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アクシアエンネア  作者: 瀬。
海底撈月
2/2

1

 私は、デジタルの海で生きている。

 いや、私――汐雫(うしお しずく)は確かに十二年程生きている人間なのだけれど、であれども、私はデジタルの海で呼吸をしていると言っていい。間違いなく。疑いなく。紛れもなく。

 デジタルはいい。0と1だけで構築されたわかりやすい世界だ。そこには変則的な要素なんてなくて、組み上げたらその通りに、予測と観測の捗る世界。だから好き。だから泳いでいる。数字が私の酸素なのだと思う。

 だから、私の知らない酸素は怖い。

 だから私は、外には出られない。

 まるで引きこもりのニートのような文章になってしまったけれど、曲がりなりにもそれもまごうことなき事実だった。私が外に出ることは滅多にない。最近この建物から出たのは、二カ月前のことだったと思う。出た理由や用事はそんなに覚えていないけれど、スーツを着た大人が一緒にいたことは覚えている。

 そう――いつもそうだった。

 私が外に出るときは、黒い服の人達が一緒。この建物に入れたのも黒い人達で、外の世界では黒い人達は影のように私の周りを歩く。そこにレールでも敷かれているみたいに、私は決まって彼らが示す道を歩く。まるでペットのしつけのように、それは異常性を孕ませながらも違和感はなく、ただそうあるべきだという概念が私を動かしている。

 質素で、簡素で、面白みのないこの部屋を覆いつくすほどのモニターとコードと数字と無機質な温度もそう。魚が海の中で生きるのが当たり前みたいに、馬が草を食べるみたいに、私の部屋とはそういうもので、私の居場所はそういうもので出来ている。

 ああ、勘違いしないでいただきたいのは、なにも無理強いされているわけではない。元より私は、数字の羅列を泳ぐことが好きだった――好きだったと思う――好きであろうとした。いや、もしかしたらまたこれも、好きであるようにレールを敷かれていたのかもしれない。

 だから。

 でも。

 そう。

 私はまた潜る。潜る。潜る。潜る。

 数字の海に。モニターの向こうに。私の世界に。

 だって魚は陸では呼吸できないんだもの。


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