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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第14章、イグアナ君と親戚の子ども
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103枚目

「で、その結果俺をここに呼んだってわけか?」

 駅前のバス停で合流した結城は、会って早々にそんな愚痴をこぼし始めた。左手には使い込んだであろうグローブがあった。用具も含めて結城持ちだった。いや仕方ないだろ?私の家にはグローブもバットもボールもないのだから。元野球部の結城宅には大量にあるだろう。なんなら1番古くていらないやつを欲しいくらいだった。

「仕方ないじゃない。あんたが1番暇そうだったんだから」

 私はそう言いつつ今にも駆け出そうとしている崇君を必死に抑えていた。バス停の前くらい落ち着いて欲しかった。道行くトラックを指さすのはやめて欲しかった。親戚の子供は、実の親と違い怒るにもどう怒ればいいかわからないのだから。

「そもそも親戚の男の子を1日だけ預かるって何よ?」

「え?それは割と普通のことじゃないの?」

「や、普通かもしれないけど、基本そういうのノープランじゃなくて、なんかどっか遊びに行く予定立てたりとかするもんじゃね?なんでこんな今日になって呼び出しくらってんの?」

「いいじゃない。急に言われたんだから仕方ないでしょ。それに、あんたどうせ部活もバイトもしてないだろうから、偶にはこうして外に出ろってもんよ。どう?この宇宙人的優しさ」

「宇宙人はわからないだろうがな、人間というのは不必要に外に出ていかないようにプログラムされてるんだ。だから最近の子供は外で遊ばないし、オンラインゲームが大流行するんだよ」

「ふーん」

 私は訝しげな視線と怪しんだ返事をぶつけた。そんな他愛のないやりとりをしつつバスに乗り、また万展へと向かっていった。昨日も行ったし、明日も行く。というか出かけすぎじゃないですかねえ。私はここ数日のリア充っぷりに驚愕していた。去年の私に聞かせてみろ。家の中で本を読むことしかしてなかったぞ。

「崇君、このお兄ちゃんとキャッチボールしてもらうんだよ」

 崇君は外を走るトラックから視線をこちらに向けた。そして無垢な笑顔でこんなことを訊き始めた。

「誰?お姉ちゃんの彼氏?」

 ブファ!!!私が吹き出して顔を真っ赤にしているのを尻目に、結城は冷静にこう答えた。

「そうだよ」

「いや違うって言えよ!」

 私は勢いよく突っ込んでしまった。しかし結城は??というはてなマークを浮かべて首を傾げていた。

「いや不思議そうな顔すんな!!どっからどう見てもフェイクニュースだろうが!!」

「知っているか家田。この日本における彼氏というのは男全般を指す抽象名詞なのだよ。だからここでいう……」

「いや私宇宙人だけどさすがに騙されねえぞ!!なんだその屁理屈!!」

 そんな私らのやりとりを見ながら、

「あー本当に彼氏なんだ?あれなの?チュッチュしてるの!?チュッチュ!」

 と煽る崇君がいた。言い方があまりにも小学生じみていた。なんだよチュッチュって。使ったことねえわ。

「そうだよ」

「だからそうだよじゃねーだろ!?!?お前適当に答えるのもいい加減しろ……」

 プシューー!!!バスが止まった。目的地の万展だ。昨日もきたから何も驚きはない。強いて言うならお昼前で人が若干少なめかなあというくらいである。

「よーし崇君!?原っぱに行こう!」

「行きましょう!」

 さっきのふざけた質問を流すかのように、結城は話題を転換した。何勝手に転換してるのよ。何勝手に彼氏認定して嘘教えさせてそれをスルーさせてんのよ。ふざけんじゃないわよ。私は顔真っ赤になってさっきから体が熱くて仕方ないんだから。そんなことを思いながら、少し耳を後ろが赤くなっている結城の後ろをどすどすと歩いていた。


 万国展覧会跡地にあるのは何も野球場やサッカー場だけではない。むしろ万展と聞いて最初に人々が思い浮かべるのは原っぱに立つ不気味な塔だろう。昔、著名な芸術家が万国展覧会開催記念にシンボルとして建てたものが、取り壊されることなく今でも残っているのだ。その摩訶不思議な模様は、まさしく宇宙人が作ったようなセンスで、もしかして製作者は私のような宇宙人だったのではないかと錯覚してしまうほどだった。

 その塔の周りには原っぱが広がっていた。昔はここにも色々な展示があったらしいのだが、そのどれもが取り壊されてしまったのだ。そしてそこは、その一角に遊具を残しているだけで、残りは広い広い原っぱに成り果ててしまっていたのだった。その結果として、ここは子供連れの親子がたくさん集まる場となっていた。しかも夏休みである。たくさんの子供が元気よく走り回っていて、子供がそこまで好きではない私からしたらそれは中々に直視できない光景だった。

「お姉ちゃん、お腹すいた」

 原っぱに着くなりに崇君はそう言って私のスカートをクイって引っ張った。日頃は上目遣いを無意識に行う私でも、崇君の前では上から目線にならざるを得なかった。

「そういやお昼時だけど飯どうすんの?家田」

「ふふーん!そういうと思ってね、サンドウィッチを作ってきたのよ!」

 私はぐーんと胸を張った。今お昼時を少し過ぎた時刻なのだが、そこまで動くのに時間がかかったのは私が昼飯のこしらえをしていたからなのだ。

「え?作ってきたの?買ってきたじゃなくて?」

「いやーちょうどゆで卵とツナ缶があって良かったわよ。市販品みたいに綺麗にできてはないけど、原っぱで食べよ!」

「うん!」

 そう言って適当な木陰で持ってきたシートを開いて鞄を開けた。そしてサンドウィッチの入ったお弁当箱を取り出すと、結城は少しテンションが上がって食い入るように見ていた。私はそんな彼をじとっと見た。

「何?結城そんなにサンドウィッチ好きなの?」

「いや、なんか申し訳ねえなって」

「何言ってんの?こちらこそ付き合わせてるんだから、これくらいしなくちゃダメでしょ」

 しかも大したものじゃねえしな。ただパンの耳を切って中に詰めて挟んだだけだから。むしろこんなので対価が取れているのか不安になるレベルだ。

「その代わりこれ食べたらこの子の相手はあんたがするのよ。私は木陰でのんびり本読んでるから」

「わーー!!!!」

 私の主張は崇君の言葉によって遮られてしまった。歓声が上がるほどのものではないんだけどなと思いつつ、少しだけ鼻高々となっていた私がいた。

「大丈夫だよな家田。これ、砂糖と塩とか間違えていないよな!?」

「何そのベッタベタなどじ。そんなことするわけないでしょこの完全完璧な宇宙人様が!」

 そうだそうだ!私は宇宙人なのだ!何をやらせても一流なエイリアンなのだ!そんな私の訴えを退けるように、結城はいただきますもなしにかぶりついていた。

「いただきます!」

 崇君もそれに続いて食べ始めた。そんな2人を横目に見つつ私も自分の分を手に取った。

「おいしー!」

「何故だ!?………うまい!!」

「おい結城!?今何故だって言わなかった!?」

「いやいつもの家田ならここでひどいミスとかするじゃねえか」

「私だって年がら年中どじするほどどじっ娘じゃないのよ!?」

 何褒めてんのよただのサンドウィッチでしょ!?誰でも作れるわよ。そう思いつつ私はちょびちょびと食べ始めた。シートに座って、間に子供を挟んで、3人で食べる昼ごはん。それはまるでピクニックのようで、私達はまるで親子のようだった。そんなことを意識してしまったら、また赤面してしまうからやめておくが、慣れぬ感覚に陥ったのは紛れも無い事実だった。

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