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am 2:00
歩夢は都内の自宅にて大きくあくびをかいた。
メジャーデビューシングル発売四日前をきった今、arkメンバーは多忙に追われていた。
今日のところはメディア向けの取材の後、事務所にてポスターに永遠とサインを書くというなかなかの忍耐力を必要とする作業をなしとげ、歩夢の眠気はピークを迎えていた。
もちろん明日からも多忙は続き、シングル発売カウントダウンを記念としたライブが東京、大阪、名古屋と三日間行われる予定だ。
発売後からも多忙なスケジュールは変わらぬようで、当分の間は休暇の見込みはないようだった。
けれどその多忙さはミュージシャンとしての誇りでもあり不満を漏らすメンバーは歩夢を含め誰一人いなっかた。(未知はスケジュールを知ったっ時一瞬表情が青ざめたが。)
そんなこれから先の多忙さを見越した脳が自然と睡眠を求め今日何度目になるか知れないあくびを引き起こす。
歩夢は目を擦りテレビの液晶を見つめた。
画面はarkの今回のシングルのPV。
真っ白の背景に黒を基調とした衣装はメンバーの端整な顔立ちと髪のカラーを引きたたせている。
その中でも最も登場するシーンが多いのは必然とボーカルの自分だった。
黒髪をベースとした銀メッシュ混じりのセミショート。
服装、歌声から小奇麗な少年を思わせつつも、中性的な容姿から一目での性別の判断は難しい。
極力露出を抑えたファッションにトレードマークのスカーフやマフラーから、歩夢は常に新規のファンを悩ませた。
公式サイトにもメンバーの性別表記はなく、arkの検索ワードの上位には常に 歩夢 性別 の文字があった。
直接インストアなどで質問されればもちろん隠さず答えるのだが、せっかく男形を演じているのだからと敢えて全く触れないというのが暗黙の、けれど表向きの理由だった。
もちろん事務所もその話題性を読み、一切の公表もせずメディア側にも歩夢の性別に触れることを拒むようになっていった。
古くからのarkファンもそれに便乗し、敢えて新規ファンに性別を明かさないというちょっとしたからかいが(とくにネット内で)今ではお決まりのお遊びとすらなっている。
おかげか歩夢を一目見た女性はかっこいい、男性ならばもしかして女なのではないか、という期待を持ち惹かれる。
これが歩夢のファンになる者の多くのパターンだった。
そして結果的に歩夢は男女とも支持を得る特殊な存在となっていった。
けれどそれはあくまでもarkファンが自然と築きあげてくれた暗黙の、けれど表向きの理由。
歩夢は確かに、男であることに間違いはなかった。
歩夢はため息をついた。
これから知名度とともに、嬉しくもたくさんの新規のファンが増えるのは間違いなかった。
そして必ずしも避けては通れない性別への疑問。
それは歩夢にとってどちらの性別を答えようがなんとも後味の悪いものだった。
結局のところ、どちらも偽りでしかなく結果的にファンにも自分にも嘘をつくことになるからだ。
歩夢はため息をもう一度つき、いつか誓った言葉を頭の中でくりかえす。
性別を男と公表しないのは、メンバーのため・・・
性別を女と公表しないのは、自分自身を守るあがき・・・
そしていつか、
今の偽りをたった一つの真実にするのだと・・・
そう誓い歩夢は深い眠りへと誘われるのだった。