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03.名前だけの関係

カケルとのやり取りは、気づけば毎日の習慣になっていた。

朝、家を出る前

休み時間にふと

帰り道の電車の中

そして、眠る前の布団の中で。

たとえ短いやり取りでも、通知が光るだけで心が温かくなる。

友達と過ごす時間も、もちろん楽しい。

けれど、レンとしてカケルと繋がっている時間は、それとはまったく別の輝きを帯びていた。


「今日の授業、爆睡しかけた」

「わかる。私も歴史の年号が呪文みたいで頭に入らなかった」

くだらないやり取りのはずなのに、どうしてこんなに楽しいんだろう。

指が動くたびに、心が軽くなる。

けれど、ふと気づく瞬間もある。


私は、カケルの事を何ひとつ知らない。

名前以外、顔も学校も、声すらも。

それなのに、こんなに安心して言葉を交わせるなんて、不思議だ。


放課後、美鈴と七海に誘われて、駅前のカフェに立ち寄った。

新作スイーツを頼んで写真を撮り合い、SNSに上げる。友達との明るい時間は、やっぱり心地いい。

けれど、画面を閉じると頭のどこかで

(早くカケルから返事が来ないかな。)

と考えている自分に気づいた。


「陽咲?なんかボーッとしてない?」

「え? あ、ううん、大丈夫!」

慌てて笑顔を作ると、美鈴は首をかしげながらも話を続けた。

そのやり取りに笑いながらも、心の奥で罪悪感のような物が広がる。

友達と一緒にいるのに、私は別の誰かを待ってる。


その夜、机に向かってノートを開いたものの、ペンはほとんど進まない。

結局、スマホに手を伸ばしてしまう。

「今日、友達とカフェ行ったんだ。

 新作のスイーツ食べたんだけど、めっちゃ甘かった」

何気ない報告。それだけのはずなのに、送信ボタンを押すときは、心がざわつく。


数分後、通知が鳴った。

「いいな。うちの近くにはそういう店ない。

 写真とか撮った?」

「撮ったよ。ちょっと恥ずかしいけど」

指が止まる。写真を送るかどうか迷った。

ここで顔を見せるつもりはない。

でも、ケーキの写真くらいなら……。

けれど、結局アルバムを開くことはしなかった。


カケルは“レン“を見てくれている。

顔も学校も知らないからこそ、言葉だけで繋がれている。

もし写真を送ったら、この関係は変わってしまうのだろうか。


布団の中で、画面の光を見つめる。

名前だけで繋がっているからこそ安心できる。

でも同時に、知らないからこそ怖くもある。

カケルは、どんな顔をしているのだろう。

どんな声で、どんな毎日を過ごしているのだろう。


(会ってみたい。)

ふとそんな言葉が脳裏をよぎり、慌てて布団に潜り込んだ。

まだ早い。まだ名前しか知らない。

だけどその名前が、今の私を支えてくれている。

目を閉じても、画面に浮かぶ「カケル」という文字が、頭から離れなかった。

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