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それぞれの3・25


 ついにこの日が来ちゃった。横八小初の卒業式。って言っても、卒業するのは、僕の姐さんの学年と同じ人なんだがね。

 横八小はこの日に卒業式と修了式を執り行うから、あまり関係の無いように見える1年生も、こぞって卒業式に出なきゃならないんだよなぁ。

 さて、姐さんの様子はどうなってるかなー?折角だから見に行ってみよう。先に学校に着いて何か作業してたみたいだし。


「うー…私、卒業したくないよぉー!」

「私もよ…この学校って…風変わりな行事が多かったけど、楽しかったわ…。」

 早速6年1組から女子の泣き声が聞こえた。まぁ、あんまり会った事無い人だったので気には留めなかったけど。


 さて、2組はっと。んっ?姐さん?姐さんだけ、机に視線を落としてる!?家の中でもあんな風に、アンニュイになってる姐さん見た事無いぞ。

「何してるの?」

 だっ、誰?ぱっと振り向くと僕の知ってる人が立っていた。

「玖美子さん!?」

「あら、トモくん。5年間、大変だったわね。お姉ちゃんに振り回されっぱなしで。」

「そりゃそうですよぉ。普通の事が全く出来ない姐さんに手を焼いてばかりでしたから。まぁ、これでちょっとは平和になると思うと、何だかホッとしますね。」

「忌憚無いね。ものすごく正直。そういうところ、姉弟だからかな?同じよね。」

 えっ!?嘘だろ!?僕には姐さんとに通ってるところなんて一個も無いと思ってたのに…。

「あっ、そうだ。トモくん、今度6年生になるんでしょ?」

「ま、まぁ、そうですね。」

「今度6年生になるトモくんに私から贈り物。置き土産って言った方がいいかな。6年生のリーダー引き継いで。」

 な、なんと!保体委員の学年リーダーを僕に継がせると!?

「今、5年生は3組の柴原(美野里)が学年リーダーやってますし、彼女に継がせた方が得かと思いますが。」

「それがねぇ。あの子、6年生になったら、他の委員会に移る事になったのよ。だから、いざという時に力を発揮するトモくんにしようと思ったわけ。他の子もトモくん推してたわよ。レースの事しか考えてない子って思ったら、意外な時に気を利かすから、あの子が良いねって言ってたわ。みのりんに話した時にも、彼女も同様に言ってた。」

 あらら、みのりんも言ってたんだ。ならば、これで拒めばいろんな所からひんしゅくを買うなぁ。

「あ、あの…」

「この後も先輩巡りするんでしょ?3組と4組にも面白い人いたよ。朝登校した時から泣いてる子とか。その子、今も泣いてるはずよ。」

 やります、って言おうとしたけど、タイミングが合わなかった。

「わ、分かりました。見てきます。」

 今しか言う時無いぞ。

「あ、あと、学年リーダーやります。」

「ありがとう!これて私も、跡を濁さずにこの学校を巣立てるわ…。」

 そのままスーッと教室に入る玖美子さん。一瞬、背中が寂しく見えたなぁ。


 3組には森野(和美)さんと池田(絢子)さんがいた。僕にも聞こえる声で、6年間の思い出を振り返っている様子だった。

「保体委員になってから、あやちゃん変わったもんねぇ。」

「そうかな?私はよく分からないけど。そういうかずみーも、同じ委員の下級生の男子をよく見てたじゃない。」

 えっ?和美さん、下級生の中で目を付けてた人いたの?しかも5年生の男子って、僕を入れても5人しかいないぞ。誰なんだろう?

「み、見間違えたんじゃないかな?あやちゃん。」

「いやー、私の目に狂いは無いわよー。車好きで、何を話しても必ず自動車レースの話が返ってくる…」

 僕だ!!それ、僕ですよね!?

「ほらぁ、告っちゃいなよ。」

「う…で、でも、ほら、あの子、よく隣りに、赤いメガネをかけた女の子がいるじゃない。」

 あきらちゃんを指してるな。そこまでよく見てるんだな、和美さんと絢子さんは。


 その2人に見つかると面倒な事になりそうなので、すぐさま4組に移った。するといきなり、倉橋(泉美)さんと望月(道子)さんと目が合った。すぐ逃げようと思ったけど…

「トモくん!何やってるの?」

「わあっ!す、すみません!すぐ教室に戻りま…す…。」

 振り返った時に見えたその「子」は、淡いピンク色のドレスを見に包み、一瞬にして大人っぽい雰囲気を醸し出していた。けれども下には紺色に白地の上履きを履いていた。ロングスカートの薄い生地からは、すねやひざがちらちら見えたり、所々で肌が見え、何となく艶かしい印象だった。

けど、顔にかかってる赤いメガネは…。



「はーい。あきら先輩でーす。あーら、トモくん、私の卒業式のお祝いに、何?冷やかしに来たの?」

「それ、普段の姐さんなら言いそうだな。それで、首根っこ持って「はい、玖美子、(一之宮)みなみ、(坂本)敦子(3人共明来子の友達)、連れて来たわよ。」ってなったら、もはや僕の姐さんだわ。」

 ふふふっ。明来子さんのモノマネしちゃった。この後に「ご本人登場!」ってなったらどうしようかしら。明来子さん、私を弄りに来るのかな?


「って、あきらちゃんもどうしたの?」

「トモくんと同じような用事。緑化委員の先輩の様子を見に来たの。」

 間違ってないよね。トモくんを始め、殆どの子がこれから卒業する6年生の教室前で最後の挨拶に来てるんだから、ほら、6-1の前でも…

「かなちゃん…ナナちゃん…モーリー(森嶋さんもあだ名)…色々とありがとね…。」

「はい…木下(郁美)先輩…。今までありがとうございました…。うっ…」

「宮崎(一美)さん、小嶋(晴美)さん、ボクとまた遊んで下さい…!」

「ありがとございました…。田中(修一)さん、塚田(茂)さん、伊東(雅美)さん…。」

 って、あれっ!?うちのクラスの子じゃない。かなちゃん、ナナちゃん、森嶋さんのおなじみのトリオ。相手は、察するに保体委員の先輩みたいね。

「あっ、木下さん達も居たんだ。僕も行かなきゃ…」


ぐいっ


「んっ?」

「トモくんは、私と一緒に行動してくれる?1人じゃ心細いよ…。」

 と言いながら、不安そうな顔をしてみる。本当は、ただ単にトモくんと一緒にいたいだけなんだけどね。

「しょ、仕方ないなぁ。どうしてもって言うんだったら、いいよ。ぼ、僕だって、あきらちゃん1人にさせたら、何が起こらないかと心配になっちゃうから。」

 わぁ…優しい。やっぱり、この間トモくんが私にしてくれた、敬愛と尊敬を込めたあのキスは間違ってなかったんだ…。


「あ、ありがとう…その…」

「おー!あきらちゃんじゃない!」

 あら、私も誰かに呼ばれた。この声は…!

「あっ!(新井)聖奈さーん!」

「えっ?ゼーナ?どこにいるの?」

「聖奈さん!ややこしいかもしれないけど、違うの!」

「あーん、またぁ?あのF1レーサーと名前間違われちゃった。」

 すみませんね、聖奈さん。トモくん、とにかくレースの事しか頭にない人ですから。

「おやっ?あきらちゃん。例のカレシと一緒?」

「ち、違いますって!」

 また聖奈さんにいびられた!

「それぞれ別行動をとってた時に、偶然会ったんですよ。本当ですよ!そうよね?トモくん?」

「ん?あ、ああ。そうですね。ゼーナさん。」

「「聖奈(さん)!」」

「あっ、すんません。」

 しっかりしてよ、トモくん。

「あきらちゃん、6年生の間でも噂になってるわ。学校一の美人で、しかもカレシもいるって。そのカレシって、あれっ?思ってた美男子と違うわね。」

「すいやせんね。美男子なんかじゃなくて。」

 ふふふっ…。何か、トモくんのセリフ、変よ。どこで覚えたの…


「ヤッホー!トーモクーン!」

「あっ!泉美さん!道子!」

 う、嘘でしょ?今、トモくん6年生相手に敬称付けなかったの?

「えっ、トモくん、先輩相手に呼び捨てした?」

「いいのよ、あきらちゃん。私が下級生に対して命じてるんだから。」

 道子さん、私の名前どこで知ったの?

「そうなんだよ。初対面の時から道子と接する時のルール3カ条を教え込まれたんだ。さん付け禁止、敬語禁止、道子に甘えなさいって。あと道子を頼れって。あっ4つか。ねぇ、道子、4つだったよ。」

「あら、失礼。頼るのと甘えるの、いつも一緒になっちゃうのよね。」

「もう、道子。しっかりしてよ。」

 ハッ!いかんいかん。今、トモくん以外の男子が言ってたら、思い切りブン殴ってるところだったわ。あまりにもお行儀悪いから。


ピンポンパンポーン


「全校児童に連絡いたします。各自教室に戻り、担当教員の指示に従い、体育館に移動して下さい。」

 あっ、いよいよ始まるのね。横八小初の卒業式。どんな式になるか楽しみだけど、今まで毎日のように見てた先輩と会えなくなると思うと、寂しくなるわね…。


「在校生、5年生を先頭に入場。」

 6年生抜きに行った予行練習(リハーサル)通り、その次から一つずつ下の学年が入場した。

 それで、このような隊列が出来た。


2,4,5,3,1


 5年生を中心に、2年生と4年生、3年生と1年生が並んだ。そして5年生が並んでるところに、それも私達、2組が並んでるところにこの後6年生が入場する。男子は4年生寄りに、私達女子は3年生寄りに移動した。

 でも、私達の列の後ろ、5年3組の男子なのよね。どこかの不届き者が、私の体のどこかを触ると思うのよね。どうしたら…


ぎゅっ


 えっ!?絵美裡ちゃん?何で私の手を握ったの?

「もし、後ろの男子に体触られたら、すかさず私の手を握り返して。」

 なるほど、それで手を…

「フーッ。」

「ひゃっ!」

 な、何で耳に息吹きかけるのよー!



「智彦、あれ見てみろよ。阪本、小野と手繋いでるぜ。」

式の始まりを待つ間、2つ隣りの和也くんが話しかけてきた。

「何でああやってるんだろうね。後で理由聞きに行くか。」

「そうだね。」

私語は慎むように前々から言われたので、この辺で会話を打ち切った。

さて、いよいよ、卒業生が入場するぞ。


「皆様、御静粛に御願いします。只今より、第一回 横浜市立横浜第八小学校 卒業式を執り行います。卒業生、1組を先頭に入場。」


♪~


えっ?今流れてる曲って、ギャラクシースターズの、確か「Dreamer」って曲だっけ?間違いないよな。僕も毎日よく聞くぞ。テンポの早さ、歌詞の内容、CDで聞くだけでもかなりの名曲なのに、前田アツシ、大島マサル、渡辺マサヒコ、加護アツヒロ、辻ノブヲ、矢口マサヤの6人を中心に、ギャラクシースターズJr.を総動員して作成したPVも大反響を呼んで、去年のレコード大賞とかいろんな賞を総なめにした、すっげえ曲なんだよなぁ。

普通なら、ピアノ伴奏がある曲をBGMにするはずなんだけど、やっぱり横八小は、ここでも普通の事を嫌うなぁ。画期的だし、いい事なんだけどね。


「2組入場。」

あっ、姐さんのクラスだ。姐さん朝見た時、かなり元気が無い様子だったからなぁ…。

って、今も元気無いじゃん!姐さん?どうしたの?姐さんの好きな曲流れてるぞ!って、全然耳に入ってないみたい。元気出るどころか、さっきより凹んでるように見える。あと、僕を見向きもしなかったな。他の子は、周りに手を振る余裕もあったけど。


その後も3組、4組と入って来たけど、あんなに元気が無い姐さんを見ちゃったもんだから、あまり他の様子がどうだったかなんて、覚えてないなぁ。



えっ!?明来子さん、どうしたんだろう?卒業式、だからかな?いつも見る明来子さんとは全く違うわ。なんだか、弟さん(と書いてトモくん)も心配気に見てるもの。


「卒業生、在校生、向かい合って下さい。」


ドドドドド…


「在校生より、贈る言葉と歌。1年生から順に、卒業生にお贈りします。」


♪~


あっ、やっと卒業式らしくなった。ピアノ伴奏が無いと、何だか普通のパーティみたいに見えるんだもの。これくらい、しんみりした雰囲気が、味があっていいわね。


「ぼくたち。」

「わたしたち。」

「1ねん生は、6ねん生のお兄さんおねえさんのかど出をしゅくし、ここに、おいわいのうたをおくります。」

ああやって、1年生も出るのね。なんだか、大人しく出来るか心配だわ。


♪~


あっ!「明日への翼」だ!私達も1年生の頃からよく歌ったわ!わぁ!1年生だからって、あなどってたわ。良い時にこの状況にピッタリ合う曲を選んだのね!

「♪~つばさをーはばたかせー、またあーすーにーむーかって、さーあーゆーこーうー」

うーん!素晴らしい!所々音程外れてたけど。でも、十分すぎるくらい完璧!なんだけど、間違って拍手しそうになっちゃった。しようとしたら、どことなく拍手をする様な雰囲気じゃなかったから、でも止めてよかったかな。私1人でやったらあまりに恥ずかしいから。


卒業式の歌、

2年生→「旅立ちの日に」

3年生→「Believe」

4年生→「Road」


2-3年生のはどこの学校でも歌われてる、お決まりの卒業式ソングだけど、4年生が歌った曲、って3月に出たばかりの新曲じゃない。18(エイティーン)サムライソルジャーズの、泣けるバラードソングでこの間のランキング1位を獲得したというあの曲を…4年生はやる事が素早いわねぇ。


うっ…うっ…うっ…


あっ!もう泣き出してる人もいるんだ。周りを見た感じだと、誰も泣いてる様子が無いから…卒業生かな?

あっ、いた。あの泣き方だと、もはや号泣よね。確かに、あの曲はいいわよね。私も、卒業するわけじゃないのに、泣きそうになるもの。


そして、私達5年生の番ね。あ"ぁー。うまく歌えるかしら?


♪~


「我々は、1つ下の身ながら、時に先輩を支え、また、様々な教えを仰ぎながら、横浜第八小学校の草創に関わって行きました。」

「時に厳しく、時に優しく、我々を導いて下さった先輩方とも、本日でお別れと思うと、非常に寂しく感じます。」

「次の時代の横八小、先輩方が築き上げた良き伝統は、我々が引き継ぎます。そして、しっかりと次の世代にバトンを渡します。」

「我々からは「Giving Word」(唄:滝岡鉄男と愉快な仲間)を歌い、先輩方のお祝いの歌とさせていただきます。」

この曲、小山先生が中学生の頃からあるのよね。ただ、今聞いても古っぽさがない名曲なのよね。だから私達も気軽に歌えたわ。



「♪~生きてるうちはーつらいこともあるだろう、でもそういう時はー泣いてもいいさ、そしてーまた一歩すすめばいいー、涙はーいつか強さにかわあっていくさー」

良い曲だね。何と言うか、最近リリースされた曲かと思えるよなぁ。


「気を付けー!」

「「「「6年生の皆さん、どうもありがとうございました!」」」」


パチパチ…


長い拍手だな。保護者の方も大勢駆けつけてるって聞いたけど、本っ当に多いよなぁ。

この拍手、鳴り止むまで2分はかかった。そんなによかったのかな?1年生が言葉を発してからずっといたけど、今、始めて出たぞ。

「それでは、卒業生の言葉です。」


「宣誓、我々横浜第八小学校1期生は、今後更なる成長を果たし、社会に世界に活躍と貢献ができる人材となることを、ここに今日、卒業生全146名の署名と拇印を以て誓います。」

うぇっ!本物だ!変わった事が大好きな横八小らしさがここにもあるなぁ。普通の卒業式なら絶対無いぞ。

「羽ばたく準備、それはもう出来ております。我々は苦学に耐え、身を粉にして動き、努力を惜しまない、不惜身命の精神を心に刻んでおります。安心して、我々を見守ってください。」

「「「「頑張ります!!」」」」

おお!迫力あるなぁ。信じても良いぐらい、力強い言葉だなぁ。


「それではここで、卒業生が歌を歌います。今回は、卒業生が考えた、将来に向けた一言を、作曲家の秋山康夫さんが手掛けまして、今回の卒業ソングとなりました。」

秋山康夫さん!?ギャラクシースターズのプロデューサーじゃん!そりゃ周りだってざわつくよなぁ。どんな曲作ったんだろうって話になるよな。



「♪~ずーうっとー笑っていたいんだー、このーさきにーなにーがーあーってもー

ボクはーきみのためにー…」


 わぁ…やっぱり、秋山プロデューサーね。いかにも、ギャラクシースターズが歌いそうな楽曲ね。


♪~


 あれっ?何でまた6年生の卒業ソングがかかってるの?

「6年生の皆さん、ご卒業おめでとう!」

「俺とアツシ、横浜第八小学校の卒業生をお祝いしたくて来ちゃいました!」

 えっ!アツシさんにマサルさん!?いつも、ギャラクシースターズでセンターポジションを分かち合ってる2人がいる!?

「皆歌おう!」

「1,2,3,4!」

「♪~何度ー転んだーって、また起き上がればいいだろー、ボクらーはいつか本物(リーアールー)をこの手に掴むんだ」


キャーキャー!!


 す、すっごい事になってるわね!6年生の女子を中心に、皆が舞台前に駆け寄ってる!

「あきらちゃん!行くわよ!」

「えっ!絵美裡ちゃん!?」

 強引に絵美裡ちゃんに手を引っ張られた。

「ちょっと…僕も!?」

 って、トモくんも引っ張られてる!?


 絵美裡ちゃんのいつにない興奮により、何と一番前でアツシさんとマサルさんのパフォーマンスを見る事が出来た。ずーっと絵美裡ちゃんがワーワー騒いでたのは引いたけど。

「ありがとう!」

「愛してるぜ!」


キャー!!


「以上で卒業式第1部を終了します。第2部、卒業証書授与式は20分間の休憩を挟んだのち執り行います。また、サプライズゲストとして駆けつけて下さいました、前田アツシさんと大島マサルさん、本日はありがとうございました。この後お2人はテレビの収録がございます。そちらの方でもご活躍を皆で祈りつつ、お2人を拍手でお送りしたいと思います。」


パチパチ…


 手を振りながらアツシさんとマサルさんは横八小を後にした。



「第2部、卒業証書授与式を執り行います。」

 さっきまでの大騒ぎと打って変わって、第2部は厳かな雰囲気の中で始まった。


「1組、阿部正裕。阿波光希。安藤歩。安藤佳代子。安藤学。安東陵…」

 んっ?「あんどう」さんどんだけいるの?4人いたな。そもそもうちのクラス、苗字が一緒の人いないから、それだけでも珍しい事なのにな。


以上、1組、全36名。」

「2組、赤崎玖美子。飯嶋啓一。伊沢晴香…」

 今度は姐さんのクラスだ。玖美子さん、目元が潤んでるように見えたぞ。未練もなく卒業出来るって口では言ってたけど、やっぱり本心じゃないんだろうな。雰囲気とか、表情とか見ればある程度伝わっちゃうんだな。今、玖美子さんが立ってたあの舞台に、来年は僕が立つのか…。


 あっ!もうすぐ姐さんの出番だ!

「本田太郎。松本明来子…」

 姐さん!?うわぁ、ここ数年は姐さんの泣き顔、てか泣いてるとこ見た事無いぞ。ね、姐さん!証書で涙拭かないの!あっ、気付いた。何というか、非常にショッキングなシーンだな。そんなに、横八小去りたくないのかな?

 この後も僕が知ってる保体委員の先輩、同じスイミングスクールの先輩などが登場した。皆一様に、哀愁こもった顔してたな。


 証書授与は1時間かけて行われた。そして最後に、校長先生の挨拶があり、式は幕を閉じた。校長先生も、話の途中で泣いてたな。込み上げる物があったんだな。

「校長先生としても…うっ…すみません…校長先生としても、いや、一個人としても、この日が来ると、寂しさが込み上げ、非常に涙脆くなるのです。ここにいる卒業生一人一人の顔、絶対忘れません!またここに帰ってくる時は、立派に成長された皆様であって下さい!お願いします!」


パチパチ…


「以上をもちまして、横浜市立横浜第八小学校第一回卒業式を終了します。卒業生、退場。」

 終わっちゃったか。そして去りゆく卒業生のほとんどが泣いてる。てか、先導してる先生も号泣してる!すごいなぁ。非日常に見える学校を去るって事は、やっぱり各々思い入れがあるんだな。


 在校生も退場した後、自分達の教室に戻った。というのもこの後…

「卒業生がパレードをします。皆で出迎えてあげましょう。」

 そう、卒業生が廊下を歩いて、僕ら在校生に最後の挨拶をしに来るからだ。当然、姐さんもそこに入り込んでる訳だ。

 それにしても不思議だ。いつも、両極端な行動しかとれない姐さんが、常人と同じ行動をしてるなんて。こうなるなんて、何か不味い物でも食ったか、あるいは何かの幻覚を覚える薬でもやらなきゃ、ああいう風にならないのに。後者は犯罪者になるから無理として、前者の可能性が濃厚だろう。聞いてみたい!何を食えば、ハイブリッド姐さんになるのか…。


「さっ、もうすぐ卒業生が廊下この教室の廊下を通ります。最後の挨拶、きっちりと交わしましょう!」


ドタドタ…



 あっ来た!向こうから、大名行列の様に、卒業生が押し寄せて来た!

「きゃー!可愛い!」

 いきなり、誰かも分からない卒業生に抱きつかれた。その後も、名前も知らない卒業生に抱きつかれた。怖くなって震えてきたわ。あぁ…早く終わってぇ…


ぎゅっ


 えっ?今誰か、私の手を握ったかしら?

「あ、あの、森嶋さんが教えてくれたんだ。あきらちゃんが震えてるって。」

 その声はトモくん!?森嶋さんが教えたって?あっ、森嶋さん、私とトモくんに向かって親指立てた。ああやって、心の中で「してやったり…。」と言ってたりして。森嶋さんなりの画策だったりするかも…。


 トモくんが私の手を握ってから、知らない卒業生から抱きつかれる事はなくなった。幸い、男子から抱きつかれる事は無かったから、怖くて泣き出す事も無かった。

「あっ!トモくんのお姉さんじゃない?」

「あっ、本当だ。姐さん!」

 あれっ?ほとんど反応が無い。もう、憔悴してるような様子になってるわ。

「ね、姐さん、本当に何があったの?いつもの姐さんと違うから…」

「弟、その話はあとにしよう。ここじゃ言えない。」

 な、何かしら?ここでは言えないような、そんなに大事な事なのかな?

 その後もトモくんを始め、保体委員のメンバーは先輩にいろいろいじられながら挨拶を交わした。

 私も、その…先輩にくすぐられたり、もっとすごい人では胸を揉んできたりした。大胆で、全く周りの目を気にしてない様子だった。はぁ…大変だった…。


 そんなこんなで、私達は卒業生と最後の挨拶を交わし終えた。

「それじゃ、今日のところは、解散。また来年度の始業式に会いましょう!」

 小山先生の号令で私達は各々帰り支度をした。今日で5-2は終わって、今度は6-2になるんだ。大丈夫かしら?無事に過ごせるかな?



「ね、姐さん、それで、何で今日は元気無かったの?」

 いつもの保体委員の面子とあきらちゃんを入れて帰ってるところ、姐さんとその友達3人も加わった。あきらちゃん、敦子さんに胸揉まれながら歩いてる。「さかもと」さん同士だから、敦子さんがあきらちゃんに親近感湧かせちゃったんだろう。


「はぁ…かずまくん…。」

 なっ、何!?今、ここにいない人の名前挙げたよな!?

「んっ?誰?その、かずまくんって人。」

「1年生に「しながわかずま」くんって男の子がいるのよ。あの子に会う機会が減ると思うと、心が痛くなって…。」

「なぁん…えっ、もしかしてそれが理由で今日元気無かったの?」

「…そ、そうよ。何?お姉ちゃんが恋しちゃダメなの?

「こ、恋、して、る…ふ…ふ…、ふふっ…ふっ…。」

 だ、ダメだ。吹き笑いしそう…。どうやら僕の姉は、ショタコンだ…。

「何笑ってるよの!」

「だ、ダメだ…。アハハハハ…。ずーっと姐さんに心配してた僕がバカっぽく思えてきた…。」

「あんた、自嘲してどうすんのよ。」

「姐さん、ショタ?」

「ばっ、馬鹿じゃないの!?合意の上よ!あの子も「お姉ちゃん大好きー!」って言ったのよ!」

「あっ、明来子って、やっぱり付き合ってたんだ。」

「言ったじゃん、玖美子。しかも見せた…」

「おねーちゃーんー!」

「あっ!かずまー!」

 あっ、姐さん、走って「かずま」君の方に行っちゃった。もうー、本当に姐さんは、バカだなぁ。至って普通の小学1年生じゃん。どういう身分かは分からんけど。親が金持ちだったら、「普通」の文字の代わりに「大富豪」とか付くんだろうな。

 そんなこんなで、僕たちは家に着いた。


 帰宅後の我が家にかずまくんも来た。そのかずまくんにこっそりと

「あの姐さんはな、お腹を触ってやるとよろこぶぞ。」

と教えてやった。もちろん、姐さんには秘密だ。

すると…

「はぁ…んっ…!だめぇ…かずまくん…はぁ…。」

 エロっ!ヤバイな。かずまくんに悪知恵入れ込んじゃったかも…。とりあえず、知らんぷりしよっと!


ダッダッダッ…


 な、何だ?

「こらー!弟ー!かずまくんに何教え込んだー!」

 げっ!バレた!

 「僕は知らないよー!」



5年生編 END.

参照


(卒業式の楽曲)

http://columbia.jp/prod-info/COCE-35759-60/(アクセス日:2012/07/13)


(18サムライソルジャーズ「Road」のイメージ、参考にした曲)

http://www.youtube.com/watch?v=So1FKTPKN_w(アクセス日:2012/07/13)


(滝岡鉄男と愉快な仲間「Giving Word」のイメージ、参考にした曲)

http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&client=mv-google&v=Yue8U0lV8Bg&nomobile=1(アクセス日:2012/07/13)


(ギャラクシースターズと卒業生が歌った曲のイメージ、参考にした曲)

http://www.youtube.com/watch?v=SuhiIItERLo&hd=1(アクセス日:2012/07/14)

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