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どじっ娘JKは宇宙人でこの世界を征服するそうです。  作者: 春槻航真
第13章、高校野球と母親の決意
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97枚目

 んん?阿部ちゃん??確か阿部ちゃんは合宿に行ってたんじゃなかったっけ?だから私はイグアナの世話を頼まれたのではなかったか?私は少しフリーズしてしまった。そしたらその私の様子と、全く顔を合わせようとしない遠垣の様子を察したのか、向こうから声をかけてくれた。

「いつも姉がお世話になっています。私は阿部さくらの妹、阿部みかんです」

 ぺこりと頭を下げたけれども、私の脳内はまだパニックだった。そうならざるを得ないほど、2人は瓜二つだったのだ。短い髪、ボーイッシュな佇まい、精悍な顔立ち、それら全てが私のよく知る阿部ちゃんと同じである様に思えた。

「え?じ、冗談じゃなくて?」

「冗談じゃ無いですよ。2-6に今はいますよ。一卵性の双子なので、間違えられることがいっぱいありまして……もう慣れてきました」

 ほう、一卵性の双子か。これは我が母星アルフェラッツ星ではなかなか出会えないものだった。

「というか、1年生の時1-4だったから家田さんと隣のクラスで、体育一緒でしたよ?」

 え?あれ阿部ちゃんじゃなかったの??私は愕然としていた。まさか間違えているものがこんな近くにいるとは……

 これまで阿部ちゃんが比較的私に対して好意的に接してくれていたのは、学級委員長という立場や本人の気質だけでなく、体育が一緒で出席番号が近いから時折ペアを組まされていたからだと思っていた。まあ勿論私と組むということは劣等組に入るということなのだが……あの辱めを受けていたのは阿部ちゃんではなくもう1人の阿部ちゃんだったのか……そう思うと目の前で笑う少女に対して非常に申し訳なく思ってしまう自分がいた。

「なんで私のこと知ってるんですか?」

 遠垣はやっと口を開いたかと思ったらやたらと睨んだ顔をしていた。そんな挑戦的な顔にも阿部ちゃんはニッコリ笑って答えていた。

「姉からよく聞いてるわよ。よく私達の教室に来るめちゃくちゃ可愛い子がいるって。どんな子かなあと思ってたけれど、本当に可愛いわね」

 少し口調が変わるところが、同級生と下級生との差だ。恐らく彼女も何かしらの運動系部活に所属しているのだろう。それを感じさせる口調の変化だった。遠垣は可愛いという言葉に照れの1つもせずに睨んでいた。何が気に食わないというのか。

「ほんと、可愛い」

 しかし阿部()ちゃんも攻撃の手を緩めない。そして彼女は唇に指を置き、少しヨダレを飲み込みながらこう言った。

「食べちゃいたいくらい」

 私はゾッとした。恐らく遠垣もゾッとしただろう。ばっと前を向いて俯き始めた。もしかして、外身はめちゃくちゃ似てる2人だけれども、中身は全然違うのではないか?まあイグアナに全力を注ぐ姉も姉だとは思うが。

「あ、そうそう本題忘れてた。家田さん!」

 私はビクッとなりながら阿部みかんの方を見た。

「本当に申し訳ないですが、ペットの世話の方よろしくお願いします。これが鍵になります」

 そう言いながら彼女は財布を取り出し、中にしまわれていたカードキーを手渡してきた。

「今日ここに来ると聞いたので、ついでに渡しておこうと思いまして」

 おい誰だ私の予定を勝手に流出させた奴は。私はムッとしながらもそのカードキーを手にした。

「場所は聞いてますか?」

「聞いてるよー」

 意図せず馬鹿っぽい返事になってしまった。流石に恥ずかしいなと少し視線をそらしたら、

「家田さんも可愛いですね」

 と微笑まれてしまった。何処と無く恐怖を感じたのは私だけではないだろう。恐らく隣にいる者もそうだ。遠垣は全く後ろを振り返ろうとしていなかった。

「とにかく、よろしくお願いします。姉はイグアナの世話に命を懸けているので」

 そ、そうなのか。そこまで大事なものなのか。なら頑張らないとな、何を頑張るのかよくわからないけれども。

「妹さんは……」

「みかんでいいですよ」

「妹さんは頼まれなかったの?お世話。あ、それとも予定があったの?」

 私は彼女の提案をバッサリ却下しつつ質問した。

「そうですね。予定があったのは事実ですが……」

「ですが?」

「昔結構雑に世話をして、めちゃくちゃ怒られたことがあるんですよ。それから中々頼まれないですね。あんたには信用ない!!って言われちゃって」

 そ、そこまでおこるものなのか……

「まあ身内なのでこれほど怒られたのだと思いますよ。今回は他人なので流石にめちゃくちゃは怒られないと思いますよ」

 でも少しは怒られるんだな。私は呆れつつも身震いしていた。怒られるのは嫌いだ。というか好きな人間など1人もいないだろう。それは宇宙人であろうと、アルフェラッツ星人であろうと同じだった。

 にしても……この世界には変な人間が多すぎると、私は声を大にして言いたい。比較的まともな人間だと思っていた阿部ですらこれなのだから、もう普通な人間などこの世には存在しないのではないかと思いたくなった。いやそれは言い過ぎだろうって?ならば私の周りにいる人間を列挙してやろうか?爽やか青春系自殺志願者結城仁智、男を嫌いつつ媚もする複雑メイドJK遠垣来夏、サッカー部のエースながら恋に奥手で鈍感なヘタレ有田雄二、感情の起伏が激しい直情人間姫路纒菜。やばい姫路が1番まともに見える。中々な異常事態だ。

 これに、裏の顔をひた隠して馬鹿なJKを演じる女、濱野恵子、オタクな顔をひた隠して他人を攻撃する女、出森楼早に、人の話を一切聞かない爽やか人間沢木泰斗と人の話を一切聞かない陰鬱人間亀成功太郎。そして阿部ちゃんにいじめっ子3人組。やばいなあ。まともな人間がいないなあ。強いていうなら武田魅音か?でも武田にすら隠された本性があるのではないかと思ってしまうほど、私は疑心暗鬼になっていた。ここまで癖の強いメンバーが集まっている我がクラスを纏めるのは大変だろう。いや、まとめている今野阿部もどっこいどっこいで変な奴だった。なら大丈夫か。うん、何が大丈夫なのだろうか。

 そんな、私の周りの変な人自慢を勝手にしていたら、サイレンがうぉんうぉんと鳴り響いた。どうやら試合開始のサイレンのようだった。選手達が一斉にばっと出てきて、ホームベース?の近くで一瞥していた。爽やかだなあと思いつつ、しばらく同い年とは思えないほどキラキラした高校球児を眺めていたのだった。

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