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誰に導かれなくてもぼくらは生きる  作者: 城乃華一郎
序章
7/97

6.破壊

2016年11月2日:タイトルの数字半角を他に揃えて全角に修正

「どうしたら信じてくれる?!」


 率直に言った。正直に言った。もう正面も真正面から行った。ヘッドスライディングかよというぐらいに前のめりで、頭っから突っ込んでいった。工夫を凝らした文言なんて、どこからもひねり出せる余裕がない。

 手のひらは上向き、両手を前に差し出し、どこかで見覚えた武器は持ってないですよの国際的サインも出してみる。魔法がある世界の場合、舌を歯の間で噛んで見せるんだっけ? それもやった。素早く動けないように、膝立ちの姿勢までしてみた。

 これでも駄目ならもうどうにでもなれ! 腹でも見せるか?! 仰向けに寝転がって腹出して転がるか?!

 それぐらい、俺もまた、追い詰められていたのであった。追い詰められた目の奴が気に入らないとか文句つけておきながら、説得力ないこと甚だしかった。違う、俺は人生に追い詰められて困ってるんじゃない。目の前の君に困らされているだけなんだ。


「ほ、ほうへひょう(ど、どうでしょう)」


 上目遣いに顔色を窺ってみる。


/*/


 信じてたまるか。


 カグナは思う。


 信じてたまるか。あれだけ魔力を手当たり次第に吸い上げて、ユニークスキルまで立て続けに使い、しかも、人の意思を強制的に挫く。そんな存在が、たとえ悪意がなかろうと、無害であるなどということ、信じられるか。

 それに、ふざけている。乱れた口調でおどけた振る舞い。そこまではまだよしとしよう。敵ではないことのアピールだと認めてやろう。

 だったら何故、最初に私が見た時、この男は牙剥くように猛々しく笑っていたのだ!

 笑顔はコミュニケーションを取るためだと? 矛盾している!!


 けれども、打つ手がなさそうなのも、また、事実であった。


 敵意すら抱くことが出来ない相手を前に、一体どうやって戦えというのか。


 対策は幾つも思いつく。破れかぶれに自分を攻撃して、その余波に相手が巻き込まれることを期待する。あるいは、全ての()を解き放ちながら、何も考えずに猛スピードでそこらじゅうをかけずり回る。行動に対する結果を何も期待せず、責任も負わないつもりで適当に動く。心を無にする。エトセトラ、エトセトラ…………。


 思いつくのに。


 最もまずいのは、繰り返された敵対心への侵食のせいか、こいつを攻撃する意欲が失せてきていることである。


(綺麗だと、褒められた…………)


 それは、いつもなら、取るに足らぬ戯言として忘却する、先ほどのキスケの言葉であった。仮に、気に留めていたとしても、いつもなら、戦わない選択肢を取るための、言い訳探しでしかないと自分に断じて捨てることが出来た言葉だったろう。

 それでも、その言い訳に、訳もなくすがりたくなってきてしまっている。


 情けなくも媚びた半笑いで自分の顔色を窺ってきている異装の男は、よく見れば、まだ年若い少年の顔立ちでもあった。


 だからどうした、年齢が言い訳になるのか!

 自分を顧みろ! 大して変わらぬ年のころだろう!

 変わらぬ年の、はずなのに…。


(気持ちが、悪い)


 ならばなぜ、年若いはずの私は今、王子として立っている。


 思考回路が、現在の状況とは本来無関係なはずの矛盾に侵食されてきていることをさえ、今のカグナには自覚する術がなくなっていた。


 なぜ王子を辞めたくなっている。なぜ幼さを、未熟さを、自ら選んだ道から退くための理由にしたがっている。力があるのは私も同じだろう。人に害を為さない保証はない? 自分こそ誰よりも分かっているだろう! 私には、少なくとも、人に直接的な害を為した前科がある!

 ああ人を愛するために育ちなさいと母様から言われ、人こそ素晴らしきものだよとお婆様に説かれ、人間であったお爺様を敬愛し、人間であった父様を信じ、力ある者の義務として万民を愛するべく身を立てようとした私がなぜ街で守りたかったはずの民草から非難と敬遠のまなざしで取り囲まれながら歩かねばならなくなった、どうしてだ!

 どうしてだ!?


(気持ち、悪い…………)


 世界に対する敵意が保てなくなる。いや。

 押し隠していたはずの、世界に対する敵意が、心の裡に収めておけなくなってくる。

 こいつは、私を、おかしくする。

 私を私でなくさせる。


 何も見えない。

 男の顔も、周りの世界も、何も見えない。


 私には、私しか、見えない。

 私の、こぼれ出る腸のようにグロテスクな人生しか、見えてこない。

 なんなんだ。

 なんでこんな目に遭う。

 なんで私なんだ。

 なんで私が。

 私が。


 私ハ、私ヲ、憎マナケレバイケナイノニ――。


「あ…………」


「あああああああ!!!!」


 怒りが、支配する。

 感情が私を塗りつぶす。

 自制しようとするほどに、その倍ほども強い衝動が脳を焼き、また、目の前の誰か(・・)に、手をあげてしまいそうになる。

 まただ。また、こうなる。

 どうして私はこうなってしまった、どこで道を間違えた――?


 ぱつん。


 意思が寸断された。

 目が見えなくなるほどの目の前への怒りが、どこかへ持ち去られたかのように、視界に世界が戻ってくる。

 世界を憎んではいけないと、そのように意思を強制される。


 奪われる。

 私の感情を、奪われる。


 怒りが湧き上がる。


 ぱつん。


 奪われる。


 ぱつん。


 奪われる。


 奪われる奪われる奪われる奪われる奪われる憎しみが怒りが私が私が


 奪われ奪われ奪われ奪われ奪わ奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪奪ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


/*/


「ほんっと洒落になってねえぞ、ハコ…………」


 腕の中で、白目を剥きながら、それでも口元だけは笑っているカグナの瞼を、キスケはそっと閉じてやった。全身の痙攣が、不規則に伝わってくる。


「人間ぶっ壊す力なんて、望んだ覚えは毛頭ねえよ!!!!」

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