~ 薔薇の花 ~
夜空に 拡がる 星 の 世界 …
「何年振りだろうな 星を見るなんて … 」
司 は 微笑んで …
子供の頃 …
忙しかった 父 が 時間を作り
教えてくれた 夏の星座を眺めた …
何れ程 眺めていたのか …
司 は 眠気を感じ
部屋へと戻り
ベッドに潜ると 直ぐに眠ってしまった …
翌朝 スッキリ目覚めた 司 は …
サンスクリーンを丁寧に
露出する 顔や耳 其から 手先等にも塗った…
身支度を整えると …
ツバメ タクシーを待った …
約束の 朝 6時に タクシーに乗り込むと
運転手さんは とても感じ良く接してくれた …
司の乗る 後部座席には 直ぐに取り外し可能な 遮光パネルが貼られ
運転席 と 後部座席の 間の プラスチックの仕切りにも 遮光パネルが貼られていた…
司 の 病には 快適な 車内の中で
教育されているとは思うが…
普段なら 煩わしいと感じる
運転手との会話も 司 は 楽しんでいた …
途中 …
一軒の 茶色い煉瓦作りの 花屋に寄った…
花屋 の 女性は タクシーを見ると …
司 が 予め 電話で お願いしていた 花束を
タクシーの中から 受け取れるように 手渡してくれた …
年に一度しか 訪れない 司 を 覚えている様子で 微笑んだ …
タクシーの 運転手が 司に聞いた
「小野 様 此処の花屋 良く利用されるのですね! あの店員さんの 顔 … 凄く嬉しそうでしたから … 」
運転手 は 微笑んだ …
「ハハハッ! そうですか? 初めて あの花屋に行った時は 電話もしてなくて … 俺が入って行ったら 店員の顔色が変わって… 皆 後退って… 驚いたんでしょうね … 俺がこんな服装だし… でも … さっきの店員さんは … 初めから … あぁ言う笑顔で 避けたりしませんでしたよ … きっと 店長なんじゃないですかね? 責任者ってのは 大変でしょうね … ハハハッ」
と 応えた …
其から ツバメ タクシー は 近くの霊園へと 山道を登って行った …
霊園につくと 運転手は …
「小野様 何か有りましたら 直ぐ電話を下さい ! 失礼が無ければ お墓の 場所を教えて頂けませんか? 万が一 体調を崩されたら大変ですから … 」
そう言ってくれた …
運転手に 両親の眠る お墓の 凡その位置を教え
1時間 後に 此の場所に戻る事に決め
花束 を 持つと …
司 は ツバメタクシーを降りた …
太陽は 高くなっていたが
気分的なものなのか …
特別 体調に変わりは無かった …
霊園の道筋にある 水場で 桶と柄杓を借りて …
桶に水をいれて お墓へと向かう …
両親の 墓に近づくと 男の姿が見えた …
「あれは … ?」
司 に 気づいたのか …
男は 司 に …
「お前 … まだ生きているのか !死んだ 親父 や お袋に こんなまねさせて! 恥ずかしくないのか!!」
兄 の 哲 の声だったが …
姿が随分と違って見えた …
頬が痩けて 髪はパサパサ …
目だけが ギョロギョロと
魚の目のように目立っていた …
「いや … 何言ってるのか 解らないよ …」
司 が 応えると …
哲 は 何かのスイッチが入ったように
「お前が おかしな霊媒師とかに頼んで 俺に呪いをかけたんだろ!! 誰か使ってお前の書いた誓約書盗ませて!!一年前から 俺の枕元に毎晩のように 親父とお袋立たせて 泣かせて!! 全部 お前だろ!! 何で お前なんか生きてんだよ ~ うっ… うっ…」
哲 は 泣き崩れた …
其処には …
司 の 知っている 兄の 姿は 無かった …
「何言ってんだ 誤解だ 」 とか 「俺じゃない」とか …
幾つも 幾つも 言葉は浮かぶが …
司 は どうしても …
今 の 哲 に 其を言う事が出来ず …
「一体 何があったんだよ … 兄貴 …」
としか 聞けなかった …
哲 は 涙を払い 両親の お墓の前に どっかりと座り …
「余命 … 1年 … 肝臓癌だとよ … 則夫叔父さんに全部 持ってかれたよ … 会 社 … 亜沙美 も子供連れて実家 … 死んだら保険金入るから 今は 籍は抜かないけれど だってよ !… ふぁっはっは! 笑えるよな… 1年前から 時々 親父とお袋が枕元に立って お前を探せって凄い顔してよ … ずっと無視してた … 死んでると思ってな … で …昨日の夜だ … 寝てたら 心臓 ギュウウ~!って 親父に掴まれて 「今スグ死ヌカ!明日 墓ニクルカ ! 選ベー!!」って怒鳴られた … で … 来た … で … お前が現れた … 其の白い花 … やっぱり お前だったのか … 此処に用意できる金と … 此れ…俺の生命保険の証書 … 受け取り人 お前にしてる … たかが二千万だけど無いよりマシだろ … 亜沙美とは別のヤツだ … 置いていく … お前のだ … じゃぁなっ …」
と 昔 父が愛用していた
黒い革のバックに 保険証書を入れ ボンッ!と 司 に 投げてよこした …
哲 は トボトボ と 司の方へと向かい歩き始めた …
司 は 哲 に
「兄貴 … 墓参りしたのか … 」
と そう聞いた …
「いゃ … まぁ … でもな 来年入るしな … 司 … 俺は 真っ赤な薔薇が良いな!薔薇飾ってくれよ!頼むぜ … 」
哲 は 微笑んだ …
「まだ … 入って無いだろ … 兄貴 … 」
司 は もう一度 哲を呼び止めた …
哲 は 面倒臭 そうに 司の横に戻った …
「何か変な気分だな お前と こんなの …」
哲 は 微笑んだ …
「あぁ … 本当だ … 」
司 も 微笑んだ …
司 と 哲 は 両親 の お墓に 二人揃って 手を合わせた …
司 は 瞼 を 閉じ …
心の中で …
「今日と 言う日を ありがとう … 父さん … 母さん … 兄貴に合わせてくれた事 感謝しているよ … 」
と 告げた …
司 が 瞼を開くと …
お墓の後ろに …
半透明な 両親が立ち 司を見て 微笑んでいた…
司 が …
「あっ … 」
と 声を上げると …
両親は ス ゥ - っ と
空気に溶けるように姿を消した …
「なぁ 兄貴 !」
司は 慌てて 横に居る 哲 に 声を掛け 哲を見た
「えっ … 兄 貴 … ?」
司 は 立ち上がり 辺りを見渡したが …
哲 の 姿 は 見えなかった …