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賽は投げられた

(≧∀≦)

 陽の光が行き交う人々の頬に(いびつ)な長方形を描く。土臭い。目に違和感を覚えているのは、この村特有の砂埃のせいだ。自然の力のみで成り立っているこの村を我武者羅に守っているのは、「じゃがいも」。彼はただのじゃがいもだ。この街の犯罪は、彼が必ず裁く。彼はなぜあんなに正義感に満ちているのか、村人たちは不思議でならなかった。その答えは彼と、彼のテディベアだけが知っている。

 遡ること二年。あれは本当に奇妙な日だった。普段は漆黒の鴉も、あの日は虹色に光り、争いごとのひとつも起きなかった。

 年季の入ったオリーブの木でできたベッドには女性が一人。その女性は華奢で、蝋人形のように白く艶のある肌に、全人類をも誘惑するかのような魔性の雰囲気を帯びていた。彼女の美しさは筆舌に尽くしがたい。ただ一つ断言するのならば、巨乳。ただそれだけだ。その女性を囲むのは、彼女の息子であるじゃがいもと、右腕に縫われた跡のあるイギリス産のテディベア。少年は血の涙を流している。テディベアは意思を持っていない。女性が左手で優しく少年の頬を撫でた。彼女はシルクのネグリジェを身に纏っていたので、腕の形がよく見えた。今にも折れてしまいそうなほど細かった。そして、せせらぎのように澄んだ声で少年に語りかけた。

「悪を破滅へ導き、善を愛しなさい。またいつか、じゃがいも。」

あっけない別れだと感じられるが、幼い少年にとっては実の母親との大切な最後の瞬間となった。

 と、同時に少年は歪んだ正義感…いや、()()()()()()()と化したのだ。そして女は自身の魂を沈めた。

 たった五歳のじゃがいもは心に大きな傷を負いながらも必死に生きていた。早朝からテディベアと朝の支度をし、村の巡警。異変は一つ残らずじゃがいもの目に留まる。今日は村の売れないパン屋に泥棒が入ったという報告を受けた。右手に銃を、左手にはテディベアを持ち、じゃがいもはぷにぷにと走り出した。

 パン屋に着く前に、ジーパンに紺のパーカーを着た男がこちらに走ってきた。男は並ならぬ量の人参パンを抱えていたのですぐに犯人だと分かった。じゃがいもはにんじんが嫌いだった。だがそれよりも村の秩序が乱れることの方が嫌いらしい。じゃがいもは銃を構えて、なんの躊躇(ためら)いもなく男を撃った。少しだけ賑わっていた村の物音が一気に消えた。じゃがいもと男の周辺には大量の血が飛び散った。男は魂の自由を得た。じゃがいもは恐れていなかった。血が太陽の光に当たるとルビーのように見えるからだ。しかし、彼は俗に言うサイコパスではない。なぜなら彼の母親の一番のお気に入りのアクセサリーにルビーが付いていて、それと血を無自覚に重ねていたからだ。

 じゃがいもは、まだ三歳だった頃にテディベアと散歩へ出かけた。小さな芋は母が編んでくれた赤いマフラーを巻いていた。隣町ではクリスマスマーケットが開催されていて、彼はマシュマロが七個入ったホットチョコレートを買った。ほっぺの赤いくまの飾りがついた茶色いマグカップに注いでもらった。じゃがいもは、るんるんだった。右手にドリンクを持ち、左手はテディベアと堅く手を握っていた。彼はにっこにこだった。握った手を大きく揺らした。するとテディベアの右手はもげてしまった。じゃがいもはあまりの悲しさに、マグカップを手から離してしまった。右足に熱いホットチョコレートが溢れた。マグカップは大きな音を立てて割れた。とても熱かったが、悲しみの方が強かった。

 じゃがいもは、テディベアに自分のマフラーを巻いて、両手で大切に抱えて帰宅した。涙で頬が濡れた息子を見て、母親は驚いた。だが、壊れたテディベアを見て瞬時に状況を理解し、そっとじゃがいもを抱きしめた。女性の首に輝くルビーのネックレスが少年の頭を優しく撫でた。息子は氷のように冷たかった。母親はテディベアの右腕を胴体に縫い付けた。

 虹色の微風(そよかぜ)が軽やかに村を抱くしめた。じゃがいもは返り血の掃除をしてから、男の死体を細かく刻んで八回に分けてゴミ捨て場に運んだ。こんな生活を二年ほど続けている。生きることへの疑問を覚えることなく、自分から見て悪だとみなしたものは全て綺麗にする。ただそれだけだ。



(≧∀≦)

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