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東湖

 空高く雲を抜け、雲龍(うんりゅう)はまっすぐ東の方へ飛んでいた。

 少しして、目の前が真っ白に(かす)んできた。

「霧……かな」

 (たまき)がつぶやいた。

 (ゆう)雪輪兎(ゆきわうさぎ)を抱きしめたまま

「あたたかい……」

 と、小さな声で言った。

 霧を抜けていくと下に水面が見えてきた。

 大きな湖の上を飛んでいるようだ。

 すぐに、島が目の前に見えてきた。

 透き通るような水辺に小さな鳥の群れが飛んでいた。

 まるで湖に浮かぶこの島を守っているようだ。

(綺麗だ――)

 環は、絵画のような優しい色彩の景色に

 いつまでも見ていたいと思った。

 桟橋に佇む人の姿が見えた。

 薄色の薄手の着物を着た髪の長い男の人だった。

 雲龍は桟橋の上で止まると

 ゆっくりと下に降りて行った。

 環と悠は、雲龍の背中から桟橋の上に降りた。

 雲龍はくるりと回転すると、ポンッと守紋符(しゅもんふ)に変わった。

 悠は守紋符をポケットにしまった。

「環と悠だね。妹から聞いている。まずは兎の治療を」

 男の人は島の方へ向き、歩き出した。

 環と悠もその後ろをついて行った。

 少し歩いて行くと、木造でできた建物が三つ並んでいた。

 建物の向こうには湯気のようなものが立ち上がっているのが見えた。

 男の人は一番右の建物に入っていった。

 入ってすぐに岩で囲まれた露天風呂のようなところがあった。

 柱と壁で露天風呂を囲っているような木造の造りだった。

「傷をみせて」

 入って右側にあった木造の長い椅子に

 雪輪兎を寝かせるよう促す仕草をしながら、男の人が言った。

 悠はそっと雪輪兎を椅子の上に寝かせた。

 男の人はそっと竹の葉を動かし、傷の様子を見た。

「大丈夫だ。治療の呪文も一緒に施されているから傷はふさがっている」

 環も悠もほっとした顔をした。

 環も悠も、同時にあの一瞬で治療の呪文もできるなんて、

 守紋の力に改めて驚いていた。

「このお風呂は温泉だから、ここでしばらく養生させるといい。この建物は守紋専用の湯場(ゆば)だから大丈夫だ。それに外部からも結界で遮断されている」

「よかった……」

 悠が雪輪兎を撫でながらつぶやいた。

「彼女が様子を見るから安心して」

 男の人が環と悠の後ろの方に手を向けて言った。

「この湯場の守り人(まもりびと)だ」

「ここの泉質はとてもいいのよ。何千年もの昔、白鷺(しらさぎ)が傷を癒し、再び飛んでいくことができた伝説の温泉といわれているの。真ん中の建物は、ワタリビト用の湯場。左の建物は王族だけが入れる湯殿(ゆどの)なの。あなたたちも後で、真ん中の湯場に入ってみるといいわ」

 静かな優しい笑顔で話しかけてきた。

 悠が温泉のところまで行き、中に手を入れてみた。

「白いんだね。なんだか少しぬるっとした感じ」

「ふふふ。手を入れるだけでも気持ちいいでしょ」

 女の人はそっと雪輪兎を抱き上げた。

「私は(みお)。兎さんを少しの間、預からせていただくわね」

 そう言うと、入口の横にある部屋の方へ歩いていった。

「あ、まだ私の名前を言ってなかったね」

 男の人が環と悠の方を見た。

(りょう)伯父さん?」

 環がポケットから、牡丹蝶の守紋符を出して見せた。

「あぁ、私が君の伯父の亮だ」

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