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誰に導かれなくてもぼくらは生きる  作者: 城乃華一郎
第一章
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13.ステータス開示

「あなたがキスケさんですね」


 翌日、ベイジさんが昼前に連れてきたのは、これまた丸々と太い男性だった。

 え、何。そういう太ましいつながりなの? と、思ったが、こちらは常識的な身長体重に収まっていて、カグナよりも多少低いが、俺よりは結構重そうな、多分、人間男性だ。亜人の特徴が顔や髪とか体格以外にも出るんだとして、そこまで見分ける力がまだ俺にはないが、直感的に、あ、同類だ、と思ったので、合ってると思う。

 控えめに形容しても、ふくよかな方で、率直に特徴を拾うなら、頬が下膨れている。目鼻立ちのはっきりした顔で、真ん丸に見開いた目からは、陽気で愉快なおっさんという印象を受けた。しかし、さすがに初対面ではっちゃけるほど常識知らずではないのか、それとも俺の思い込みに過ぎなかったのか、彼は深々とお辞儀をし、尋常の挨拶から会話を切り出した。


「初めまして。私はヤー・ドゥー・ス・ズゥーと申します」

「こりゃご丁寧に。キスケです、もしかしてベイジさんにもうご紹介に(あずか)ってますかね」

「ええ。今朝ほど、お話を伺いました」


 慌ててお辞儀を返しながらも、颯爽と直撃した異文化の洗礼に混乱する俺である。

 どれだ。どこが名前でどこが家名だ。ミドルネームがあるとして、複数あるもんなのか。誰さんってお呼びすればいい。

 ここは素直に聞いておこう。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥よ。


「失礼、どのようにお呼びしたらよいですか?」

「ヤースと、ベイジ様からはお呼びいただいております」


 詰めた形での略称が正解だった。食文化は大差ない割に、難しすぎんだろ、異世界の名前。

 しかし、ヤースさんか……。もっと親しみやすい印象の人なんだよな。あだ名つけちゃうか。

 よし。ヤーさんだとやばいので、俺の中ではヤッさんということにしておこう。


 ヤッさんは特別な格好をしている様子もなく、普通の中年男性に見える。


「キスケ殿。彼が、あなたの身元を確かめる、血の遺志の信徒です」

「血の……なんですって?」


 地の石?


 音と字面が一致しないんで、怪訝そうに眉根を寄せた俺を見て、ベイジさんとヤッさんは顔を見合わせて目元を柔らかくした。

 まあ待て、そこでだけ分かり合うな。俺にも説明しろ。


「人は体内を巡る血によりて種族が興り、そこに宿る、偉大なる遺志と共に、歩んできたと、私の信ずる師から受け継いだ教えにはありました。それゆえ、私は、血の遺志の信徒と自称しておるのですよ」


 血か。それにしても珍しいな。宗教を信じる人が、自分の信教について語る時、大体一人称が複数形だと思ってたが……。これも俺の思い込みだったかな?

 などと思っていたら、ベイジさんから助け舟が出た。


「キスケ殿。この世界で、まず、血の遺志の教えを知らぬ人間はおりませんよ。それだけでもう、あなたが異なる世界から来たか、記憶を喪っているか、つまり、キスケ殿の仰るご自身の状態、どちらかには必ず当てはまることが、分かります」


 へぇー。種族が血から興ったって、神話かなんかなのかね。神様の血から人が生まれたとか?

 ま、そのあたりの教義伝承を聞かせてもらうために呼んでもらったわけではないだろうから、詳しく聞くのは時間が余ったらにしておくか。


 ヤッさんは、俺の方に一歩、歩み出て、また小さくお辞儀をした。


「この出会いに、喜びを捧げましょう」


 その言葉に、おっ、と、感じるところがあったので、同じようにはお辞儀をせず、首肯するに留めながら、俺は応えた。


「喜びを、ヤースさん。こちらこそ、よろしくお願いします」


 我が名に懸けて、ここでリアクションをしない選択は、ないわなあ。

 初見だが、どうやら近い価値観をお互いに持っているようだと分かり合えて、嬉しくなった俺は、利き手を前に差し出した。

 握手だ。


「この習慣はありますか?」

「ええ、もちろんです」


 グッ、と握り交わした掌の厚みは、歴年の手応えがある。破顔一笑、目尻に皺をたっぷりと寄せて、前が見えないんじゃないかっていうくらい、思いきり笑いかけられると、自然とこちらも心が軽くなってきた。こういうおっさん、好きだぜ、俺は。


「それで、ベイジさん、俺はどうしたらいいですか? 何かやること、ありますか?」

「その必要はないですよ。ヤース殿の魔法は、血に直接聞くことで、そのものの素性を知るものです。もちろん、当人からの同意を得ずに使われることはほとんどありませんからね」

「教えは教えのためならず。触れることで人の心が傷つくのなら、私はそれを行いません」


 ふーむ、なるほど。

 どうにも現実では、表立っては政治的な話にばかり絡んで目立つから、宗教に関するイメージが偏っていたようだ。

 魔法のある世界で魔法を扱う宗教が、こんなに穏当なことを説くとは思ってなかった。


「立ち話もなんですから、掛けてくださいよ、ヤースさん。って、部屋の主でもない俺が言うのも変か」

「キスケ殿は、カグナ様に客人として招かれている身分です。キスケ殿の思う範疇で自由に振る舞っていただけば、充分礼を失することはないと考えていただいて結構ですよ」

「いや、いや、カグナ様に想い人と伺って、私はもうねェ、楽しみでやってきたんです!」


 せめてもの礼儀として、椅子を引いて着席を促してみた。小さくお辞儀をされ、俺も返礼。なんだか言葉だけ聞いていると、ヤッさん、恋バナに食いついちゃった、はしゃいだおっちゃんみたいな感じなのだが、こういう細やかなところで所作の品が良いから、エグみがない。変わった人だ……。

 ベイジさんだけまた床に直座りだが、これはもう仕方ないと割り切った。多分ベイジさんの生まれ故郷にでも行かないと、体格に見合った家具なんてないんだろうな。……このぽよぽよとした、柔らかい小山みたいな人が沢山いる街か。すげーな。どんなだよ。巨人の街ってもっと質実剛健で豪放磊落なイメージあったけど、印象が全然違くないか?


「……人は、出会うべくして出会うという考え方もあるようですが、私の信じる世界は、もう少し違っていましてね」


 ヤッさんは、不意に目を細めて、俺から見ると、信徒らしからぬことを口にしだした。


「人は、人の意志によって出会う。私はこの世を、そのような場と捉えております。

 カグナ様の意志が求め、キスケさん、あなたという、愛と出会えた。

 キスケさん。あなたもまた、出会った時から愛されるという形で、人と出会うのは、おそらく初めてのことでしょう」


 これは賭けてもいいが一目惚れされた経験はないし、今回の一件が一目惚れだったという解釈には頷けないので、肯定も、否定も出来ず、ただ、話の続きを聞いて待つ。


「あなたが此度(このたび)の出会いを、どのように捉えたか。それは、あなたの中だけにしかない答えです。

 私はそれを共有しようとは思わない。あなた(・・・)は、あなた(・・・)だ。

 今、想っていただく必要もありません。なあに、今のはただ、カグナ様を知る者として、喜んでしまっただけのことでして、これから行うことにも特にはつながっていないんですよ。緊張させちゃいましたかね」


 なんとな!?


「では、少しばかり、お話を聞かせていただくといたしましょう……」


《我と、我らの、源たる》

《血と血と血と血と、遺志の下》


 そう、歌うように口ずさむヤッさんの声は、いや、ヤースさんの声は、先程までと変わらない、気のいいおっちゃんのものなのに。


《等しき人の、識の下》

《己に目覚めよ、人の子よ――》


 何故だろう(・・・・・)自分の声のようにも(・・・・・・・・・)聞こえていた(・・・・・・)


/* Open Status */


名前:キスケ・アマイモン

概念:《歓喜》《魔人》


/*/


 ……。

 ……。

 …………えっ。

 もしかして、俺のステータスって、たったこれだけ?

 腕力(ストレングス)とか、知力(インテリジェンス)とか、レベルとかは?

 あれーーーーー????

新規おっさんIN・ヒロインOUT。何かがままならない。

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