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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第15章、夏休みの宿題とサッカーの試合
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107枚目

 夏休みの宿題、という響きに地球人の学生は弱いらしい。そもそも夏休みというのは学業を忘れて部活や遊びに熱中できる素晴らしい()期間であり、様々な学生の憧れの存在なのである。もうずっと夏休みだったらいいのに、なんて声は二学期が始まった瞬間にちらほらと聞かれ始めるのだ。まあこの世には大学生という人生の夏休みを経験しているものや、ニートという永遠の夏休みを満喫している……やめておこう。そう言った誰かに対して角の立つ発言は、星間戦争のきっかけになってしまう。ともかく、夏休みというのは学生にとって天国でありオアシスであり宝物なのだ。

 しかしそんな夏休みであっても、学校側はただ学生をのんびりさせているわけではない。きちんと長期休暇のために課題を用意しているのである。そりゃそうだ。勉学の科目によっては3日触らなければ能力がガクンと落ちる物だってあるのだ。語学系などがその典型だろう。そうならないためにも量質ともに追求した宿題が出され、我々学生の天国に刺さる一本の棘となるのだ。

 そして更に、夏休みには夏休みならではの宿題が出されることも、その特徴の1つである。我々アルフェラッツ星人にはどんなものか想像できないであろうが、絵日記や作文、工作などがそれに当たる。自由研究、なんてものもあるらしい。しかしながらこうしたものは概して小学生や、ぎりぎり中学生が該当するらしく、私はまだ経験したことがなかった。特に夏休みの工作なんて、私は絶対に嫌だ。鈍臭いからではない。不器用だからだ。もう一度言っておく、ドジだからではなく不器用だからだ。ゆめゆめ間違えてはならない。

 そんな特徴的宿題の中で、我が藤ケ丘高校にも何題か用意されているものがあった。

「私、読書感想文って苦手なんですよ」

 もう日も最高点に達した昼過ぎの学校で、自習の休憩時間にふと姫路がこう漏らした。姫路は出された課題なら何でも完璧にこなすイメージがあったので、少し意外だった。

「あ?そうなの?」

「はい……何というか、気づいたら要約になってるんですよね。こんなこと書いててこうなってこうなった!って書いて、感想が思い浮かばないっていうか……」

「あーなるほど」

 実に姫路らしい悩みだった。そう、この読書感想文というのも夏休みの宿題ならではのものだった。ある一冊の本を読んで、その感想を原稿用紙にまとめていく。日頃から本を読んでいる私からしたら、別にいつもしてることやればいいんでしょ?という感じなのだが、読書率低下が著しいこの星の学生にとっては鬼門中の鬼門なのだ。

「でも、この学校って読書感想文だけじゃないよね?」

「いやいやいや、自由作文なんて余計無理ですよ」

 そう言いながら姫路は少し垂れる汗をぬぐいつつ生茶のペットボトルに入った茶色のお茶を飲んでいた。白色のTシャツとGパンという女の子らしさのかけらもない格好だったが、いつも以上に強調された胸のせいで私以上にフェロモンが出てる気がした。何でふりふりのワンピースでTシャツ短パンに負けてるんですかねえ。まあ原因は誰が見ても明らかだが。

「もしかして家田さん……自由作文で申し込むんですか?」

「まさか!無理無理無理!!」

 私はすぐに否定した。この自由作文、より正確に言うならば『創作小説』である。自分のオリジナル小説を書いて提出し、優秀な作品は年度末にまとめられる文集に掲載されるのだ。うちの学校ではこれと読書感想文のどちらかを書けばOKという少し特殊な宿題だったのだ。

「読書感想文の方が楽だよ。だって1から物語を作るなんて絶対大変だよ」

「ですよね!私なんて感想文すら書けないのに小説なんて書けるわけないですよ……」

 姫路はそう言ってはあと落ち込んでいた。私らの机の上には数学の宿題が並べられていた。

「家田さん、なにかおすすめの本とか無いですか?」

 珍しく弱々しい声で姫路が尋ねてきた。私も私でこの質問には動揺してしまった。

「えっと、えーっと……」

 と言葉を詰まらせたのちに、

「ど、どんなジャンルがいい?」

 と聞き返す羽目になった。それなら最初から聞き返しておけよ!と自分のコミュ力の低さを嘆いてしまった。といっても姫路も姫路で頭を悩ませているようだった。

「うーん、どんなジャンル……どんなジャンルがありますか?」

 ジャンル!?!?ジャンルの説明!?!?私は予想外の質問にタジタジになってしまった。

「そ、そ、そうね……大雑把に分けるとフィクションか、ノンフィクションかって感じ」

「あ、そういう意味ですか。評論か小説かってことですか……」

 言い方がセンター試験みたいだなと思ったのは内緒である。

「………………」

 真剣に考え込む姫路。本当に、文章を問題文でしか読まない娘なんだろう。

「こ、今度何冊かもってくるね!私の好きな本」

 私はこう助け舟を出した。そしたら姫路は申し訳なさとありがたみを存分に感じた顔をして私の方を見てきた。

「ありがとうございます!お願いします!」

「というか明後日私の家来るじゃん。その日でよくない?」

 こう自分で言いながら、完全に我が家に訪問して来ることを忘れていたことに気づいた。うん、ちょっと待とうか。私の部屋片付ける時間、いつあるんだろう。明日は結城と遊びに行くし、今日はこの後有田と姫路とサッカー見に行くし……うん、やばくね?

「ナイスアイデア!ナイスアイデアですよ家田さん!」

 そういって姫路は抱きついてきた。姫路の胸に描かれた『good job』がちょうど私の額に接していた。

「楽しみにしてます!明後日!」

「そんな、普通の本ばっかだよ。大して高価なものとか貴重なものとかないし……」

「いや、本だけじゃなくて、家田さんの家に行けることをめちゃくちゃ楽しみにしています!」

 姫路は満面の笑みでこう言った。いやあ、期待されてて嬉しいな、とはあまりならなかった。

「ま、まあ?大したものはないけど?おもてなしくらいはするよ?」

「でも家田さんって、お家で母星と交信してるんですよね?」

 姫路が悪意0%の問いかけをしてきた。結城のそれとは同系統の質問でも、受ける印象が違っていた。

「まあ、そうよ?だって交信しないと情報を向こうに送れないでしょ?」

「潜入してるんですもんね!ということはそれ用の道具とかもあるんですか?」

「ま、まあ………あるっちゃあるわよ!」

「この地球にはない技術とか物質とかもあるんですか?」

「そ、そりゃあね?私はアルフェラッツ星人ですし?」

「わあ、すごいです!めちゃくちゃわくわくしてきました!」

 そう目を輝かせる姫路に、ふふんと胸を張る私。

 私のアホー!!!!そんなもんないでしょうがこの見栄っ張り!!!!

 心の中はこんな感じだった。後悔しかしていなかった。だってそんなものないもん。ただ変な幾何学文様が手書きされたチープなワープ穴しかないもん。もしくは市販の星図にアルフェラッツ星の位置をマークして貼ってるくらいだもん。そんなしょぼいやつしかないもん。

 これは高度な作戦だ。私が宇宙人だという設定、いや宇宙人だけども、とにかくそうやっておだてて私にボロを出させようとする高度な知的トリックだったのだ。恐るべし、姫路纏菜。ただあんたが自滅しただけだろとかいうマジレスは、ガチでご遠慮いただこう。

「き、期待しててよね!」

 どうしよう、後2日で、何ができるかな……私は頭を抱えたくなった。と、とにかく……現実逃避だ!

「で、できれば姫路さんのお家も行ってみたいなあー!まあ今度でいいから、なんて」

 話題を変えよう。これ以上ボロを出さないために。そう思って振った何気ない話題が、姫路の表情を曇らせてしまった。

「私の家は……多分無理ですね」

「え?あ?そうなの?」

「だって……女人禁制ですから」

 ………あまりに突然の、突っ込みどころしかない姫路の言葉に、私は声を失ってしまった。

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