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誰に導かれなくてもぼくらは生きる  作者: 城乃華一郎
第一章
41/97

38.魔法・2

昨日予定していた分の後半をお届けします。

『むかしむかしの、おはなしです』


 赤髪の幼女は、厳かに語り出す。胸の前で組まれた小さな手は、畏敬を掴んだ祈りの形。

 額に小さな角持つ、鬼の亜人の子供、リリ。

 そのリリが、一週間前、ハースの学校で、キスケに語ってくれた御伽噺の思い出である。


『打ち捨てられた、古い世界のぬけがらを、ひかりのたみが見つけます』


 それは、この世界の成り立ちを表わすという、伝説でもあった。

 地上に(あまね)く全ての種族が、頂天(・・)に座す、光の一族から生み出されたという物語。

 あるいは、ほとんどの民草が自らに直結する現実の出来事として信じ、語り継ぐ、聖なる創世神話か。


『ふりそそぐひかりが世界を蘇らせ、やおよろずの霊たちがそこに宿りました』


 光、すなわち、霊性。

 人を含む、全ての知的存在――《八百万(やおよろず)霊翼(れいよく)氏族》は、光の一族そのもの(・・・・・・・・)でもある天上の輝きを受けて、霊性をその身に帯び、誕生したと、獣に宿りし霊、獣霊(じゅうれい)族の亜人であるベイジは語っていた。


 天の光は全て神。


 昼は最も偉大なる一柱(ひとはしら)(だいだい)なる太陽が、夜は対となる一柱、(おう)なる月と、万天(ばんてん)星光せいこう達が、天を支える。だからこそ、世界は霊性の現れたる魔力を失うことなく存続しているのだと、カグナは敬虔なまなざしでキスケに告げたことがある。


 この世界の夜が白く輝いているのは、夜を照らす無数の意思の、尊き輝きなのだと、夜空を共に見上げながら、教えてくれた。そんな夜が、確かにあった。


『けれど、ひかりのとどかないばしょで、わるいものたちも生まれます』


 人が望み得る、最上の夢の最果て。それこそが、王となり、やがて天へと還って、この世界を照らす一柱となることである。

 それは、幼女リリが気に掛ける人間族の子供、ムンタの口癖ともなっている野望だった。


『地にも光を』


 地の輝きは全て王。


 キスケの語るような王権神授説や現人神とは異なり、王とはかつて神であった者達なのだと、人間族の古い記憶を口伝で受け継ぐヤースは、酒場で酒を飲み交わしながらだが、言い切った。


『あしきものたちから、世界を守るため、幾つかの光は王となりて、終わりなき戦いをはじめました』


 あしきもの、魔族。


 あらゆるものを喰らい、あらゆるものの亜種と化す(わい)族と、あらゆる魔法を無に帰す、光に連なる全存在にとっての天敵、地の底より現れる絶望、()族の総称である。

 矮族が蔓延れば、世界の全ては食い尽くされる。無族が湧き出れば、世界の歴史は零へと戻る。

 僕達兵士は、そうさせないために戦い続けているんですと、蛙系の亜人、ピエールは、訓練所で手合わせする直前、誇りを胸に宣言していた。


『王は、やがて私たちに戦う力をお与えになり、そして今の世がはじまっていったのです』


 概念核(スキルコア)


 人の血に宿る魔法を基に作り上げられた、魔法を超えた魔法、概念(スキル)を生み出すための力。

 様々な魔法に長けた、人や亜人ならざる数多の種族が、今ではこぞって手に入れんと求める、あらゆる状況に適応しうる新たな魔法体系だと、広場の見張り番をしていた蛇系の亜人、ジェーナが、複雑そうな表情で説明してくれた。


 それらの記憶、一つ一つを繋ぎ合わせ、キスケは、この世界観への認識を確かにしていく。


「光の一族を中心として育まれた、剣と魔法の世界。そうか、つまり魔法を使おうとするってのは――」

「うん、それなりに知識は仕入れてるみたいだね。

 そうだよ」


 ノーコの人差し指が、ゆっくりと天上を指していく。

 青空に、徐々に昇ろうとしている太陽が、その先にはあった。


「どうやって光から魔力を引き出すか、それこそが魔法を使う最初の一歩なんだ」


/*/


 キスケの脳内で、記憶と理論が結合していく。


 魔力の使われている現場で空間が歪んで見えたのは、空間ではなく、それを照らし出している光が魔力を吸い出されて異常をきたしているから。

 魔法の使い過ぎで世界が眩しく見えたのは、光をそれだけ多く引き寄せたから。


「なるほどね……教わるまでもなく、ある程度は使えてるんだな、俺は」


 ノーコは教え子の理解度に満足して、にっこりと頷いた。


固有概念(ユニークスキル)も魔法のうち。

 君がイメージしてた魔法って、いわゆる『それ(ゲーム)っぽい』魔法だよね。

 私が得意とするのもそれだから、安心して」


 掲げた指から、穏やかな風が吹き流れてきた。

 今のキスケでは、魔力を引き出すのが早すぎて知覚出来ていないが、これもきっと魔法の仕業なのだ。


「何しろ私のユニークスキルは《不可侵》。

 だから、スキルコアも持てなくってね。そこから作れるステータスもスキルも持ってない。

 この身で出来る芸当だけが、私の全て」

「そりゃ……」


 即座には言葉を選びかねるキスケ。

 簡潔に言ってのけ、表情を変える素振りもないノーコだが、それは、普通に与えられるはずだったものが与えられない人生を潜り抜けてきたという、自負の現れなのだろう。

 結局、元の通りに、思ったままを口にする。


「頼もしいこって」

「うん」


 彼女は優しい形の眉毛を、さらにニコニコと緩ませて、本当に嬉しそうに応じた。


「トモダチの役に立てるのって、とっても嬉しいな。

 さあ、次に動きがあるまで、あと三日。

 暇を見てはみっちり教えるから、覚悟するんだよ、キスケくん」

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