけだって?ナンノハナシカワカラナイナー

 こうして今日は、こんなカオスな4人組でサッカーを見ることになったのだった……だったらまだ、少しくらいは救いがあったかもしれない。

「あれ?あそこにいるの……嘉門さんじゃね?」

 そうここから、全身ユニフォームで揃え臨戦態勢のクラスメイト、過去に私を虐めてきた一味の1人、嘉門良子が混じってきたのだ。今野の指指して言った声に反応するかのように、嘉門もこちらに気づいてしまったのだった。

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