47.直撃
「一人ではこれしきの雑魚も満足に相手できませんのね、《波濤》」
「貴様が割って入ったせいで、私の魔法がかき消されたんだろう!」
地面に倒れ伏した蛇女の遺体を前に、二人の王子は睨み合っていた。遺体は、途方もない重さによって押し潰されたのか、地面と一体と化している。
「さて……。私は、我が王をお手伝いいたしませんと」
「ふん。貴様が魔法戦に絡んで足手まとい以外になるとも思えんがな」
「あら、それでも尚、我が王が私を率いた理由が分からない? 本当に分かりませんこと?
ご自分の貧相でけそけそとしたみすぼらしい力に似て、暗愚なこと……」
カグナは肩を震わせ、あからさまな嘲笑に耐えた。
「ぬかせ」
ぷいと、平静をかろうじて保ち、影の足を伸ばして高く飛び去る。
「どちらへ行くおつもり?」
だが、肉声で答えられるだけの近さは、二人の間にはもう存在していなかった。
残されたクレナイは、目を細めると、カグナの飛び去った方角を確かめる。
「友軍の支援に向かうおつもりですのね。お優しいこと……」
一対一こそ本領である彼女からしてみると、そのような選択肢を取り得る能力は、
(ああ……妬ましい……)
既に、手持ちの武器は使い果たしている。
体面上、カグナにああは言ってのけたが、戦場を縦横に駆ける機動力も、蹂躙する殲滅力も、彼女には到底持ち得ぬ武器なのだ。
一歩、一歩、鎧をガシャリガシャリ鳴らしつつ、それでも彼女は戦場の中心へと歩いていく。
不安定な足場を慎重に進むため、牛歩にも程がある。
また、地表に断裂でも生じていれば、迂回して回らねばならないし、戦場が移ればそれだけでやり直しになる行程だ。
無駄になるかもしれない緩やかな一歩を積み重ねて笑う彼女の内心を、果たして誰が共感出来たろう。
/*/
灼熱した岩石が、高速に打ち出される。
剛錬兵の扱うそれと、全く同じ魔法から生み出されたはずのものが、巨大さでは数倍、速度でも数倍で、しかも2000を数える剛錬兵全部を合わせたよりも無数に、そして絶え間なく放たれていることを、赤の王以外、誰も察することは出来ないでいた。
この場で最も魔法に長けているであろうノーコですら、あまりに扱う威力と連射性が違いすぎて、当たるを幸い、自分の体で片っ端から迎撃して回るしか術がない。
虚空から生じる不規則な斉射を、一顧だにせず、味方に当たるだろうものだけ一つも余さず粉々になるまで切り払う、赤の王の力量こそが、攻撃手である炎王と比べても異常すぎるのである。
ただ一振りの攻撃を、千にも、二千にも分ける。それしきは、王には造作もない。
だが、秒間数千発の魔法攻撃を延々と繰り出し続ける、王にのみ許された底無しの存在力。
こればかりは、どれだけ格の差があろうとも、容易く削り切れなかった。
「おおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」
そこに突っ込んでくる無謀な一筋の黒い流星。
その、世界を食い取るはずの呼吸を宿す、影で出来た肺腑を文字通り魔改造して作り上げられた翼が、岩石の一つを受け止める。
「!」
周辺を機動していたノーコは目を見張った。
味方に攻撃が当たるのを、赤の王が許した。それは、つまり足手まといではないと認められたという証左である。
(さすがだねっ、トモダチ!
息をするだけで、生きてるだけで、どんどん強くなる。
でも、それだけじゃ王の位を持つ者は倒せない……!)
まだ、炎王の攻勢は、飛来したキスケに流れ弾以外をよこさない。
それでも、次々と巨大に広げた翼に岩石が刺さり、同じ領域に踏みとどまることをさえ許さないかのように、後ろへ後ろへと押し流していく。
吸収する以上に、与えられるダメージの方が、上回っているのだ。
たちまちに、魔人の翼は破け出していた。
それでもノーコは心配していない。
「その程度でやられるような発想力、してないでしょ、現代人!」
/*/
キスケのイマジネーションが、移動するために翼の形を取らせた影を、よりしなやかで強靭な構造に変形させる。
(まともには受けない。受け流す。
それでいて、俺自身の移動や視界を遮らずに、千切れない構造……)
よじりあわせた影の糸で、網を前方に広げる。
波打つ網が岩石を表面に乗せ弾き、上空へ次々と打ちそらした。
自分の分身でもある影を、かくも非人間的な構造、扱いに変えることで、自身の精神構造に一体どのような影響をもたらすか。今の彼には、そんな後先を考える余裕はなく、ただ必死である。
再び前へと進み始めるキスケ。
その体に、突如形状を変えた鋭角な岩石が、網目をすり抜けて突き立った。
直後、岩石が内部から爆裂して肉体を引き裂いていく。




