砂漠の国の出会い
ようやくテルによって企てられていた暗殺も未遂に終わらせることが出来たと思ったのに。何故かカマルが暗殺者の疑惑をかけられた。実の父に対してレイリーは異論を唱えるために前に出る。
「違います父様。カマルは犯人などではありません!」
「しかし、現に私が食べようとした菓子に毒が入っていたのだぞ? もしかするとテルと手を組んでいたのかもしれん」
「ですからこれは!」
カマルの無実を必死に訴える。すべては丸く収まったと思ったのにどうして。王はそんな娘の言葉を信じられずに兵たちに彼を捕らえるように命令した。
なんとかしなければと思うレイリーだったが、ふと肩を掴まれると同時にカマルに引き寄せられた。提げている剣一振りを奪われてはレイリーの喉元に銀の刃があてられる。娘を人質とされた王は眉をひそめる。
「何をするのだ!?」
「俺を暗殺者と疑っても構わないが、後悔するなよ?」
剣を向けられても逃げる手段はあるのか。否、それよりも弁明することが先決だと思うのだが、商人はレイリーを捕まえたまま少しずつ後ろに下がる。兵たちは大事な王女が捕まっているので思うように近づくことが出来ないのだろう。ジッと機会が訪れるのを待っている。
広間の入り口まで下がると、解放はしてくれたが、今度は急に右手を掴まれたと思ったら走り出した。あまりに唐突だったので躓きかけたが体勢を取り直して引かれるままにしている。振り返ると王女を救出しようとする兵士が後を追いかけてくるのが見える。だがレイリーは助けを求めずに大人しく走っていった。
自分たちが二人という少人数ということもあってか撒くのは簡単だった。近道やレイリーだけが知っている抜け道を活用したおかげで、体力をそれほど消費せずに王宮の出入り口まで駆けてきた。レイリーがいつも使っている裏門から抜け出すと、主人の帰りを待っていたのか召喚獣の鹿が荷台を率いて王宮近くで待機していた。カマルは即座に座り慣れている御者席に乗り、「さあ」と手を差し出す。荷台に乗れということとは外に連れ出してくれるというのだろうか。
「何故なのだ?」
「何も特別な理由があるわけじゃない。けど、ずっと願っていたらしいからな」
世界を見て見聞を広げる。それが彼女のやりたいことだった。王の暗殺未遂やテルの裏切り。カマルが捕まるなど事が一遍に起こってしまったので本人もすっかり忘れていた。最初に頼んだ時にだって頑なに断っていたはず。それがなぜいきなり外に連れて行ってくれることになったのだろうか。理由を聞いたが商人は前を向いて手綱を持っているだけでまったく答えてくれそうにない。二人が乗っている馬車がゆっくりと走り出す。レイリーは荷台の後ろを開けては王宮の方を見つめていた。
バザーの間を駆け抜け、出国の手続きを済ませる。どうやらカマルの暗殺者疑惑はまだ行き届いていなかったようで、一言「出国したい」と言えばすぐに対応してくれた。その間レイリーは荷物の中に隠れており、終わったと聞かされた時には既に砂の海だった。
「カマル」
「何だ」
不安定な足元を進む中、御者席に近い場所から聴こえてくる少女の声は元気が無い。
「すまない。貴様を犯罪者にしてしまった」
私と関わってしまったばかりに。レイリーは薄暗い荷台の中で申し訳ないくらいにと肩を落としている。膝を抱えて座っているときに外から名前を呼ばれた気がした。レイリーは荷台から顔を出すと突然額に痛みが生じた。
「痛っ……いきなり何をするのだ!?」
「済んだことをいつまでも気に病むことはない。それに、犯罪者だっていわれても仕方がないからな」
顔を出したレイリーに商人は片手二本の指で弾いてきた。痛みに耐えながら文句を言うが商人はそっけない態度のまま。やられっぱなしなのは流石に嫌なので、レイリーは御者席の隣が空いているのをいいことに荷台からカマルの隣に移った。カマルは大人しく後ろに乗っていろと怒っていたが、
「仕返しだ」
王女は勝ち誇ったように笑っては目の前に広がる景色を眺めていた。
そして商人と砂漠の国の王女を乗せた馬車は砂漠の海を進んでいく。
◇
二人が出て行った後を、二つの影が見つめていた。大小に分かれており、大きい影は望遠鏡をのぞいている。
「ふーん。案外簡単に切り抜けたみたいだね」
軽い調子で面白そうに、だが若干つまらなそうにぼやく大きな影。あの場をもう少し抵抗していたら自分が出てあげようとしたが、小さい影を一人にしてはならないので我慢していた。どうせ真犯人は時がたてば脱獄してくるのは想像つくが、再び彼らの前に現れた時にはどんなふうに変化しているのか楽しみだ。
「さあて、俺たちも行こうか」
大きな影は小さい影に先に進むことを告げ、遅れることの無いように手を引いて歩き出す。早く追いついてしまっては面白味が無い。多少寄り道をしながらでも確実に行こう。
砂漠の国であった一つの出会い。
それは青年にどのような影響を与えてくるのだろうか。




