06
仙台公演を無事終えたあarkメンバーは市内のホテルへ向かっていた。
車内は進とリリスが相変わらず漫才をかますものだから随分賑やかで、未知はイヤホンとアイマスクを装備している。
後太は助手席でマネジャーと明日の福島にて行われるライブについて詳しく打ち合わせしているようだった。
歩夢というと窓ガラス越しに辺りの景色を見るだけで、ただホテルへの到着をひたすら待っている。
辺りは天気予報通りの雨で少々気分が盛り下がる。
しかも女性特有のアレの日のものだから特に。
気づいたのはライブ終了後で、衣装が白いものだからとにかくあせった。
なんとか衣装に染みなかったものの、下着は決して良い状態ではないわけで現在非常にブルーである。
ホテルに着いたら近くのコンビにでも寄ろう、そんなことを考えていると車が停止した。
「俺、コンビニ寄ってくわ。腹減ってさ。」
後太はそう言ってドアを開ける。
目の前はもちろんコンビニで歩夢も反射的にドアを開ける。
「俺も降りる。」
迷子にならないでね、と進が一声二人にかけると車はホテルへと発信していった。
「なるかバカ。こっからでもホテル見えるつーの。」
車を見送ると後太は苦笑いして言う。
歩夢も苦笑いして二人はコンビニへと入っていった。
よほど空腹だったのか後太はまっすぐに弁当のコーナーに向かったのはとても助かった。
おかげで下着と例のモノをすぐさま買い終えトイレへと向かうことができた。
トイレからでると次の利用者がいたようで向かい合うかたちになる。
「すみません」
そう一言かける。
そうして通り過ぎようとした瞬間だった。
小さな息を飲み込むような悲鳴と自分の名を呼ばれる。
「あ、あゆむ!」
ドキリとして振り返る。
そこにはどこか見覚えのある少女が立っていた。
小麦色の肌に金色の髪。
昨日のインストアに参加していた強烈なインパクトを残した二人の片割れだった。
「あ、たしかインストの時・・。」
記憶をフル回転させて歩夢は言う。
「え!覚えててくれてるとか!凄く感激です!」
少女は驚いて目を丸くする。頬は若干紅い。
「今日ライブ行きました!凄く良かったです。麻美・・あ、一緒にインスト行った子もよかったって!」
「そう。ありがとう!」
まさかの展開だったが歩夢は少女の言葉に嬉しさを感じその場に立ち止まる。
そして重大なことを忘れてしまっていた。
「・・!女子トイレ?」
少女の疑問に歩夢はドキリと肩を上げる。
しまった、と思ったときには時すでに遅く少女の表情はみるみるうちに歪んでいく。
「歩夢くん、女・・?」
その時だった。
後太がトイレへと入って来る。
「なんだ、ここにいたのか。どこにもいないから先に戻ったのかと思ったぞ、って・・。」
少女の存在と状況を察した後太は言葉をつぐむ。
「信じられない。所詮ファンだけど、私本気で好きだったのに。」
少女は目に涙をためて言う。
「こんなのひどい!」
そういって床に崩れ落ち泣き崩れた。
後太はことの重大さを察するとただ茫然とする歩夢に、ここを去るようにと目くばせする。
歩夢は後太に促されるまま、ドアを開けコンビニから勢いよく飛び出した。