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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第14章、イグアナ君と親戚の子ども
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102枚目

 預けられたその子がまた、自由が服着て歩いているかのような行動をとり続けた。親のしつけはなっていないのかと突っ込み待ちのような愚痴はこぼさない。大したしつけがないことなど、この子の親がここに来た5分間に、いかんなく証明されてしまっていたからだ。そもそも良識ある親ならば、子供をほって男遊びに興じるなど言語道断だろう。17の娘を持つ母でさえ、いや正確には宇宙人だが、とにかくそんな母でさえ非難されるべきであるというのに、それが齢10前後の息子を持つ親だとしたらその倍は非難されるべき事態であると私は結論付けていた。そうしてここにいない最低女に文句をたらたらと垂れていたとしても、目の前の少年の悪行は留まることを知らなかった。

 観葉植物の葉をちぎるのは、3枚ほどで飽きたらしい。しかしながらソファの上でバンバンと跳ねるのは中々飽きなかった。埃飛ぶからやめてほしい。ただでさえそれを掃除するのは私なんだから。

「ねえねえ、崇君、だっけ??」

 私は精一杯の笑顔を作ってそう話かけた。そんな私の努力なんて無駄にして、彼は尋ねてきた。

「どうしたの?頭変なお姉ちゃん??」

 は?踏みにじられた私の気遣いが、心の中でため息に昇華してしまった。誰が頭変なお姉ちゃんだ?お姉ちゃんとつけたら何でも言っていいと思うのは間違いだぞ?

「ねえ?なんで頭に包帯巻いてるの??」

 そう尋ねた瞬間に、崇君は掌で唇を押さえつけながらこんなことを言い始めた。

「あ、頭怪我してるから??かわいそー」

 けらけらけら、そう崇君が笑い始めた。

「ふん、貴方は知らないでしょうがねえ。私は宇宙人なのですよ」

 私は半分涙目になりながらも、少し意地になってこう言った。

「宇宙人?お姉ちゃん本当に頭怪我してるの?」

「そんなことはないのよ。地球からおよそ96光年離れたアンドロメダ星雲に所属する恒星、アルフェラッツ星人にて生まれた私は、この星を侵略するために……」

「いいからお姉ちゃん、ゲーム機とかないの?」

 はあああああ???このガキがぁぁぁぁぁ!?!?私のこの高尚で至極の語りを無視し、耳に入れようともしないとは……子どもであればまだこの汚い大人たちによる洗脳を受けずに、宇宙人の存在について深く理解できると思っていた節がいくらかあったのだが、どうやらそんな簡単に事は進んでいかないらしい。私は落胆しつつ、

「わるいけれど、この家にゲーム機の類のものはないわよ」

 と冷たく答えた。

「ええええええ?????なんで?なんで??」

「何でと言われても……そういう家庭だったのよ」

 そりゃそうだ。リビングは度々来てはいけないと言われるし、なにより母が大のゲーム嫌いだ。だから私はゲームなどしたこともないし、触ったこともない。ゲーセンというものにも行ったことがないしな。

「そんなあ、じゃあ何して遊ぶ??」

「遊ぶの前提なのね」

 私は今日はのんびりしたいんだけれどもなあ。連日のように様々な用事を様々に付き合っているのだから、たまには休みたいというのは怠けではなく甘えではなく当然の理だ。うーむ、どうしよう。なによりも、この目の前の少年を私一人で面倒を見るというのが嫌だった。

 そもそも私は子どもという人種があまり好きではない。予測不能で、感情の起伏が激しく、理不尽で、残酷だ。いやここまで言うことないんじゃないかと言われてしまうかもしれないが、宇宙人的、あくまで宇宙人的発想として、この地球人の子供時代特有の騒がしさや攻撃性が、非常に扱いにくいものとして認識されていたのだ。人によっては可愛いだったり、純粋だったりと評価する動きもあるようだが、私からしたらとんでもないと言える。そもそも子供は純粋ではない。強いて言うなら自分の利について純粋に追い求めているというのが正しい解釈だろう。自分のためになることであれば平気で嘘をつくし、誰かを貶めるような発言も平気で行う。そうではないのか?大人になれば嘘をつくことで自分の信用を下げると自覚することができるし、他人を攻撃することが最終的には自分に跳ね返ってくると肌感覚で理解し始める。というかそうしたことが理解できて初めて、子どもから大人に消化されるのだ。これができていない人間は70になっても80になっても、どれだけ偉い先生や教授や国会議員になっても、子供であると断定したい。これはあくまでも、比較的平和的で温厚な大人の集まるアルフェラッツ星人を代表して、そう訴えたい。しかしそんな大人必須の技量を、子どもに求めるのはこれまた筋違いというものだ。だから最善手は関わらないこと。お互いが不幸になるだけだ。しかしながらそうはいってられないのも事実、今からこのこと夕方まで遊ばなければならないのだ。

 崇君は母親とは似つかぬ、小さな目と少しがっちりした骨格が特徴的な男の子だった。何かスポーツでもしているのかな?それにしても行動は先ほどから子供の模範例のようなものばかり。全く、このまま暇をもてあそばせ始めたら、観葉植物はただの枝になってしまう。

「悪いけれど、この部屋には遊び道具がないの……って、ちょっと!」

 目を離したすきに、崇君は私の部屋に入り込んでいた。そこには、散らかった教科書と、一面に飾られた星図早見表と、元同僚が入っていたぬいぐるみと、先程脱ぎたてのTシャツが置いてあった。

「うわあ、きったなーい」

 私は自然な流れで頭を少し小突いてしまった。崇君が反論しようとする前に、私は部屋の扉を閉めた。

「何するんだよ!!!虐待だぞ」

「勝手に人の部屋を見た罰です!!」

 虐待結構。さばいてみろや。こちらには96光年先に心強い援軍がたくさんいるんだぞ。そいつらの圧力に勝てるかな??星間戦争の引き金になりかねないぞ??

「だから、この家には遊ぶ用具がないから、わかった??」

「えーつまんないよう」

 …………とここで私はひらめいた。私は面倒を見てとは言われていないけれども、何もこの家から出るなとは言われていないではないか。

「ねえ、崇君?」

「なに?頭怪我したお姉ちゃん」

「……ちゃんと名前で呼びなさい!!家田杏里よ。家田姉ちゃんでも杏里姉ちゃんでもいいから、これからはそう呼びなさい!!」

「初めて名乗られたよ」

「あれ?」

 そうだったか。それは少しタイミングが悪かったな。

「とにかく崇君?どこか行きたいところとかある?」

「行きたいところ?」

「したいことでもいいよ。私が何でも付き合ってあげるわ!!」

「え?ほ、ほんと??」

 そう聞いた崇君は食い入るように近づいて、そしてこう嘆願してきた。

「じゃあさじゃあさ。万展に行こう!!」

 万展か。昨日も行ったし、明日も行くな。

「いいけど、何するの?」

「キャッチボール、しようよ」

 へ?私が呆れつつも、援軍を呼ぶ必要性をひしひしと感じていた。

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