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誰に導かれなくてもぼくらは生きる  作者: 城乃華一郎
第一章
17/97

15.行動をしてみよう

/* Open True Time */


 何となく生きて、何となく死んで。

 お前はそれで人間と言えるのか?


/* Open Variable Time */


 ヤースさんは帰っていった。ベイジさんも同行した。

 一人になると、どうしても自分の考えの中に埋没してしまう。いかんな、とは思うが、外に出て気分を変えたり行動を起こそうにも、今の俺には何もない。

 元手もなければ、知識もないし、ついでに言うと、やっぱり能力もない。


 帝都へ! と、いざ目的が定まったところで、すぐに出発出来る訳でもない。

 ない、ない、ない。否定ばかりを繰り返されると、人間、意志が萎えるから、よくないんだそうだ。

 では、どう気持ちを切り替えたものか……。


 身一つで施設の中をうろついたり、街をぶらついてもいい。

 金がないなら、稼げばいい。知識がないなら、知ればいい。

 出発がまだなら、準備すればいい。


 いい、いい、いい。これでいい。

 気持ちがリセットされた。ことにしておこう。


 人がいると、とにかく人の顔色を伺って、自分の行動やリアクションを決めてしまう。

 じゃあ、俺は何がしたいのか、って話だよ。

 笑いたかったんじゃないのかよ。


 ぎち、と、無理やり顔中の筋肉を総動員して、前が見えなくなるくらい、一人で笑顔になってみた。


 違う。

 違うとは思うのだが、まず形から入るのもいいだろう。

 やってみることだ。とにかく今の俺には行動が足りない。

 記憶がスキルに置き換えられているせいか、目的意識が全然ない。

 人生、流されてばかり、それで本当に生きていると言えるのか?

 だったらせめて笑顔を貫くぐらいはしたっていいだろう。

 ……なんか、「せめて」で取った選択肢が随分間違っている気もするが、よしとしよう。

 否定からではない。肯定から始めるのだ。


 ドアを開けよう。開けた。

 俺の意志で、開けた。

 廊下を見て回るのだ。

 見た。最上階は貴賓室扱いなので誰もいない。

 よーし、今なら遊び放題だ!

 ……違う! なんか違う!!

 こうではなく!!


 おそるおそる、階段を覗いてみる。

 上からは、気配がしない。下からは、気配がここまで届かないよう、工夫を凝らされた静寂が響いてくる。うん、立派な施設じゃないか。辺境の割に、上等だ。

 階段を降りよう。

 降りていく。

 そう、俺の意志で降りるのだ。(これ繰り返す意味あるのか?)


 考えて見れば、一日ぶりの自由だった。

 街を目指してひたすら歩いたというのに、いざ着いたと思ったら、カグナを連れていかなきゃーいかんという責任感に駆られて、ロボットみたいな行動原理で移動していた。

 一夜明けて、眠ることも出来たら、少しは心境も落ち着いた。悩みのタネであったユニークスキルについても、無事、手がつけられんという結論を手にして、諦めがついた。


 どんどん降りていく。おお、庁舎庁舎とだけ呼んでいたが、やっぱり軍の庁舎だよな、ここ。

 人に出くわしたが、不審者を見る目線で怖い。話は通っているようで、誰何されることこそなかったが、アウェイ感がすごくて、なかなか誰かに話しかける勇気が出ない。

 ヘイヘイヘーイ、やってみようぜ! 勇気がない時こそ臆病を投げ捨てろ! 臆病が落ちる軌道上にだけ勇気というものは出現する! 今、そう信じた!


「あの、もし」


 誰だよ俺は。尋ねごとをする町娘さんか。

 呼び止め方を自分で突っ込みつつ、


「ギャーー!!!」


 と悲鳴を挙げられた。

 しまった、部屋からずっと表情が固定のままだ。不審者どころじゃなく触れてはならない奇っ怪な客人になっちまってた。


/*/


「な、なな、なんです、か、ハイ」


 俺が呼び止めた相手は、つるんとした平たい顔をしていて、鼻が小さな男性だ。これは亜人だろう。俺にも分かるぞ。可愛い系の亜人だ。開いた両目の距離など、顔の骨格は少し人間から離れているが、マスコットみたいな愛嬌があって、亜人慣れしていない俺が見てもギョッとするようなところがなかった。

 ……人間に対して魅力的になるよう、生まれついているという話だが、そうか、ベイジさんといい、男の亜人はかっこいいんじゃなくて、ちょっと可愛い系が主流なのか?


「あー、ごめん。顔の筋肉が攣ってた」


 純度100%の嘘でなかったことにしてみる。

 主体性、主体性。

 リラックスリラックスみたいな調子で自分に言い聞かせつつ、人と出会っても人に合わせないよう、意識を集中する。ついでにいうと、ユニークスキルが発動しないようにも、なるべく集中する。防御時はオートだとしても、コミュニケーション時にうっかり発動しないとも限らない。変にビビらせすぎた。敵意を抱かれるには十分すぎる。


「なな、なんですかぁ? カグナ様のお客様とは伺っておりますが、ぼ、僕に何か御用でしょうかぁ?」


 げこっ、と、しゃくりあげた。あ、この人、蛙系の亜人だ。

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