07.二つの私
昼休み、窓際に集まった友達と弁当を広げる。
笑い声が飛び交い、教室は賑やかだった。
「昨日の小テスト、やばかった〜!」
「数学むずすぎ。全然わかんないよ!」
友達が愚痴をこぼすと、みんなが「わかる〜!」と笑い合う。
陽咲も同じように笑顔を作り、相づちを打った。
──本当は、私も全然わからなかった。
──でも、それを素直に口にすることが怖い。
「陽咲は大丈夫でしょ?いつもできるし。」
ふいに友達からそう言われ、笑顔のまま返した。
「ううん、そんなことないよ。」
大丈夫じゃないのに、大丈夫に見られる。
本当は弱音を吐きたいのに、口をつぐんでしまう。
夜になると、レンのアカウントを開いた。
カケルとのやり取りは相変わらず続いている。
「今日の小テスト、無理ゲーすぎ」
打ち込んで送信すると、すぐに返事が返ってくる。
「分かる。俺も全滅コースw」
画面を見つめるうちに、肩の力が抜けていく。
レンなら言える。
学校では言えなかった弱音も、笑って返してくれる人がいる。
そのことが、ただ嬉しかった。
“レン”としての自分が素直になれるのに、
“陽咲”としての私は、なぜできないんだろう。
ベッドに横たわりながら、天井を見つめる。
──私って、どっちが本当なんだろう。
友達と笑う“陽咲”が本物なのか。
カケルに弱音をこぼす“レン”が本物なのか。
どちらも自分のはずなのに、二つの顔を持っていることが、少し怖くなった。
「……ずるいよね、私。」
小さくつぶやいた声は、誰にも届かない。
スマホの画面に映る文字だけが、唯一の答えだった。




