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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第14章、イグアナ君と親戚の子ども
113/166

106枚目

「そうそうそう、そうやって肘から前に出して投げるんだよ。体は若干前傾にして、体全体を使って投げる!!!そうそう!!」

 もしかしたらこれを呼んでいる人の中に女性愛護団体の方がいるかもしれないが、そうだとしたら先ほどの結城の発言に目くじらを立てたに違いないだろう。これは女性に対するセクハラだ。セクハラに違いないと。まあ私は女性ではなく宇宙人なのだから……いや違う宇宙人で女の子なんだけれども、とにかく警戒心と後悔をもって結城に体を委ねることに賛成したのだ。そこに関しては文句を言わないでいただきたい。

「わああ、お姉ちゃん普通にキャッチボールができるようになってるよ!!すっごい!!」

 でも私だって、少しくらいはなんか変なところとか触ってくんのかなとか妄想してたんだよ。で、私がどこ触ってんのよ!!とか言って、結城が不可抗力だろ??とか言ったりするんじゃないかなって、そんなこと妄想してたりしてたんだよ。なんで、なんで、腕しか触ってこなかったんだよ!!!しかも数分間で終わらせやがったし……一瞬でも警戒した私を返せ。私の中での女性愛護精神を返せ!!!

「なんでそんな、不満そうな顔して投げてんだよ?」

「………べっつに??」

 そう言いつつ私は数メートル向こうの崇君に向けてぶんとボールを投げていた。確かにさっきよりも投げやすくなった。ちなみにボールを取るのはまだごろごろと結城が転がしてくれた。崇君が結城に向って全力投球する。結城が私にボールを渡す。私が崇君にボールを投げて返す。これをしばらく続けていた。

「そろそろ終わるぞ」

「えーまだしたい!!」

 いきなり結城が終わりといってきた。

「投げ込みは長いこと続けるべきじゃないからな。怪我のもとだ」

「怪我なんてしないよ、若いんだから」

 崇君は少しふてくされながらもちゃんと戻ってきていた。

「それよりも投球の癖が見えたから、ちょっと教えてあげるよ」

「え?ほんと??」

「崇君ほら、飲み物」

 私はそうマネージャー気分で手渡した。

「俺のは?」

「あんたあんまり汗かいてないでしょ?こんな暑いのにすごいわね」

「汗かかないんだよ昔から」

 そう憎まれ口をたたきたたかれながら飲み物を手渡した。

「それじゃあ私また本を読み始めるから、むこうで2人でやってきな。ちょろっと体動かして気分晴れたよ」

 と言っていたが正直なことを言うと日差しにいすぎてちょっと疲れてきていたのだ。日陰に帰って本を読んで、のんびりしたい。こんな暑いなかスポーツをしている部活生たちって、やっぱり異常だ。ましては高校野球の人らなんて、暑さ耐性の遺伝子でも入っているんじゃないかと疑ってしまうほどだ。私はシートに戻って、麦茶を飲みながらまた本に熱中し始めた。


「おーい、生きてるかあ」

 そう声を掛けられてはっとなった。気づいたら私の隣には結城が座っていた。

「あれ??あれあれ??今何時……」

「そろそろ4時になるな」

 知らぬうちに私は眠ってしまっていたようだ。眠気など感じる隙もない爆睡に、近くの本は投げ出されたように乱雑に置かれていた。

「帰ってきたら寝てたから起こさないようにしてたんだけど……邪魔だったか??」

「いや、全然。というか4時って、そろそろ帰らないと!!」

「ああ、だろうと思ったから起こした」

「ナイスだよ、結城」

 私はぐっと親指を立てて、むくりと起き上った。

「崇君は?」

「向こうの遊具で遊んでる」

「結局面倒全部見させちゃったね」

「まあいいよ。久しぶりに童心に帰った気になったし」

「童心って……あんたまだまだ若いでしょ?」

「見た目中学生の家田に言われたくないな」

「なにおう、私は宇宙人なのよ。あなたと違って真の姿があるのよ。見せかけの見た目で私の年齢を推し量ろうなんて愚行もいいところなのよ」

 私は寝ぼけながらふふんと胸を張ると、結城は呆れた顔をしていた。

「なにその顔」

「ふーんっていう顔」

 崇君が戻ってきたら、3人で帰ることにした。そこで私は気づいた。私は彼に聞きたいことがあったのだ。明後日聞こうと思っていたのに、そういや今聞いてもいいじゃないか。どうしよう。妹さんについて、どうしようかな。

「んじゃ、バス乗って帰ろっか」

「うん」

 ニコニコと崇君の隣を歩く結城の顔を見て、そんなすこしもやっとした気持ちは薄くなり、ついには声に出さなくなった。だってあんなに笑顔なんだもん。まるで年の離れた弟ができたかのように笑っていた。

「ん?どうしたんだ?」

 すこしニヤついていたのがバレたのか、結城が怪訝そうな顔をし始めた。

「いや、なんか仲良しだなって」

「子ども相手だからいいだろ?」

「いやわるいだなんて言ってないよ。微笑ましがってるだけで」

 そう言ってもまだ結城はあたふたしていた。というか今日の結城は、比較的おとなしかった気がする。大人しかったからこそ書くことが少なくなっているのだ。全く報告書の内容がスカスカになるではないか。そんな憤慨など、その時の君は知らねえよと言いそうだけれども。

 バスから降りて、結城と別れる時まで、2人笑いあっていた。私も時々話に入って、それこそ親子ではなく兄弟のように笑いあっていた。

「んじゃ、ここで俺別れるから」

 と言って去って行く結城を見ながら、そっと崇くんに聞いてみた。

「今日は楽しかった?」

「うん、楽しかった!」

 満面の笑みが眩しかった。この笑顔で、今日1日無理してよかったなとちょっとだけ思った。明日からも頑張ろう。明日からも色々あるけれど。というか今日もまだ、やることが残っているのだけれど。

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