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誰に導かれなくてもぼくらは生きる  作者: 城乃華一郎
第一章
25/97

23.交戦

==【前進(ポイント)を獲得しました】==


 振り下ろした切っ先に骨身を断つ手応え。そのまま俺は、棒立ち(・・・)になっている生き物の、二足歩行(・・・・)で立ちっぱなしの胴体を蹴り転がす。草原の、足が深い根元に転がるのは、たてがみの生えた馬面に、緑色の鱗がぎっしりと埋め尽くされている頭部。

 振り返りざま、隣で棒立ちになっている、同じ種類の生き物の、喉を浅く突いて、それでおしまい。爬虫類の尻尾と、そこだけは人の(・・)骨格をした裸の下半身。ただし性器はない。排泄口もない。


==【前進(ポイント)を獲得しました】==


 ああそうかい。分かったよ。


[――キスケ!]

「俺の心配してんじゃねえよ」


 どこからか、()の口だけで呼びかけてきたカグナに、おざなりな返事をし、藁を切るように次の死体を作りに動く。

 首。左右に浅く切っ先だけを切り込ませ、反応を伺う。

 しばらくしてから、


==【前進(ポイント)を獲得しました】==


 よし、動脈を断った。たったこれだけでいい(・・・・・・・・・・)

 次。

 胴を全体重掛けて突いてみる。剣は貫通して背側から突き出し、適当な内蔵を貫いただろう。問題はこの後。杭を引き抜くように、胸に足を掛けて、引き抜く。思った通り、殺したてなら、まだなんとかなりそうだ。剣はズルリと抜けたが、もう少し、コツを学ぶ必要がありそうだな。


==【前進(ポイント)を獲得しました】==


 生身の人間と同じ下半身の、膝上を一気に撫で切る。馬面たてがみの生き物は、荒いいななきと共に崩れ落ち、無防備な棒立ちから、更に無防備に後頭部を俺の眼下に晒した。

 力任せに振り割る(・・・・・・・・)

 頭蓋をぶちまけた刃が、加減通り、地面につく直前で止まった。手元を引き絞り、脇を締めて、可動域を限定してやれば、自ずと運動は止まる。これでいい。


==【前進(ポイント)を獲得しました】==


 手近な連中は片付いた。

 おもむろに見回す。まーだ駄目だな、視界が身の回りだけになってやがる。見回さないと把握できない時点で、まだまだだ。

 草原は、ところどころに寂寞とした欠損(・・)が、そこだけ食い取られた感じで点在している。近場の林もそうだ。そして、相変わらず、林の中から、生き物ども(・・)は湧いてくる。馬面、手前はいい。どうでもいい。

 その更に後方、奥深く、木々が大きくかしいで葉を揺り落とし、なんらかの()が発生していることを感じさせる動きがある。森林密度は低いのだが、空間の透明度が低く、見通しが悪い。魔力が絶え間なく発動しているせいで、見えていても、認識(・・)がうまく働いていないようだ。

 林へは、踏み込めない。

 魔法の余波に巻き込まれれば、害意のあるなしに関わらず、俺にはダメージが来る。意志を持った生物(・・)は止められても、現象までは止められない。つっかえねえ能力だなあ、おい!


 剣を振って、血振り。刀身から幾らかはぬめりが落ちたが、そんなもん、気休めにしかなってない。


 後続を、林から先、街道までの間、進ませないため、俺は前進を再開する。

 戦線を押し込む。ただ一人で戦線を作る。


 この空間から先は、俺のもの。


 そういう意思で以て、線引きをする。


「クソっ喰らえ、っつっても、お前ら何でも(・・・)食うんだもんなァ……」


 ギシリ、持ち手を握り締める。滑り止めの布に、血が滲みていて、感触が微かに湿っぽい。


「なら、死を食えよ(・・・・・)


==【固有概念(ユニークスキル):歓喜】==


 体中の血液が、グラグラ煮立つ錯覚。魔力を消耗し、視界の透明度が下がる感覚。

 己が意志持つ眼光だけになっていく幻覚。


 一部は俺を無視して横を通り抜けようとしていた馬面どもが、止まる。

 苛立ちまぎれに横っ面を刀身でぶち抜いた。長い鼻梁がへしゃげ、倒れ込んで痙攣する。どこでもいい、頭のどこかに当たれ。剣を血振りのつもりでついでに振るう。切っ先に手応え。血振りも済んだ。代わりに鱗が幾らか張り付いた。ウザってえ。


==【前進(ポイント)を獲得しました】==


 ウザってえ。意識にチラつくから、無視が難しい。


「あああああああああ!!!」


 怒鳴りながら、手当たり次第に、首、手首、脇下、みぞおち、ふともも、喉と、走り抜く勢いで剣を振り回して裂いていく。まだだ、まだ足りない。まだいる、まだ殺す。

 確実に仕留めたのを確認していたら、いつまで経っても片付きやしねえ。だから、「今はカウントを後回しにする」。


 ……時間を遡ろうか。

 優しい時間が一体どこで終わったのか、俺もそろそろ思い出したい。

 生き物を殺していると、殺した相手と向き合っていると、殺すべき悪意を見つめていると、どんどん自分という存在が、相手によって薄められていく気がするんだ。

 だから、俺を。

 俺と呼べるものを、思い出すために。

 俺を手放さないために、殺戮を続けながら、俺は俺を思い出す。


/*/


「それではクヌゥー、カエデ、後を頼みました」

「任されました」

「任されましたよー」

「ベイジ、後は頼むぞ」

「よしなに。……キスケ殿、カグナ様を頼みます」

「約束は守りますよ」


 旅の荷物を背負い、俺達は街の通用門を出た先で最後の別れを交わしていた。

 クヌゥーと、ニレェーの代わりに門番のペアで新しくやってきたカエデは、大きく開門している正規の門をよそに、俺達の見送りに来てくれている。どうも門番の概念が違うようで、商業的な通行や、出入りのためのチェックは、行政官が執り行っている。門番は、文字通り、「街の門として機能する存在」であるようで、ただ二人であらゆる敵性勢力の奇襲に備えるだけの力量があるという。

 二人合わせても俺と同じくらいの体重しか無さそうなんだが……。すげーな、ファンタジー。すごいのは、魔法か。


 王子の出立だが、軍勢を引き連れての移動でもなく、帝都へ帰還するための口実となる所用をここ数日の間にベイジさんとカグナが揃って作っていたとのことで、見送りは本当にこれしかいない。

 内心どうするのかひどく心配していた、道中の食糧事情だが、どうもカグナもニレェーも、食いだめした分を使って生きられるようで、用意されたのは実質俺の分が大半だった。魔法か、それも魔法なのか。俺にも教えてくれ。主に現実側で使ってみたい。便利すぎる。

 登山用ほどのサイズに膨れたリュックは少々重たいが、武装や生活用品も込みなので仕方ない。


 格好は、二人は普段着と全く変わらない。武装しているのは俺だけだ。

 訓練で身につけてみた金属の剣(色味的に鉄の鋳造品だろう)と、鉈、ナイフが武器。

 着てきた服は、流石に旅には頼りなさすぎる。全とっかえということで、ベイジさんに全部預けて、歩きやすそうな履き慣らされた中古の革サンダルやら、急所だけを最小限隠す軽装革鎧が防具。

 ゲーム知識と照らし合わせると、冒険の旅には心もとない装備だが、旅行者がするには適切な、動き回ることを優先した格好になった。


「戦時には、私がキスケの鎧になるよ」


 と、カグナが申し出てくれている。

 ここで変に威勢良く出て、足手まといになる展開こそ、みっともなさすぎる。

 俺は素直に、


「頼んだ」


 とだけ答え、視線を交わし、頷きあった。

 俺と他二人の戦力差は、レベル表示があるなら、きっと桁違い、それも桁数の多いゲームなら二桁三桁は離れている。

 師と新人弟子クラスの差だ。粋がるだけ格好悪い。


「ニレェーも守りますよ」

「頼むよ。魔法は防げない」

「頼まれました!」


 旅立ちの挨拶は、そこまで。

 残る者と、旅立つ者が言葉を交わし、旅立つ者同士が最低限の確認を交わして、それでおしまい。

 途中、振り返ると、小山のようにまん丸いベイジさんのシルエットがいつまでも見えていたのが、最後に、いなくなったのか、見えなくなったのか、見つけられなくなって、それで振り返るのもやめた。


予約投稿失敗してました、うっかり。

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