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誰に導かれなくてもぼくらは生きる  作者: 城乃華一郎
第一章
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37.魔法・1

20141204:タイトルの半角を一字全角に修正

 晴れ上がった朝の空を、鏡のように写し込む水溜まり。

 器用にその上を、ホットパンツから伸びた細い足が避けていく。


「よっ、ほっ」


 掛け声付きだ。

 リズミカルで、見ている分には普通の動きだが、何気なく目で追っていたキスケは、踏まれたぬかるみが正確にスニーカーの靴底をくっきりと刻印しているのを見て取った。


(あれで少しもズレねえのか)


 武道の達人が見せるような、ぬるりとした合理性はないが、体の隅々までコントロールされているのが分かる。これから教授される魔法だけがノーコの武器ではなさそうだ。


 二人は宿を離れ、村の外に出てきている。と言っても、街道に沿って三分ばかり進んだ程度なので、十分村の中とも呼べる範囲だ。

 遠景には草原が広がっている。田畑が目立たないのは、ハースからさほど距離がないこともあり、村が小さな宿場として成り立っているからである。

 魔族の頻出していた地域だけに、農作物だけで商っていくには環境が厳しいようだ。


(前に泊まった時も、そう言ってたっけか。

 事実上は、軍の落とす金で半分回っていて、もう半分がハースと他の街を行き交う人々の金だと……)


 思い出して、頭を振る。これもカグナが教えてくれたことだ。

 何を考えても、基準にカグナが来る。この世界に来てから彼女と一緒にいた時間の方が、他のどの時間よりも多い。現実での記憶が消えている現状を加味すると、人生の大半を共にしているとさえ形容出来るのである。

 考えないようにしても、必ずどこかに、あの、生真面目な青い瞳と、不器用だけれども嬉しそうな笑みが、浮かんできてしまう。

 今はそれが辛い。


 幸い、ノーコは前を向いて歩いているので、こちらの様子は分からないだろうが、心情を腹の内に収め切れていないため、キスケはひどく落ち着かなかった。


「地面も比較的しっかりしてるし、ここらへんでいいかな」


 くるり、踏み出した足がまだ空中にある状態で、ノーコは体を180度回転させて急に振り返ってきた。


「おう」


 咄嗟に応じつつ、危ないところだったと冷や汗をかく。

 動揺を見抜かれていないか心配になるが、相変わらずウキウキと楽しそうな目つきをしている彼女の表情からは、何も読み取ることが出来ない。


「それじゃ、実演と練習を交えつつ、魔法の授業、始めよっか」


/*/


 魔法。

 ゲームをやる人種ならば誰しもが一度は聞いたことがある単語だろう。

 もしかしたら、幼児教育用の仮想体験や、書物や動画などの古いコンテンツで、先に見知った経験があるかもしれない。

 いずれにせよ、世界観産業(・・・・・)の発達した現代において、その用語は、かつての形容詞や慣用句の範疇を超えた意味を持つようになっている。

 キスケとて、その辺りの基本的な知識は、さすがに持ち合わせていた。


「まず、基本的なところのおさらいから行こう。キスケくん、魔法って何だと思う?」

「そりゃ、世界を作り変える力だろう」


 パン! とノーコが手のひらを叩き合わせると、ピンポンピンポン、と、どこかで聞いたような効果音が鳴り響く。


「せいかーい」

「変な魔法だな、おい」


 ノーコはツッコミにブイサインで返しつつ、そっくり返り、猫のように口を曲げてドヤ顔を披露した。


「では、第二問。

 超能力と魔法は(・・・・・・・)どう違う(・・・・)?」


 これには詰まった。

 どちらも念ずれば起きるという点で共通している。まさか呼び方が違うだけというひっかけを出してくる意味があるとも思えないし、既に半日通して付き合ってきた彼女の性格上、無意味な冗談はしないはずだ。


(超能力にゃ、理屈がねえことが多いよな。それに引き換え、魔法はとにかく理屈っぽい方がそれらしい(・・・・・)感じがする)


 考え抜いた案を、思い切って口にしてみた。


「魔法にはそれなりの理屈がある。超能力にはほとんど理屈がない」


 ノーコはピッと指を鳴らした。またしてもピンポンが鳴り響く。


「せいかーい。キスケくん、よく考えてるねえ」

「は。まあな」


(で、それが魔法を覚えることと、一体どんなつながりがあるってんだよ)


 教師役が軽いノリなので、調子を合わせて、さも正解して当然のように振舞ってみせたが、問題の意図が彼には未だに読めておらず、ひやひやしている。

 女教師という肩書をくっつけるよりは、小学生相手の家庭教師が似合いそうな彼女は、見た目通り、鳴らした指をキスケに向けて、軽快に第三問を繰り出してきた。


「ここからが本番だよー。

 それじゃ、魔法にくっつく理屈の正体って、一体何?」


 これだ。

 ここ(・・)こそが、世界観産業のある現代と、それ以前とで、共通認識の広まり方が、決定的に異なっている。

 さすがにここは外せないな、と、間髪入れずに彼は答えた。


世界観を成り立たせる(・・・・・・・・・・)法則(・・)のことだろ」

「ワオ、ビンゴ。

 すごいなー、最近のコたちはみんなこれ正解するんだよね、時代が違うのかな。

 私の始めた頃と、そんな一年も違いがないはずなのに」


 ぎょえー、と大袈裟に驚いてみせるノーコを見て、気づいた。


精神(AI)年齢が離れすぎてて、俺の方が子ども扱いされてんだ)


 ゲーム中、特に経過年数が外見に反映されない世界観においては、AI同士(・・・・)の成熟度の違いというのは、そう簡単に推し量れるものではない。とはいえ、馬鹿にされている訳ではなく、実際に考えさせながら何らかの思考の道筋を辿らされていることが分かるので、キスケも不快ではなかった。


「それで、魔法を覚えるのに後は何が必要なんだよ、ノーコセンセー」

「あっは、焦らない焦らない」


 ノリを合わせてくれたのが嬉しかったのか、喉の奥から息を吐き出すようにして笑うノーコ。

 この笑い方も特徴的だよなと、観察している間に、それが彼女の癖だと気づいたキスケは、他人のことを見るほどには自覚していない、皮肉めいた歪んだ笑みを浮かべて白い歯を大きく覗かせる。


「ではではー、この世界観とはー、そもそもどんなー、あ、ものでしょうー」

「それはふざけすぎ」


 調子づかせすぎたのか、歌舞伎の見栄を切りながら出題してきたノーコに冷淡な言葉の棘を投げ刺しておきつつ、出題内容について考える。


(とにかく思い通りにならねえし、代償を要求してくる上、力こそが正義とか言うイメージの割にゃ、現実の歴史と比べて、そこまで身内で揉め合ってねえよな。やっぱり、共通の敵が居続けると、まとまりやすいってことなのかね)


 回顧すれども、まとまらない。一口で表すなら、この世界はどういう世界なのか。


「んー……」

「おや、初めて詰まったね。ヒントが欲しくなったら言ってね、トモダチ」


 この世界で交わした、数少ない会話や読み覚えた知識を総ざらいする。生きてきた時間は短いながらも、常識を学ぶ機会は与えられていたはずだ。与えられるまでもなく、どこかにヒントがあっていいだろう。

 それらの記憶は、剣術の概念(スキル)獲得のために、犠牲にされたはずだったが、間を置いたおかげか、少しずつキスケの中に、実感を伴って蘇りつつあった。


 思い出すべきは、そう、もっとも基本的な教養を学ぶ場、学校での出来事。

ちょっと半端なところで切ります。土日は書く時間の確保が難しくて微妙ですいません。

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