えっ、いいの?こんな事。/一緒に、ねっ…。
○
「やっぱり、今度はユーズドタイヤで走ってみた方がいいかな?ニュータイヤとのグリップ感の違いを探ったりできるだろうし。」
ある程度、どうやってカートを走らせるかはイメージが固まってる。
初日、他の子の走りを見てたり、イメトレは欠かすなと教え込まれたんで、それ以来毎日やってる。
でも、来週の予報じゃ、雨降るんだよなぁ。濡れた路面で、うまく乗れるかなぁ?
ぴーんぽーん
んっ?誰だろう?こんな夜中に家に用だなんて。今、家にいるのは僕だけ。もうじき2月に差し掛かろうとしてる時に、父は祖父と葉山へ2泊3日の男旅。母は仲の良い主婦友達とみなとみらいで食事、そして宿泊。姐さんは今日も入れて3週間も帰ってきてない!よって、僕が応接しなければならない状態だ。まったくー。必死こいてイメトレしてる時に家に来るなんて、どこのどいつだ?
ガチャ
「トーモくーん、来ちゃった。」
あっ。えっと…、その…、この子は…、間違い無いよね…。白いニット帽に、白いモコモコのジャケット羽織ってて、デニムのミニスカートの下に黒いタイツを穿いてる。けど、顔にかかってる赤いメガネは…。
「あきらちゃん!?どうしたの!?」
「ねぇ、トモくんの家に今晩泊まらせてくれるかな?」
「泊まらせてって言っても、今、家の中僕しかいないよ。」
「あら…。という事は今、トモくんのお家に入ったら、2人っきりってこと?」
「そうなるね。間違い無く…。まぁ、入って。」
「やった!あっ、お邪魔しまーす。」
玄関での立ち話じゃ、家の中も冷えるので、あきらちゃんを家の中に入れた。この後、何か起こりそうで恐ろしいんだが。
あきらちゃんも僕も夕食を済ませてたので、このあと何をやろうか迷ってたが…。
「トモくんは、いつも夕食が終わると何してるの?」
「部屋の中でレース雑誌読み漁ったり、テレビデオで録ってたレース観たり、たまにゲームやったりする。あきらちゃんは?」
「えっとね…、私は…。」
あっ!ヤバい!あきらちゃんのプライベートに踏み込んじゃった!?取り返しつかない事したかな?
「電話してる。毎日じゃないけど。気が付いたら、うちのクラスの女子全員としてて、びっくりしちゃった。」
「で、電話してるんだ。しかも、クラスの女子全員!?」
「うん。自覚はしてないんだけど、私、クラスの中でも1番人気があるみたいで、皆、電話してるときに口を揃えて「あきらちゃん、可愛いね。」って言うのよ。」
うん。よく聞いてるよ、そのフレーズ。他のクラスでも
「あの、阪本さんて女の子、可愛いよね。」
「私、女の子だけど、惚れちゃいそう。」
「最近、好きな男子がいるって噂もあるのよ。」
「えっ!?あの「男子は私の敵!」って言ってた阪本さんが!?」
てな流れで会話してたのが聞こえてたから。
それに学年をまたいで、姐さん(6-3)以外のクラス、仲野がいないクラス、何の接点もない4年生だって、あきらちゃんの話で持ちきりになることもしばしばある。その話には必ず「カレシらしき人がいる。」と会話する声も聞こえる。多分、僕の事か?
何だかんだでいろいろ話し合って、そろそろお風呂に入る時間になった。
「もうこんな時間か。風呂入らなきゃ。」
「いつもこの時間に入るの?」
「そう。日課にしてるんだ。入らなきゃ肌がベトベトしちゃって、気持ち悪くなるんだ。」
「確かに…。」
んっ?どうしたんだ?急に黙りこくって。あきらちゃん?
♡
どうしようかな?こんな事言うのって、女の子としてははしたないって思われるかな?だけど、このチャンスをみすみす逃したら、トモくんのお家に今晩だけ泊まりに来た意味がなくなっちゃうから…。
「あきらちゃん?もしもーし?きこえてますかー?」
「ふぇっ?大丈夫。聞こえてるわよ。」
「あぁ、良かった。」
「トモくん!お願いがあるんだけど!」
「ど、どしたの?そんな大声出して。」
「えっとね…。その…。このあと私が言うことに驚かない自信ある?」
「う、うん。多分。」
い、言おう…。言わなきゃ…。言うのよ!私!
「トモくんとお風呂に入りたいっ!」
「あぁ…い…、ええええええっ!!ちょっと!それ本気!?」
「う…うん。」
「わぁー!えっ、どうやって入るの!?そんな、男女で全裸になって…。」
「水着着るから大丈夫よ!」
「へっ?水着?」
「学校の水泳の授業で着るタイプだけど。」
「水着着るんだ。なら、よかったー。」
トモくん、のたりと倒れ込んじゃった。そりゃそうよ。小学生なんだもん。互いのは…ハダカ、見られちゃ困るもん。
「全裸で入ると思ってたなんて、トモくんのえっち!」
「すみません。」
「えへへ…。」
緊張したけど、お願いしてみてよかった。
「じゃあ、先入ってるから、準備が出来次第合図よろしく。」
「はーい。」
この日のために用意してよかった。水着着用だけど、トモくんとお風呂に入れるわ。楽しみなんだけど、どうしたらいいかな?お背中流してあげたりした方がいいかな?
さて、水着を着終わった事だし、1階のお風呂場に向かおう。
トントン
「トモくん、入るわよ。」
「はーい。」
トモくんが待ってるお風呂場に、あきら、行きまーす!
ガラガラ
○
わぁ。あきらちゃんの水着姿、冬に見れるなんて思わなかった。そして改めて見ると、あきらちゃんって、良い体つきしてると言うか、かなり発育が良い。
「お、お待たせ…。」
「あっ、メガネ、外したんだ。」
「外した。湯気で見えなくなるから。付けておいた方がよかった?」
「いや、ただ気になったから言っただけ。でも、ガラリと印象変わったね。なんだか、クールな感じになったね。」
「くーる?」
「んー、何があっても動じない感じだったり、それかカッコ良い感じがする人、という風に僕は見て取れるんだ。」
「クールって、こう、「cool」って書くから、何か涼しげな人に思われてるのかと思ったわ。」
「まぁ、それもあるかも。正直言うと、メガネかけてる時と比べて人相が違ってるようにも見えるんだ。まるで、別人になっちゃったんじゃないかな、って思うぐらい。」
うん、今の発言に嘘、偽りは無いぞ。思った事をそのまま言ってあげただけだ。そう言われて、あきらちゃん、満更でもない様子で嬉しそうにしてる。
♡
「それじゃ、体洗いっこしよっか。」
「私が先にトモくんの体洗っていいかな?」
「いいよ。よいしょっと。」
「わぁ、トモくんの背中ってすごいなぁ。」
「筋肉が隆起してたり?」
「そうね、肩から腰に向けて、逆三角形になってるような感じ。もしかしたら、トモくんの方がウエスト周り細かったりするかも。」
「えっ、そんなに?あんまし自覚してなかったんだけど。」
「女子の間では話題にもなってるわよ。「自分達のウエストとトモくんのウエスト、測ったらどっちが細い?」みたいな話も頻繁に出るわよ。」
「もし実際測って、僕が勝ってたら、その子らショックだろうなぁ。」
「そうね。意外と負けず嫌いな子達が多いのよね、ウチの女子は。」
「確かに、特にナナちゃんあたりを見てたら当てはまるね。」
トモくんとそうやって話してる間にも、私は準備をしてた。さて、ボディソープを泡立てたら…
「洗うね。」
「お、おぅ。」
ゴシゴシ…
「うわぁ~。トモくんの体って洗い甲斐があるわ。しっかり洗わなきゃ。」
「あら、そんなに労力使うんだ。ちょっとばかりビックリだよ。」
「大変だけど、やり甲斐があるわっ。」
こうしてると、いつものようにからかわれるけど、本当に夫婦っぽい…、ってやだぁ!自分でそう思ったら恥ずかしくなってきたじゃない!
ゴシッゴシッ…
「い…痛い痛い…。つ、強くなってるよ。」
「えっ?あっ!ごめんごめん。何か、考え事しちゃって。」
「えっ?何?何?あきらちゃんが思ってた事、ちょっと、言い当ててみてもいい?」
「いいわよ。」
「多分なんだけど、夫婦みたいだなぁ、って思った事?」
「…正解。」
「あっちゃー。僕もそう思ってたんだよなぁ。いろんな事するにしても、今、家の中にいるのは、あきらちゃんと僕だけだし、何にしても2人っきりって夫婦みたいじゃん、って思ってたんだよ。」
「ふふっ…。もぉ、そんなに夫婦って連呼しないでよ。」
「あら、ごめんね。」
「えっへへ…」
たまにトモくんって、私をビックリさせる事するから、あんまり油断できないのよね。でも、その時のドキドキ感が、私にとっていい刺激になるのよね。
ザパーン
トモくんの体に付いてた泡を流してあげて、はい、私のパートは終わり!あら、トモくんがいつもよりもサッパリしたように見えるわ。カッコイイ!
○
「次は、トモくんが私の体洗ってくれる番ね。」
「あぁ、そうだね。」
「んっ、ちょっと待って。このままじゃ体洗いにくいわね。私が「振り向いて良いわよ。」って言うまでこっち向いちゃダメよ。」
「ん?あぁ。」
またこのパターンか。「ちょっと待ってね。」っと言われると、必ず何かが起こるんだよなぁ。そのほとんどが、き…ん"ん"っ、Aだったもんなぁ。でも、この流れじゃ、Aに持っていくなんて変な感じがするし、何だろうな?
「トモくん。振り向いて良いわよ。」
あっ、やっと合図が出た。今回は何もなかった…
「っあー!」
な、何という光景なんだよ!思わず息を呑んじゃったじゃんか!
「僕を待たせてたのは、このためだったんだ!」
「う…うん。」
わわわわわわ…、どうしよう。ぼ、ぼ、僕には刺激が強過ぎるし、動転しそうだよ。だ、だって、あきらちゃんの背中が、僕の目の前で…あらわになってるよ。そのために、水着が半脱ぎになってるし、あきらちゃんの真向かいには、か、鏡があるし。む、胸のところ、あきらちゃんが手で隠してるけど、何かの拍子に全部見えてしまいそう。もう、興奮が止まらなくなってきてるよ!!
「トモくん?トモくん!?」
「はっ、ハイ!何でございまひょー?」
「早く体洗ってよ。風邪引いちゃうでしょ。」
「な、ご、ごめん。どれくらいの、ち、力加減でいいか分からないから、痛かったり、くすぐったかったりしたら言ってね。」
「うん。分かった。」
洗ってくれと頼まれたか。上手く出来るかな?何か、ボディソープを泡立てるてがぎこちなくなってる。んだって、あきらちゃんの、その、綺麗な背中を、ぼ、僕が洗うなんて、考えた事なかったもん!
や、ヤバい。手が震えてる。何だかもう、訳が分からない。けど、僕の手が、あきらちゃんの背中に近付いてる。なっ、何考えてるんだろ、僕は?体洗ってあげるだけじゃん。姐さんにだって、小さい頃よくやったじゃない。そんなに緊張する事ないじゃないか…
ごし…
「ひゃっ!」
うわあっ!何て声出すんだ!もうちょっと力入れて洗った方がいいかな?
ごし…ごし…
「はぁ…んっ…!と、トモくん。今ぐらいがちょうどいいわ。」
「わ、分かった。このまま続けるね。」
あぁ、どうしよう。あきらちゃんの息づかいが、風呂場に響いてるよ。
頼むから、隣に住む剛史、外出しててくれよ。でなきゃ、僕が投げかけられた噂の中で1番厄介な事になるから!
♡
あああっ…。トモくんが私の背中を洗ってる。くすぐったいけど、だんだんと気持ち良くなってきた。やっぱり、こういう風なこと、マッサージみたいな事って、トモくんは上手よね…。
そーっ
ひゃっ!肩甲骨のあたりを…洗われてる!んーっ!やっぱり、くすぐったいよー!
「んあっ!くすぐったい…。」
「もうちょっと強くした方がいいのかな?」
「いや、このままでいいの。だんだん慣れてくるから。」
「そう…。としたら、このまま続けるね。」
ごしごし…
ふーっ…。相変わらずくすぐったい。私から頼んでもらった事だから、今更引き返せないけど、他の人に体洗われるのって、すごくくすぐったいし、恥ずかしいなぁ…。
「…ねぇ、前々から思ってたんだけど、あきらちゃんって、くすぐられるの苦手?」
「うん…。だって、肌弱いもん。」
もしかして、今のは誘導尋問だったのかな?だとしたら…
「あーっ!そう言ったら、わざと力抜いて、全身がむず痒くなるような洗い方しようとしてるでしょ!?」
「やっべ、ばれたか。」
「もぉー!」
なーんてね。してくれてもいいんだけど、やり過ぎないようにね。
○
そりゃそうなるよな。女子にとって、あきらちゃんを弄らずにいられない存在なのが良く分かるよ。リアクションも含めて、全てが可愛らしく見える。そんな女の子なんて、少なくとも、神奈川県内探したって見つからないだろう。
あっ、あきらちゃんには黙っておいた方がいいかな?さっきから、脇のしたから横乳が見えてるんだが。あきらちゃんって、むね…、いや、敢えてこう呼ぼう、おっぱい大きいなぁ。スタイル良いし、女子にとってまた憧れる要素がいっぱいあるんだよなぁ…。
「と、トモくん?手が止まってるわよ。」
「あっ!悪りぃ!」
ごしごし…
やばいやばい、もしかして、さっき横乳を見てたのばれてたかな?
「トモくん、今、目が変だったわよ。」
「変って、どんな感じに?」
「きっと初めて見るんだけど、何かいやらしい事考えてたような目をしてた。私を見てナニを思ったの?正直に答えて。」
わぁー!きっと気づかれてるー!
「えっ…いやっ…その…。」
「答えによっては…拳が飛ぶかもね。へへへ…。」
「あー、ええと…。」
ま、マジでかよ!?正直に答えちゃったら、もう、パンチして下さいと言ってるのと同じじゃんか!あきらちゃんだって、僕が嘘ついてたら、仕草などで気付くぐらいに僕を知っちゃったし…。
「じゃ、じゃあ、言うぞ。」
「う、うん…。」
あー、殴られる。本当の事言ってしまえば。今まさにあきらちゃんの手で葬られるだろうな。
「あの…僕から見ると、あきらちゃんの…その…横からはみ出てる…胸が見えるんだ。言葉を濁さずに言うと、横乳が見えたんだ。」
さぁ、言ってしまったぞ。何が出るんだ?
「まぁ、それ、クラスの女子からも言われたわ…。」
んっ?殴らないのか?
「これ、男子にはまだ話してないんだけどね、更衣室の秘密話。いい?トモくんだから教えられるのよ。他言は禁止だからね。」
「う、うん。どんな話?」
「去年の6月の話なんだけど、体操着に着替える時、いつものように発育の話が出たんだけど…。」
♡
誰一人ブラを着用してなくて、着替えるに着替えにくい状況になっちゃって。もしかして、私って変なのかな?なんて思ってた時に、かなちゃんが…
「あれっ?どしたの?あきらちゃん。皆より着替え遅くない?」
「そう?なぜか今年に入って遅くなっちゃって…」
「いや、そんな事はないわ。今日は何だか様子が変よ。」
「えっ!?そうなの?私でも気付かなかった、あはは…。」
ひとまずそれでその場はやり過ごせたと思ったんだけど…
「あきらちゃん、ちょっとバンザイしてみて。」
「こ、こう?」
「はい、そのままね。」
ガシッ
「わあっ!何何…?なんで羽交い締めするの!?」
「森嶋さん、あきらちゃんのシャツめくって。」
「了解…。」
そう言って、森嶋さんが私が着てたシャツをめくったの。
ペラっ
「きゃあーー!!」
「あっ、ブラジャー着けてる…。」
森嶋さんの目が、いつになく見開いてたわ。次の瞬間には、森嶋さん、私の胸をわしづかみしてた。
「ひゃうっ!」
「大きいな…。」
「まぁ!誰よりも先にブラジャー着けるぐらいに大きくなるなんて!私らなんてまだフラットな状態なのにー!」
いつの間にか女子からは羨望と軽い嫉妬の目が私に向けられてて、気が付いたら皆に揉みくちゃにされてたわ。誰だったか覚えてないけど、ある女の子からは…
「阪本さーん!私も阪本さんみたいに胸大きくなりたいよー!」
と半泣きになりながら、胸揉んでたわ。私、好きこのんで大きくなった訳じゃないのになぁ。
○
「そんな感じでいつの間にか、私はクラスの女子の中でマスコットキャラみたいになってたわ。」
「だからあの時、体育が始まる前からもうぐったりしてたわけか。」
「うん。危うく対人恐怖症になるところだったわ。でも、かなちゃん達は悪気があってやってるわけじゃなかったから、許せたわ。」
「なんだか、その日以来、あきらちゃんの様子が、というか、クラスの女子の様子が変だったもんなぁ。」
まぁ、変と言うのは、その日以来、5-2以外のクラス、6年生も含めて「阪本さんが一番可愛い」との話が広まった事。当時の僕は、女の子に興味がないどころか、目もくれなかったので、気付きもしなかったけど。
男子でも
「阪本って、もしかして可愛いんじゃね?」
と話題になり、田山がストーカーまがいの調査をしたりなど、本当にあきらちゃんにとっては迷惑な1ヶ月を過ごした事だろう。
各々頭も洗い、一通り体を洗い終わったら、やっとの事で湯船に浸かる事が出来た。数年前まで姐さんと入った時は、窮屈に感じなかったけど、体が大きくなっちゃったのかなぁ?やけに湯船が狭く感じる。
「やっぱり狭いね。私、ママと一緒に入ってた時と同じ感覚で入ってみたんだけど、体が大きくなっちゃったんだなぁ、ってつくづく思うよ。」
「僕も。姐さんと…」
「お、お姉さんって、明来子さんとまだお風呂入ってるの!?」
「いや、数年前までよ。一緒に入ってたのはね。それに、姐さんは今も家に帰ってないし、一緒になんて無理があるもの。」
「そうよね。焦ったー。え、で、お姉さんと何だって?」
「僕もあきらちゃんと同じような事を思ってたの。体格的に痩せたと思ったんだけど、成長期に入ってるんだなぁなんて感じたんだ。もう、小さい頃の僕じゃないな、なんて思ったら、ちょっと寂しくなるなぁ。」
♡
わぁ…。トモくんの憂いを帯びた表情、初めて見た。そんなに、子供の頃の思い出が楽しかったのかなぁ。かく言う私は、幼稚園の頃から、何故か楽しい思い出がなかなか残らなくて、辛い思いばかりしてたのよねぇ。どれもこれも、浩一さんのせいに今なら出来るわ。
「トモくん、私は、今の方が楽しいわ。」
「えっ、それは…。」
「今まで誰かといて楽しいなぁ、なんて思った事ってごく稀だったんだけど、5年生になってから、これまでにないくらい楽しい思いをしてるの。そりゃ、たまには困る事だってあるわよ。でもね、そんな時でも、不思議と楽しい気持ちにさせてくれる、そんな人と出会えたの。」
「だっ、誰?」
「私の…私の、目の前にいる男の子。」
「あきらちゃんの目の前…僕じゃん!そんな、僕は…」
何か言いたそうな顔してたけど、そんなトモくんの口を、人差し指で止めた。
「いいの。何も言わなくても。トモくんは何もしてないようでも、私はトモくんを見てるだけで、ハッピーな気分になれるの。トモくん、ありがとう。トモくんは、私にとって特別な存在で、ある意味、命の恩人でもあるの。」
「それはどういう…」
「夏休み前に、頭痛になって保健室に駆け込んだ時、トモくんが、私が男子苦手だったのに適切な応対をしてくれたから、今も私は元気でいられる。そう思うと、もう、ありがとうを何回言ったって物足りないぐらい感謝してるの。」
「そうなんだ。」
「だから、こうして感謝の気持ちを表すのも変な気がするけど…。」
「う?うん。」
「トモくん…あきらを好きにして!」
「ふえっ!?」
あーっ!どうしよう!私ったら、はずか…
ザパーン!ボコボコ…
わあっ!トモくんが溺れてる!!助けなきゃ!!
○
「あ"あ"っ…。死ぬかと思ったわ。」
「ごめんね。変な事言っちゃって。」
良いんだけど、風呂場じゃなぁ。大声出されたら、周りにも聞こえちゃうんだよなぁ。
そう思いながらバスタオルで体を拭いてた。僕とあきらちゃんは背を向き合っている。後ろを振り向けば、何も身にまとっていないあきらちゃんがいるぞ。でも、振り向けられない。と言うか、振り向く度胸がないので、他の男子みたいな変態的行動がとれない。単純に、覗く事が出来ないだけなんだ…。
やっとパジャマに着替え終わった時、何となく僕の後ろの様子がおかしく感じた。
「んっしょ!…あーっ!どうしよう。上手くできなーい!」
なぜか着替えに手間取ってる様子のあきらちゃんの声が聞こえた。
「トモくん、私がいる方振り向いていいから、手伝ってくれる?」
「えっ?いいけど、どうしたの?」
そう言いながら振り向くと…。
「わあっ!ちょっと!あきらちゃん!ブラのホック、まだ外れたままだよ!」
「うん…。なぜか上手く付けられないのよ。トモくん、助けて~!」
「助けてって事はつまり、あきらちゃんが着けようとしてるブラのホックを付けてってことだよなぁ。」
「やーん!言わないでよー!恥ずかしいんだから!」
「あぁ、ごめん。でも、姐さんのでもやった事ないぞ。上手く出来るかな?」
「とにかくやってよ。でないと、寒くて風邪引いちゃうからぁ。」
や、やるか。きっと、後で大変な事になるだろうけど。
こうなってるんだ、ブラのホックって。そりゃ、細かいところに金具同士を留めるんだから、簡単な作業じゃないだろうなぁ。それにこのブラ、以前にも見た事あるような気がするんだが。確か、前回、家に泊まりにきた時、透け透けの白いブラウスの下に着てた。いや、もっと遡れば、あきらちゃんの腹部を触った時、森嶋さんが力入れすぎて見えちゃったブラと同じのだな。
いかん、また手が震えてる。ホックを手にとったはいいけど、別のところに金具が留まっちゃいそう。息も荒くなってる。
「やぁっ!トモくん、背中に息かかってるよ~。」
「あ、あぁ。落ち着こうにも、さっきから興奮しっぱなしで…」
「えっち。」
「悪いね。純情なんで…。」
と言ってる間に…
パチン
「あっ、やっと上が留まった。」
「下もお願い。」
「う…うん。」
下もか。知ってたけど、さっきより背中に触れながら付けなきゃならんのだから、下手にやると、あきらちゃんが声出しちゃうんだよなぁ。くすぐったくて。
「し、下、付けるよ。」
ぴとっ
「ひゃあ!ん"っ!」
声が出ちゃうのわかってて、あきらちゃん、自分で口を塞いでる。早く終わらせないと、我慢出来なくなって大声が出ちゃうな。何とかしないと…。
♡
やあっ、どうしよう。人にブラジャー付けてもらうのって、思ったよりくすぐったいなんて思わなかった。わざとトモくんに手伝ってって頼んで、後悔するなんてー。
「トモくん、まだ…ひゃあ!」
「もうちょっと、もうちょっとで留められるんだけど。ええい、手元が狂うー。」
パチン
「あっ!やった!付いたよ!」
「はぁ…はぁ…はぁ…。ありがとう…。」
どうしよう、頭がポーッとしそう。大変だったわ。
気が付いたら、私パジャマを着てた。あれっ?さっきまで私、トモくんにブラのホック留めてもらって…。
「トモくん、もしかして、私にパジャマ着せたのって、トモくんなの?」
「うん。あきらちゃんをソファーに座らせたら、自力でパジャマ着るの無理そうなぐらいボーッとしてたから、僕が着せてあげた。」
「あっ、ありがとう…。ねぇ、もしかして、私が意識遠のいてる間、何かしなかった?」
「何もしてないけど。」
おぉーっ!トモくんすごい!他の男子だったら、きっと今頃あんな事や、こんな事、とても私の口からは絶対に発せられない言葉でいたぶってる…
「んっ?あきらちゃん、顔赤いよ。」
「ふえっ!?な、な、なんで!?」
私が慌てふためいてたその時、私の額にトモくんの手が触れた。同時にトモくんも自分の手を額に触って体温を確かめてたわ。
「熱、じゃないね。熱にしてはまだ低いし、大丈夫だね。」
「う、うん。」
わ、わぁ。さりげなく、私の額を触るなんて、トモくんも腕を上げたわねぇ。
「あっ、でもこんな時間か。10時半回ってるわ。そろそろ寝る?」
「寝よっか。ねぇ、またトモくんのベッドで寝たいなぁ。」
「あ、あぁ。いいよ。」
やった!トモくんと一緒に寝れるなんて、こんなに幸せな事はないわ!わぁー、今から楽しみー!
「はい、相変わらず僕の趣味ばっかりの部屋にようこそ。」
トモくんの部屋にも久しぶりに入ったわ。「またF1カーのプラモデルを部屋に飾ってるのかな?」と思ったら、街中で走ってるようなスポーツカーをレース用に改造したもの。グループCカーという特殊なレーシングカー。F1カーと思ったら「全日本F3000」に出てくるフォーミュラカーだったり、以前と比べて多種多様な車が飾られてあった。
「F1ばかりじゃないんだね。」
「そうだね。ちょっと前まではF1ばかり見てたけど、カート始めてから、いろんなレースに興味持ったんだ。「JSPC/WSPC(全日本スポーツプロトタイプ選手権/世界スポーツプロトタイプ選手権)」「JTC(全日本ツーリングカー選手権)」「全日本F3000」に、いろんな国で開催されてる「F3」も見てるんだ。そうそう、日本人出てないけども「インディカー」だって見てるよ。」
「え?もう何が何やら分からなくなったわ。とりあえず思ったのが、フォーミュラレースだけでも沢山あるって事かな。」
「そうそう!とにかくいっぱいあるから、とにかく時間が足りないんだぁ…。」
トモくん、いつもよりもかなり輝いてるわね。目をギラギラさせながら私に語りかけてる。そう言えば、トモくんって、憧れの人っているのかな?やっぱり、レーサーの名前を挙げるのかな?
「ねぇ、トモくんって、誰か憧れてる人っている?」
「好きな人?」
なっ!?どう聞き間違えてるのよ!
「憧れてる人!」
「あぁ、そっか。いるよ。レーサーで2人。アルトーン・ゼーナ(※1)と、まつもとともひこさん」
えっ?「まつもとともひこさん」って、何でトモくん、自分の名前にさん付けしたんだろう?
「んっ?もう一人って、自分の事?」
「いや、F1ドライバーの方だよ。」
あっ、そうか。F1レーサーの方ね。
トモくんが答え終わると立ち上がって、1冊の雑誌を取り出して、私に見せた。なるほど、漢字にすると、全くの別人なのね。
「この人。まだ30歳になってないんだよ。」
「あらぁ。随分と濃い顔立ちなのねぇ、こっちの「松元友彦」さんは。」
なるほど、この人なんだ。トモくんと同じ名前のレーサーの方って。
また別のページだと
「マクレレーンってチームにいたんだ。」
「そうだね。松元さんがマクレレーンにいた3年間、日本GPで必ず勝ってたんだ。」
「おぉ!凄いわね!やっぱり、母国で勝てるなんてなかなかできない事じゃない?」
「母国でレースが開催されないと嘆いてるドライバーもいるからね。横にいるゼーナ選手は、8回目の母国GPでやっと勝てたぐらいだから、そりゃ難しい事だよ。」
「黄色いヘルメットを手にとってる人?」
「そう。それに…」
さっき「寝ようか。」と言ってたトモくんだったのに、レースの話になると、何だかヒートアップしちゃったみたい。もう「今日は寝かせないぞ!」とまくし立てるが如く、F1をはじめいろんなレースの話をしてくれた。
気が付いたら、11時半を回ってた。ちょっと眠気が差してきた時だった…。そんな私を見て、トモくんが何かに気付いたように時計を見た。
「えっ!?もうこんな時間!?わぁ~、本当ゴメン!もう寝たいよね?」
「う、うん。トモくんの話、もうちょっと聞いてたいけど…。」
「あちゃー。またやっちゃったよ。僕って、一つの事に没頭すると時間を忘れがちになっちゃうなぁ。」
「誰だってそうよ。何か楽しい事をすると、時が経つのが早く感じるもの。」
少々反省気味のトモくんをなだめながらも、トモくんのマニアぶりにも目を見張るものがあったから、私も思わず聞き入っちゃった。面白かったよ、トモくん。
○
あぁ、すぐ寝ようと思ったのに、あきらちゃんに僕の趣味について力を入れて話し込んじゃった。少しだけだけど、凹んでる。どうしたら許してくれるかな?そう布団の中で思ってた時だった。
ちょんちょん
「んっ?あきらちゃん、どうしたの?」
「トモくん、私の方を向いてくれるかな?」
えっ!?なんで?確か、女の子は自分の寝顔を見られたくないとか、どこかでその話を聞いた事があるんだが、どうしたんだろう?何か訳があるんだろうか?あったとしても後で話してもらうとして、寝返ってみよう。
ゴロン
「向いたよ。」
「よかった。トモくんの顔が見れて。」
「え、いいの?何かの拍子に、あきらちゃんの寝顔を僕に見られるかもしれないよ。」
「トモくんなら、いいよ。他の男には絶対見せたくないし。」
お、おお。こんな事もなかなかないかも。あきらちゃんと向き合って寝れるなんて。以前泊まりに来た時は、あきらちゃんに背を向けて寝てたから、一回もあきらちゃんの寝顔を見れなかったんだよなぁ。
どうしよう。この状態で僕がもし、剛史や田山だったら、確実にあきらちゃんの寝込んだのを見計らって、いろんなとこを触りまくってるだろうな。どうしよう!理性がどこかに飛びそうになるー!
「ね、ねぇ、あきらちゃ…ん?あきらちゃん?」
すー…すー…
ね、寝ちゃったのか?そう言えば、さっきより僕に近付いてるような気がするんだが。ちょっと、掛け布団をめくってみよう。
ペラっ
「すー…すー…」
う、うわぁ!超可愛い!あどけなさ過ぎるよ!ど、どうしよう。僕、このまま寝ようと思ったんだけど、この寝顔、ずっと見てたい。
んっ?寝てるのか?本当にどうしよう。見てるだけじゃ、物足りない気がしてきた。
ふーっ
耳に息吹きかけてみた。起きてる時は
「ひゃうっ!」
って言って、くすぐったがる仕草を見せるんだよなぁ。
「う…ん…。」
あっ!やべぇ!起きるか?
「そぅですょ…。豆腐をご飯にかけると、美味しくなるんですょ…。すー…」
寝言?なんでご飯ものなんだ?そりゃ、確かに旨いけど。
まだ、寝てるのかな?じゃあ、今度は…
ぷにっ
頬を指で突ついてみた。柔らかいなぁ。それに、肌触りも良い…
「$£#£€…」
うぇっ!今度こそ起きるか!?
「ごにょごにょ…」
何だって?
「アンニョンハセヨ…。ナヌンイルボンサランイムニダ…。」
えっ?何だろう?この聞き慣れない言語は?
「サランヘヨー…。すー…」
さらんへよ?…あっ、韓国語だな。サランヘヨって、たまにお母さんの友人が言ってる。韓国のドラマ大好きだとか言ってたっけ、その人。
ちょっと面白くなってきたな。よし、今度は…、下いってみるか。
手を布団にもぐらせて、この辺かな?
ぴとっ
「すー…すー…」
あらっ?無反応?ウエスト周り、脇腹を触ってるぞ。パジャマの上からだけど。
これでも寝てるって事は、この下も、触ったって大丈夫だろうな。
さわさわ
あきらちゃん、僕の手があとちょっとで…あとちょっとで…ぁとちょっ…
ふぁーっ。あっ、もう7:40か。よく寝れたけど、いろいろドキドキしちゃったなぁ。あきらちゃ…ん、あらっ?何だか良い匂いがする。どこからなんだろう?それに、なぜか右手に柔らかい感触がある…、って、あーーっ!!もしかしてこの感触は…。
ふにっ
「ふうっ!」
あー!やっぱり!昨日、あきらちゃんが僕と寝たんだ!そして、今この手に伝った感触は…きっと…。
さわさわ
「ひゃあっ!と、トモくん、ダメだって…。ここはハチ公前、屋外だよ。」
どういう夢見てるんだ?てか、今触ってたのって、あきらちゃんのお尻だ!わわわ…、やべぇ!離さなきゃ!
ふぅ…。大変な事に…んっ?なんか首の後ろも変だなぁ。
ぴとっ
これは、手だな。手…、あきらちゃんの手だ!もしかして、僕が寝てる時に、あきらちゃんの腕を枕代わりに…なんて事してしまったんだ…。てか左腕が上がら…ん。左腕にあきらちゃんの頭が乗ってたんだ!ああっ、耳の感触もある。可愛らし…
ピーンポーン
えっ!?誰?こんな朝早くからウチに用なんて。とりあえず、ゆっくり、あきらちゃんを起こさないようにして…
よし。ベッドから起き上がったぞ。階段降りて、誰が来たか確認しよう。
ギーッ
ドアを開けたら…
「ただいま。ごめんね、お姉ちゃん取り乱しちゃって。」
ぐえ"ーっ!!姐さん!!帰って来たのか!何と言う bad timing!
「お…お帰り。生きてたんだ。」
「まぁ、連絡よこさなかったからね。んっ?おやおや?トモくん、何かオドオドしてるようだけど?」
「へっ?いや…ナンでもナイヨ。」
「嘘おっしゃい。さては、お姉ちゃんに隠し事でもあるんでしょ。」
「な、な、ナンのコトかナ?」
「ほれ、もう言語がカタコトになってる。」
そう言い終わると一目散に階段を駆け上がり、荷物整理もそこそこに…
「トモくん、久々にトモくんの部屋に入るわよー。」
「いやいや…、そりゃマズいんじゃないかナ?」
「何でよ?姉弟なんだから、その辺のプライバシーは無いに等しいじゃない。と言うわけで、あじゃましまー!」
「ああっ!姐さん!」
しまったぁ!こうなるなら、玄関ドア開けるんじゃなかったー!
スーッ
「およっ?誰か寝てるわね。ちょっと、布団めくるよ。」
「いやいやいや…それは…」
バサッ
「あっ、あきらちゃんだ。例の妻と寝てたのね~。」
「あのなぁ。僕らの年齢で、今役所に行って婚姻届を出そうとしても「法律上、まだ出来ないからね。お坊ちゃん、お嬢ちゃん。」って言われて押し返されるだけだぞ。…って、姐さん!?」
あっ、ちょっと、何やってるの!?姐さん!
スリスリ…
「う…ん…はぁっ…ダメだって…トモくん…ハァ…ハァ…」
「あら。寝てる時でも感度良いのね。ふふふふ…」
姐さん、あろう事か、寝ている最中のあきらちゃんのお尻触ってる!いや、これは、まさぐってるのか?あらら…。これ、男子がやるんだったら寝込みを襲いたくなる理由がわかるけど、女子である姐さんが僕より先に襲うなんて。考えてる事がよく分からんわ。
「トモくん…ハァハァ…思ったより…指細いわね…あれっ?あれっ?」
突然あきらちゃんが起き上がった!ビックリするよ…
「あっ、トモくん、明来子さん、おはようございます。」
「おはよう…。」
「おはよう。目覚めはどう?」
「あっ、あの、トモくんが私のお尻触ってる夢を見ながら目が覚めました。何か妙に興奮してます。」
「あぁ、やっぱりね。こらこら、トモくん、何女の子の寝込み襲ってるのよ。」
僕のせいか?
「や、やだぁ。トモくんったら…。」
だぁー、違うって!あきらちゃん!
「あのなぁ、今のは姐さんがやってたの、僕はこの目で見たんだぞ。」
「まぁ、お姉ちゃんのせいにするなんて!」
「事実を言ったんだよぉ~!!」
頼むからあきらちゃん、信じてくれよ。僕は嘘ついてないぞ。
「んっ、ふふふ…。」
えっ?笑った?あきらちゃん?
「トモくん、明来子さんといつもこんな感じなの?」
「ん?あぁ。せわしくて大変だよ。」
「私の台詞!」
「はいはい…。」
♡
ふふふっ。トモくんと明来子さんって、中々良いコンビね。姉弟だからなのもあるけど。ウチは、一人っ子だから、何だかトモくんが羨ましいわ、本当に。明来子さんみたいなお姉さんは…ちょっと、ね…。
「まっ、何にしても、あきらちゃんの夢の中でトモくんがお尻触ったんだから、ちゃんと謝りなさいよ。」
そう言って明来子さんはトモくんの部屋を出た。
「不条理だなぁ。夢の中は自分でコントロール出来ないのに。」
あっ、また2人っきりになっちゃった。ここは、トモくんにちょっといたずらしてみようかな。
「…ねぇ、トモくん。さっき、明来子さんが言ってた事って…。」
と、恥じらった仕草をしながら話してみた。
「えっ、あっ…。その…。ほとんど姐さんの戯言だよ。ん、だけど…。」
「えっ!?まさか、トモくん…」
「実はさ…、僕もベッドで寝てる時…、触っちゃったんだ…。」
「そうなんだ…。だから今も、私のお尻の左側に、ムニッて揉まれたような感触があるんだけど。」
と言って、ちょっとトモくんをにらんでみた。
「あぁ…、きっと…、それは…僕がやった時の…かも。」
○
カミングアウト、終わったぞ。年齢が年齢なら、僕、警察に御用になってるだろうな。
あっ!あきらちゃんの目が何か違う!あの目は…、自分が辱めに遭った時、辱めた相手を思いっきり殴打する時の目だ!
ヤバい!ひょっとして、今日、僕の命日になるのかな…。
顔が怖いぞ、あきらちゃん。心なしか、メガネが光で反射されて、どんな目つきしてるか見えないんだが。
近付いてきた!確実に殺られる!ヤッバイ!
んっ?何で横に並んだ?
う"っ!肘で突つくのか?左肘で思いっきり腹部を突くべく用意してる!あ"ー、怖えー!来るぞー!
ちょんちょん…
っれっ?何か優しいぞ。あらら?
「えっちぃ。」
「わざとじゃないって。結果、そうなったんだから。でも、ごめん。嫌だったよね?」
やっちまっ…
「えへへ…よかった。トモくんも男の子っぽいところあるんだね。」
「男の子っぽい?」
「その…、女の子にちょっかい出したがるところ。トモくん、昨晩私の耳に息吹きかけたり、ほっぺた突ついたでしょ?」
「え"っ!?起きてたの?てか、寝たふり!?」
「そう!寝たふりしてたの~。寝言も、あの時とっさに考えたのだから、どこかで寝たふりしてるの気付くと思ってたんだけど。」
あ"ーやられたー!気づけなかったなぁ。
それにしても、寝たふり上手かったなぁ。あきらちゃん。
♡
やったやった!イタズラ大成功!一時的に貸してる部屋の中で、悦に浸っていたところ…
ムニッ
「ふえっ!?やーめーてーよー!胸揉まないで…あれっ?トモくん、思ったより腕細いね。」
「んっ?弟がどうかした?」
「あ"っ、この声は…」
明来子さんだー!トモくんと思ったら!
「弟を弄るのは私の前からの仕事なのー!ん"ー、いい感じに発育してるこのおっぱいが許せなーい!」
「明来子さん、分かりましたから、胸を揉むのやめて下さい!」
「もっと膨らんで、肩凝ってしまえー!」
「明来子さーん!やーめーてー!トモくん助けてー!」
と叫んではみたものの、今の私はランジェリー姿で、とても人の目に触れると赤っ恥をかいてしまうような状況にいた。
「ちょっと待って、あきらちゃん!僕、ズボン履いてるとこ!」
トモくんの部屋から声が聞こえた。トモくんも、今は人前に出れるような格好じゃないのね。なぜか知らないけど、ホッとしたわ。
でも明来子さんが私の胸を…
「ん"ー、どうしたらあきらちゃんみたいに立派なおっぱいが手に入るんだろう?やっぱり、弟に頼んで揉んでもらった方がいいかな?」
「知りませんって!私も気が付いたらこうなってたんですよ!」
「なぁんでかしら?これって、女性ホルモンの影響かしら?」
「う~ん、よく分かりませんけど、多分それだと思います。」
「てことは…あきらちゃんは私が女子らしさが無いと言いたいのねー!」
「わぁー!ごめんなさい!ごめんなさい!」
明来子さん、いつまで私の胸揉み続けるんだろう?これじゃ、着替えられないわよー。そう思っていた時だった。
トントン
「あきらちゃん、入っていい?」
トモくんの声がした。だけど、私未だに下着姿なのよね~。うーん、でも、そんな事言ってられないもん。明来子さんがずっと私の胸揉んでるんだもの。
ここは恥を忍んで…
「い…、いいわよ。」
サーッ
「あっ…。」
ダッダッダッ…
えっ、どうしたの?トモくん、どこかに走って行っちゃった。もぉ!明来子さんに私ずーっと胸揉まれっぱなしなのにー!意識が飛んじゃう!
「どーする?もしトモくんが…」
パコーン
んっ?何の音?
「痛ーい!何するのよ!」
「こっちのセリフだよ!ナニしてるんだよ!」
急に明来子さんの手が止まって、トモくんがいる方を向いた。トモくんの手には「TOYOHASHI(※2)」の文字とロゴマークが書かれた青と白のメガホンを持ってた。
「ひどーい!女の子の頭を叩くなんて!」
「セクハラすなー!姐さんの方がもっとひでーよ!」
あっ、部屋から松本姉弟が出ていった。
「もゔ!トモくんのバカー!」
「帰ってきたばっかりで悪かったけどよ、姐さんが男だったら補導されてるとこだぞー!」
さっ、姉弟やりあってる間に、私は下着以外身にまとってなかった衣装を着ようっと。
シャツのボタンを留めて、あっ、上から1つだけ外してもいいわよね…。んー、もう一つ外そう…。あっ、胸元が見えてセクシーになっちゃった。このままでいいっか。
それとチェック柄のミニのプリーツスカートに、この間麻耶ちゃんに買ってもらったソックス…あら?思ったより長いわね、脚を覆うところが。
あっ!こうなってるんだ!太ももまでいくんだぁ!まぁ、不思議とセクシーさが引き立つファッションになっちゃったわね。温かい、このソックス。
ダッダッダッ…
「あきらちゃん…はぁ…大丈夫だったか?…はぁ…。」
「さっき…はぁ…はぁ…は…ごめん…はぁ…はぁ…。」
どれだけ家の中で暴れ回ってたんだろう?姉弟揃って息切らせてるわ。
○
やっぱり家の中走り回るんじゃなかった。姐さんが思ったよりご乱心されてて、何かと説得するのに言葉が途切れ途切れになっちゃったなぁ。
あっ、見たところ、あきらちゃんは着替え終わったみたいだなぁ。着替え…!?んっ?僕が姐さんの頭をメガホンで叩いた時、あきらちゃん、下着姿だった!?わぁ!姐さんばかりに目を向けてたから、あきらちゃん見れなかったー!
「あきらちゃ…ん…、わぁ、可愛いな。その服装、似合ってるよ。」
あらっ?何と言うか、あきらちゃんの格好が、どこかの高校の制服を着崩したような感じに見える。でも、清楚な感じがある。
「うふふ…ありがと。」
あ、いや、スカートめくらなくったっていいんだよ。どこかの王族のお姫様みたいに。
「んふふふふ…あら~、可愛いじゃないのぉ、あきらちゃん…はぁ…はぁ…」
姐さん危ない奴になってる!とりあえず閉めなきゃ。
サッ…
「待って!トモくんだけ、入っていいわよ。」
「ぶー。トモくんだけいいなぁ。」
物悲しそうに自分の部屋に戻る姐さん。そして、なぜか僕だけを呼んだあきらちゃん。どうしたんだろう?
「ね、ねぇ。さっき、この部屋入った時、私の…その…見なかった?」
「見なかったって、何か探してるの?」
「そうじゃなくて…、だから、私が言うと恥ずかしくなるから、察してよ。」
探しものじゃない?…あっ!さっきちょっとだけ思い出したけど、あきらちゃんが着替えてる時、あきらちゃんの下着姿を見たんじゃないかって思ってたのかなぁ?だとしたら、こう答えよう。
「見てないよ。姐さんとあきらちゃんを離そうと必死になってたから。」
「ほ、本当よね?本当に見てない?」
「あぁ、色も覚えてもないよ。」
♡
よかったー。見られてなかったんだ。って言っても、ブラジャーは結構見られてるから、その下のは見られたら困るのよ。なぜか。
(下は黒地に白の水玉模様)
「一応当てていい?僕が何を見たか確認したかったか。」
「い…言わなくてもいいって!もぉー、えっちなんだからー!」
「ははっ。そうだよね。それにしても、あきらちゃんが昨日ここに泊まりに来てから、あきらちゃんから何度か「エッチ!」って言われてるような気がする。」
「気のせいなんかじゃないわ。何だか、学校にいる時のトモくんとまた違う人で、以前家に泊まった時と比べても、またトモくんが変わったように見えるわ。」
「うーん。僕気がつかなかったわ。また、変わってたのか。…もしかすると、僕の潜在意識の中で、あきらちゃんをどこかで思ってたりするのかな?僕もどうなってるかよく分からないんだけど。」
わ、私を思ってるって言った?私も、実はトモくんを想ってたりするのよ。
「トモくん、もしかして…。」
「まぁ、それは…んっ?あっ、ちょっと失礼。」
何か大事なことを言いかけてたけど、あとちょっとで言えず、部屋の出入り口に向かってる。どうしたんだろう?
サーッ
ドーン
「なーに覗いてんだよ姐さん!」
「う"ー。だって、トモくん、一つ年上のお姉ちゃんを差し置いて、先に恋人作っちゃったんだから。」
「なっ…。」
いやぁ、そこは否定してもいいのよ、トモくん。
「それ気にするんだったら、彼氏出来ないの…姐さんの性格のせいじゃないかな?」
「くーっ!生意気な弟!」
アハハハハ…!端から見ると、愉快というかおもしろ姉弟に見えるわ。当事者からすると大変なんでしょうけど。ウチも、妹がいたらいいのに…。
「あっ、もう9時になったんだ!」
「あれっ?このあと何か予定でもあるの?」
「そうなの。麻耶ちゃんの家に行くの。」
「あぁ、だから荷物まとまってあるわけか。」
「うん。短い時間だったけど、お世話になったわ。ありがとね。」
5人組の男性アイドルグループの番組みたいだけど、感謝の印に…
「いやぁ、僕はそんな…」
チュッ
「あっ、また…、右頬にキス…。」
そう、しちゃった。
「まっ、また!?またって言った!?トモくん!?」
あっ、確かに!本来なら「何バラしてるのよー!」って言った方が良いのかもしれないけど…。まぁ、でも、いいか。
「くーっ!私が知らない間に、弟はお姉ちゃんの先を行ってたのねー!」
「いや、姐さんが悪いって訳じゃないよ!もしかしたら、日本人には合わないだけで、ヨーロッパのあたりだったらモテモテだったりするかもしれないし。」
「んっ?今なんて言った?」
「だから、ヨーロッパあたりならモテるって。」
「明来子さん、私もそう思います。」
「…あぁ、やっぱり。クラスメイトにも言われて…、今度は弟とそのカノジョさんに言われて…。もう、日本人じゃ、ダメなのね…。」
あっ、私、明来子さんの傷口に塩塗っちゃったかも。
○
「まぁ、ヨーロッパ人はどちらかというと人懐っこいと言うか、気さくな感じだから、多分姐さんには合ってると思うよ。その人が年下なら尚更…」
「う"ん"、ぞう"よ"ね"!お姉ちゃん、大きくなったら、フランスに行く!」
「なぜにフランス?」
「深い理由は無いけど、女の子的には色々と憧れるものが多いから?」
そういう事か。確かに。そういう物が多いの、かな?
「と、トモくん、私はそろそろ…」
「あぁ、悪いね。また、泊まりに来てね。」
「ありがとう。また月曜会おうね!」
「あぁ、またね!」
ガタン
はぁ…、気が落ち着かなかっただろう、あきらちゃん。ごめんね。
「アラー、トモクーン、マタアキラチャンデテイッチャッタネ。」
どうでもいいが、なぜに外国人の話し方?
「1泊2日って最初っから分かってたから、さほどガッカリはしてないけど、でも、やっぱ寂しい…」
「オォー、トレビアーン、ムッシュー。」
「もしかして、フランス人になったつもりか?」
「ウィ。イエス。」
「なるほど…。」
よっぽど「フランス」って言葉が気に入ったみたいだな。それによく聞きゃ今の片言の日本語、今年度、横八小に赴任したフランス人の先生の口調に似てたなぁ。最後の「イエス。」は要らなかったけど。
さて、自分の部屋に戻ってカートの勉強しよう。
※1、人物名の元は「アイルトン・セナ」です。
※2、実名を挙げますと「TOYOTA」がそうです。