~ 卵 座 ~
司は 何度か
「兄貴-!」
と呼んだが …
哲からの 返事も 哲 の 姿も見えなかった
良く聞く 狐につままれたような …
不思議な気持ちを抱いたまま …
司 は 哲 に 貰った 黒い革のバック と
借りてきた 桶と柄杓を持ち …
霊園の道を 駐車場に向かって歩いた
水場に 桶と柄杓を戻すと …
何だか急に 胸騒ぎを感じ …
今来た道を戻り 墓へと戻った …
戻ると …
墓の前に ハッキリ と 見えた …
白い花束の中に …
一輪だけ 真っ赤な薔薇 が …
「 兄貴!! 」
司 は 慌てながら
墓石の横に刻まれた 名前を確認した …
平成 二十七年 七 月 十三 日 …
小野 哲 … 享年 四十ニ才 … 永 眠 …
切なさが 司 の 心を貫いた …
司 は その場に 踞り …
「ごめん … ごめんな 兄貴 … 俺 … 生きていて … ごめんな … 」
司 は 泣いた …
心が 張り裂けそうだった …
暫くして 呆然としたまま …
駐車場 へと 向かって 霊園の道を歩いた…
哲との 様々な 思い出が
胸の中に 溢れる …
楽しかった 子供の頃や …
憎いと 怒りを抱いた 事 …
生きる とは 死ぬとは …
人生とは 何なのか …
肉体を 失った 魂は
何処へと 向かうのか …
そんな 想いばかりが 心を巡る …
駐車場について …
来た時と同じように …
ツバメタクシー に 乗った …
だ が …
司 の 心 は 其処には無く
想いの中を 駆け巡っていた …
帰り道は 口数の少なくなった 司 に …
運転手も 疲れてしまったのだろう …
と 気 を 遣 い
あまり 言葉を掛けはしなかった …
タクシー が 昼過ぎに 裏野ハイツに着くと …
司 は 料金を払い タクシーを降りた …
まだ 呆然としたまま …
部屋の鍵を開け リビングの ソファーに
ストンッ と 座った …
整理のつかない 頭の中は …
グルグル と 渦を巻くように
只 想いが 巡るだけ …
ソファーに 躰を横たえ …
軈て 司 は スゥ- スゥ- と 寝息を立てた …
サワ~ サワ~サワ ~サワ ~
見た事も無い 立派な 大樹の繁る森には …
夜空が 拡がっていた …
「此れは 夢か ? 綺麗な星空だ … 不思議な事があって 気が沈んでいたから 少し助かるな …」
司 の 耳に …
太鼓 と 笛の音が聴こえた …
~ ♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪~♪~
♪~ 村~の 鎮守の 神様の~
司 は 音や唄に誘われるように
森 を 進んだ …
♪~ 今~日は めでたい お祭り日~
ドンドン !ヒャララ ~ ドン ! ヒャララ ~
ドンドン ! ヒャララ ~ ドン! ヒャラ ラ ~
軈て 森の中に …
♪~ 朝~から 聞こえる 笛 太鼓 ~
ポッカリ と 草原のような 開けた空間が現れた …
其処には …
見覚えのある 卵形の石が見えた …
「あれっ … 祭りじゃないのか … 」
司 は 少し 残念そうに 呟いた …
裏野 ハイツ の 横にある 卵形の石 …
気にならない 訳 は 無い
存在感 溢れる 石 だが …
触るのも じっと視るのも …
石に失礼なのではと思い 遠慮していた …
でも 夢の中ならば と …
司 は 恐る恐る 近づくと …
そっと …
両 手のひら を 卵形の石にあてた…
ドッ ク ン … ド ッ ク ン …
不思議な 卵形の石 の 鼓動が 波を打ち
司 の 手のひらから 躰を伝う …
ビクッと 司 は 手を離した …
其でも …
石の 鼓動 に 合わせ …
司 の 脳に メッセージが流れた …
ド ウ … 生 キ ル ?
何 ヲ シ テ … 生 キ ル ?
司 は 声にして 応えた …
「解らない … 只 … 此の病気が治れば良いと … 其しか … 解らない … 」
ドクンッ ドクンッ ドクンッ …
病気 ガ 治レバ …
何 ヲ スル … ?
司 は 再び 応えた …
「… ずっと 病気だったから … 解らない…何をしたら 良いんだ … 俺 … 」
ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ!
探 ス カ ?
我 ト 伴 ニ …
司 は 困惑したような 覚悟したような …
そんな 顔をして 頷いた …
スゥ- ッ と 司 は 石 の 中 に吸い込まれるように 姿 を 消 した …
ドン! ドン! ヒ ャ ラ ラ ~ ドン! ヒャララ ~
♪~ 朝~まで にぎわう 宮の森 ~
三ヶ月後 …
司 の 家賃が 振り込まれず
不信に思った アプリコット ハウス の 社員が 102 号室を訪ねると …
ソファーで 眠るように 死んでいる 司 を発見した …
検視の結果 …
死後 三ヶ月は過ぎているが
不思議な事に 腐乱等は無く …
たった 今
息を引き取ったように見えたという …
それから もう一つ …
裏野 ハイツ の 横の 卵形の石が
忽然と消えていた …
卵形の石が あった場所は
土が焦げたように 真っ黒くなり
グルグルと卵形に巻かれた
線のように凹凸を作り
誰かの 悪戯なのか …
真っ白な 蓮の花が 1本 咲いていた …
卵形の石 と 司 の 魂は …
何処に 消えたのか …
誰 に も 解 ら な い …
誰 も … 誰 に も …