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音楽は人を惹きつける

 最後の一弦をつま弾き終わると、一拍置いて拍手と歓声が上がる。それの合間に「旅の楽師?」「小さいのにすごいねぇ」「子どもなのにねぇ」といった囁きも聞こえるが、黙殺する。わたしは子どもではないが、それを主張する場でも相手でもない。

 中には直接「歌わないの?」と訊いてくるお客さんもいるが、そこは首肯してやり過ごした。歌は危険なのですよ。ヘタに目立てないんです、わたし。


「おい、お前」


 もらったおひねりを鞄にしまっていると、頭上から偉そうな声が降ってきた。顔を上げると、揃いの服を着たおじさんが二人、わたしを睨みつけている。


「出店許可証を示していないようだが」


 どうやら、彼らはこの街の役人のようだった。演奏してお金を稼ごうと思っていたわたしは、そのときはじめてお金を稼ぐためには事前に申請が必要だということを知る。王妃教育では、そういう市井の細かいことまでは教えてくれなかったのだ。

 さて、どうしようか。手っ取り早いのは、魔法でしのぐこと。もめごとで目立つのは本意ではないし、ここはひとつお願い・・・してみようか。


「知らなかったので、教えてください」


 相手の目を見据えてお願いすると、すぐに彼らは教えてくれた。有り難いことである。


「ベアートでお金を稼ぐためには、出店許可証が必要なんだよ。それは、露天を出していなくても同じなんだ。許可証は役所で手続きすればもらえるから」

「説明ありがとうございます。それでは、手続したいのでそれも教えてもらえると有り難いです」

「もちろん!」


 最初無許可のわたしを威圧していた彼らは、一転してにこやかな態度になった。うーん、魔声ってやっぱ怖い。使うのは最低限にしなければ。


 親切な役人さんに手続きを教わったわたしは、再び広場に戻った。

 魔法師団に入ったときから、毎日竪琴の練習は欠かしていなかったわたしの演奏は、行きかう人たちの興味を引くことに成功する。わたしは竪琴の名手というわけではないが、それでも年少者が多少難しい曲を奏でていれば目を惹くのだ。

 増えていくおひねりに気をよくしつつ、わたしはしばらく竪琴を奏でまくり、今後の旅費を稼いだのだった。


          ◆


「ただいま~」


 食料やらなにやらを鞄に入れ、ほくほく顔で帰宅したわたしを出迎えたのは、ユートを頭の上に乗せたリーダイスの驚いた顔だった。なんなんですか、その顔は。さては帰ってくると信じてなかったな!


「ただいまって言ったんですが?」


 無言のリーダイスに返事を催促すると、ユートの方がおかえりと返してくれた。いい子だね、ユート。そして王様は返答なしである。


「おかえり、はないの?」


 ちょっとぶすくれたわたしに、リーダイスは顔を赤らめた。色が白いから血が上るとすごくわかりやすい。性別女子であるわたしよりよっぽど可愛い赤面具合なのだ。美人っていいですね。


「あ……その、お、おかえ……り」


 尻つぼみになったものの、期待通りの返答を引き出せて満足したわたしは、満面の笑みで成果物を鞄から出した。うん、誰かに出迎えられるのっていいね!


「えっとね~、服がこれとこれとこれでしょ~。で、これが靴。髪もまとめた方がいいだろうから、リボンも買ってきたよ! 男の子だもんね!」

「リボンなどいらない」

「髪の毛そのまま流してたら美少女と勘違いされるよ。目の色と揃えてみたんだ」


 未婚の女性は髪を下すが、男性にはその制限はない。長髪の男性は少ないが、その大体がひとつに結んでいるため、わたしはリボンを買ってきたのだ。

 わたしが選んだ青灰色のリボンは、艶がない代わりに品があるものだった。美人とはいえ、リーダイスは男の子。可愛さを控えた品物を選んだわたしは偉いと思う。本当はレースのリボンとか色々可愛いのあったんだけど。


「ほら、むこう向いて。髪やったげる」

「な……っ!」


 文句がある様子のリーダイスを黙殺して、わたしは彼の髪をひとつにまとめる。さらりとした髪はそれなりに傷んでいた。きっと二年前までは手入れが行き届いていたのだろうが、幽閉された状態では、ケアなどはできなかったのだろう。

 不憫に思ったわたしは、自分の髪油を分けてあげることにした。


「うん、ツヤツヤ!」


 オイルを擦り込み、丁寧にくしけずった髪は、さらに深い蜂蜜色になって輝いた。うーん綺麗。わたし大満足!


『フィリア、うれしそうだね!』

「だって、綺麗にできたんだもん。そう思わない?」


 リーダイスの肩に頭を乗せていたユートが、嬉しそうなわたしを見て楽しげな声を上げた。一方でリーダイスは不満げだ。


「僕一人でもできるというのに……」

「わたしがやりたかったの。ダメだった?」

「ダメ……とは言っていない。その、エスフィに触れられるのは、気持ち……いやっ、なんでもない!」

「強く頭振ったら崩れちゃうよ~」


 急にぶるぶると頭を振るリーダイスに、わたしは注意した。せっかく綺麗に結ったというのに、今の衝撃で緩んでしまったではないか。でも、崩れ方がまた優雅でよかったので、結果オーライではあるが。


「さ、身支度出来たら、腹ごしらえしよう! お腹空いたでしょう?」


 不満げなリーダイスは、腹ごしらえの一言に顔を輝かせたのだった。ホント食べるの好きね、君……。

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