25.前進
短いですが体力が少々切れかけている状態なので、ご容赦を。
そのうち、話を結合するなりするかもしれません。日刊が現在の目標なのです。
林の奥へ踏み入ると、新しい矮族の姿が見えてきた。先程の馬面連中とは明らかに種類が違う。
だが、今は、奴らの容姿に目を凝らすよりも、優先すべき認識対象がある。
林の中においてさえ、大地に刻印の如く黒影を落とすのは、カグナが生成している無数の長腕だ。色の濃さから察するに、影の腕の密度が、相当に上がっているのだろう。
腕は、縦横無尽にそれぞれ一本が10m以上も伸び、矮族を掴んでは、樹にぶち当てるようにして投げ飛ばしている。その勢いたるや、大人が一抱えしても余るほどの幹を持つ樹が、激しく揺れるほどだ。投げる腕の振りも、投げられる相手の球速も、プロ野球選手並みだな。
相手も、飛ばされながら、樹に叩きつけられるまでの間に爆炎の魔法を放つので、すごい光景になっていた。
腕が飛び交う中を爆炎が飛び交う中を投げ飛ばされる矮族が飛び交う中を、さらにニレェーのものだろう気配が覆い包んでいて空間の歪みがどんどん色濃くなり認識するのも困難に……という有様だ。
なるほど。どうやって割って入ったらいいか分からん。
だが、決めた。
割って入ると、俺は決めた。
==【前進を変換します】……【矮族:レベル2:25体分】……【固定値:10000】==
全部だ。全部使え。
==【概念:剣術:固定:3.00】==
まだだ。まだ全然道筋が見えてこないぞ。
なんかねえのか。
ないな。
ないならぶんどって作る。
手近な矮族を殺そう。
樹に叩きつけられ、動きの鈍くなっている奴を選び、殺す。
とどめだけ横取りするようなもんで、行儀が悪いったらない。
しかし、今はこれが出来る全部だ。
全部だ。
手に入った分、片っ端から全部使ってけ。
==【前進の自動変換を開始します。定着深度の低下にご注意ください】==
表示の意味が分からん。いい、とにかくやれ。
「オラこっち来いやァ!!!!!」
今はとにかく撃墜数が欲しい。怒声を浴びせて注意を引き寄せた。
そこで初めて、相手の姿を観察する余裕が出来ていることに気がつく。
鱗肌の人面に、粗末だが革製の衣をまとった、短躯の猿。首から下は、鱗の隙間から毛が生えているのに、頭と顔にだけ毛がない。
馬面といい、どういうデザインセンスしてやがる。しかし、馬面よりはシンプルなデザインだな。二、三種類しか混じっていないように思える。
ウロコザルが吠えると、その口元で空間の歪みが生じ、歪みが炎に変じて林の奥へと盛大に吐き出された。
見える。
射線が、発射する直前に、予見出来るようになっている。
炎のゆらめきを計算して、やや大きめに迂回しながら接近していく。当然、向こうもその気配には気づいて、こちらを振り向くのだが、その頃にはもう《歓喜》が発動して、棒立ちになる。
剣を振ろうとして、ユニークスキルの間合い外から味方ごと俺を焼き尽くそうとしているウロコザルの存在に気づく。このまま、まともに踏み込み斬撃を入れていては、回避が間に合わない。
だから、剣を振るのではなく、刀身を肩に担ぐように構え、すれ違いざまに目前のウロコザルの首を切りつけ、そのまま走り抜けた。
カグナの影腕が、俺を焼こうとしていたウロコザルを弾き飛ばす。ナイス。
当初より大きく射線のずれこんだ火炎の渦は、俺をまともには狙えていない。だが、向こうの体勢も乱れているので、林の中を横に薙ぎ払う、予期せぬ攻撃となって飛んできている。
どう避ける。しゃがむか? それとも右に倒れ込む?
迷っていた判断が、意識の中で剣術スキルの数字カウンターが動くと同時に、一本化される。
「――右だっ!!」
間一髪、俺の左側面を熱波だけが撫でていき、転がった俺は、受け身を取ってそのまま跳ね起きる。
[! よけ……]
「ぜェェェあッ!!!!」
跳ね起きた勢いを駆って、剣を袈裟斬りに振った。
その軌道上に、真正面から、カグナの投げ飛ばしたウロコザルがぶち当たり、両断されて俺の後方へとクルクル回転しながら落ちていく。
いける。進むほど、見えているぞ。
俺の行動を読みきれなかったのだろうカグナの発しかけた警告の声を、最後まで聞くことなく、回避から攻撃を一挙動でつなげることが出来た。
これなら戦場の中心まで、いける。