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Bi ssalama  作者: 篠梛琅&姫宮大豆
三話:宝の水と崇める宗教団
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翌朝

 その日は朝から騒がしかった。騒がしかった、という表現は語弊かもしれない。だが、いつもより少しだけ、ほんの少しだけ様子が違っていた気がする。

「カマル、私は働くぞ」

 通常より早く起床してきた王女はカマルたちが眠っている部屋を訪れた。本来ならディマと同室になる筈だが、彼女は病人であるため大事を取って別室で寝ている。一人部屋になってどうせ寝坊してくるだろうと思ったののだが早起きとは何事か。まだ眠っていたカマルははっきりとしない意識の中「そうか……」と欠伸をして答える。瞬きを二回してようやく上体を起こす。

 日も昇ってから朝食まで時間もある。それなのにすでに出かける準備が整っているとは。

「……え?」

 二度目の欠伸が出そうになるのを我慢して王女が言ったことを思い出す。

――私は働くぞ。

 自分自身で働く。なにを? どうやって?

 信じられない言動に驚きを隠せず、次の瞬間には叫んでいた。商人が大声を出したために未だ夢の中にいたサフィアが目を擦りながら起きあがる。

「朝っぱらからうるさいなー、どうしたのさ……?」

 らしくないぜ、ぶつぶつ文句を言って自身の髪を掻き回す。結っていた三つ編みはほどけて癖が残っている。夜から朝にかけて冷え込むので寒暖差に慣れていないのか寝るときは常に芋虫状態になっている。だのに夜遅くまで起きてるので朝は四人の中でも一番弱い。

 レイリーも無理やり起こすまで一向に起きないのに、本当にどうしたものか。カマルは頭が回らず、ただ混乱するだけだった。


 朝食の時に訳を聞いたサフィアは手元のスープを匙でつついて頷いた。砂魚を細かく裂いてじっくりと出しを取ったものに街で生産した葉物野菜を加えていく。最後に塩などの調味料で味付けすればさっぱりとした汁物が出来上がる。一口食べればしつこくない味が口の中に染みわたる。

「なるほどね。あの王女様が……進んで稼いでくれるのなら大助かりじゃないか」

「そうなんだが、ディマを一人にしておいて大丈夫か?」

 一昨日から体調不調を訴えて寝込んでいる少女の為に急いでこの街に入った。昨日は到着早々サフィアに連れられて水を買い求めに街中を廻った。水が販売されているという店に行けば、ちょうど別の人間が残っていた水を全て買い占めていったという話を聞いた。買いに行ったのが遅い時間だということもあり、他の店に行ってもないだろうと諦めて女性陣が待っている宿に戻ったのだ。

 そして今朝。王女の働く発言を耳にして驚かずにいられなかった。しかも自分の店を手伝う訳でもなく一人で、だ。確かに一度店番を頼めばどれくらい安値で売られるか知ったことではない。困っている人間を放って置けない精神は王女としての気質だろうが、世の中安易に甘くしたらその他大勢の人間が縋り寄ってきてしまう。そろそろ社会経験も必要だろうとこの数日指導してきた。

「レイリーの奴いったい何を考えているんだ」

 もし身分がばれてしまったらどうするんだと眉をひそめる商人の肩を大きい手が叩く。

「なあに、心配することないさ。あのお姫さんも気が済めば戻ってくる」

「だと、いいんだけどな」

 空になった皿を見つめる。何事もなければいいと思ってしまうのは一国の王女を連れているからでもある。彼女が居なければ解決することさえできなかったこともまた事実だ。

 それに、世界を見たいという願いも途中だ。

「無理しない程度に付きやってやるか」

 今回は王女がやると言い出したので気が済むまで好きにさせてみようか。彼女の常識がどこまで通用するのか見てみたい。仕事がつらくて音を上げて助けを求めても自業自得だと言えるし商売の先輩としてのアドバイスを与えてやってもいい。そうなったら文句言われようが上から目線で指導してやろうか。

 自分たちもやれることはやってみよう。カマルは食事を済ませ、出かける用意をする。まずは水を確保しにバザールへ向かおう。


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