04.小さな秘密
カケルとのやり取りは、ますます自然になっていった。
話題は他愛もないものばかり。
勉強の愚痴や、テレビの話、ちょっとした日常の報告。
それだけなのに、通知が届くたび心が躍る。
けれど、そんなある夜。
ふと、これまで言葉にしなかった想いを口にしたくなった。
「最近友達といても、なんか心から笑えてない気がするんだよね」
こんな事、リアルの友達には絶対言えない。
“明るい陽咲“でいようとする私のイメージが壊れてしまうから。
でも“レン“としてなら言える。
顔を知らない相手だからこそ、心の奥をさらけ出せる。
既読がついて、少し間をおいて返信が届く。
「分かるかもしれない……。
俺も、友達の前だと気を使うことが多い」
思わず息をのんだ。
画面越しの相手が、自分と同じ空虚さを抱えていることに、心が揺れた。
その後、二人のやり取りは少し変わった。
愚痴や冗談だけでなく、誰にも言えないことを少しずつ話すようになった。
「俺、家だとほとんど一人なんだ。
親も遅くて、帰る頃には寝てる」
「私も。静かすぎて落ち着かない時ある」
画面の中のやり取りなのに、不思議と心が温まる。
一人だと思っていた気持ちが、二人になっただけで、こんなに軽くなるなんて。
次の日の昼休み。
窓際で友達と笑い合いながら弁当を広げても、昨日のやり取りが頭から離れなかった。
美鈴がふと尋ねる。
「陽咲って、いつも楽しそうだよね。悩みとか全然なさそう。」
「え、そうかな?」
「うん。なんか、太陽みたいで安心するんだよね。」
笑って返しながら、心がちくりと痛んだ。
本当の私は、そんなに強くない。
でも、そう思われることが、嬉しくもあり、少しだけ苦しかった。
その夜、布団にくるまって、またカケルにメッセージを送る。
「ねぇ、私たちって変だよね。
顔も声も知らないのに、こんなに色々話してる」
すぐに返事がきた。
「知らないから言えることもあるんだと思う。
レンだから話せる。俺だから聞ける」
名前だけの繋がり。
けれど、それは誰かに必要とされているという感覚をくれるものだった。
スマホを閉じ、暗闇の中で目を閉じる。
(カケルに出会えてよかった。)
そう思った時、心の片隅に小さな灯がともったような気がした。




